表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/130

優しい調べは届かない22

 大森林の奥地、森猫族(フェーリス)の集落は、かつてないほどのざわめきに包まれていた。

 理由のひとつは火事だ。森は広大なため、そのうち食い止まるはずではあるが、集落まで及ばないとは限らない。拠点を移すべく、氏族の者たちが(せわ)しなく行き交っていた。

 もうひとつは、神剣を持った人間――つまりはクロムの氏族がやってきたことだ。それも、モアとプラムという森猫族(フェーリス)の者を連れて。

 族長は避難を優先しつつ、まずは怪我を負っているモアと、意識のないプラムを供回りに引き取らせる。


『ようこそ、お客人。……と、あまり歓待する事態でもない。そちらのお嬢さんは大丈夫かね?』


 神剣を持った若者へと声をかける。警戒心の強い目だ。(かたわ)らには少女がひとり、地面に寝かされている。


「そっちのチビと一緒で気絶してるだけだ。大したことはねーよ」


 族長が神妙にうなずいていると、背中にモアの叫ぶ声が届いた。


『族長! そいつは危険だ! 今のうちに始末するべきだ!』


 モアの勢いは手当てを振り切らんばかりだ。

 族長はエンネを呼びにやりながら、悠然と受け答える。


『……落ち着くのだ、モア。争う前に火事から逃れる方が先決だ』


『その火事を引き起こしたのがそいつだ! 焼き払われる前に殺し、ぐっ……!』


「うるせえ! 好きでやったわけじゃねえよ!」


 傷の痛みにうめくモアと、居丈高に怒鳴り返す進也とを、族長は交互に見やる。

 周囲の森猫族(フェーリス)たちも、火事の原因と聞かされては、心中は穏やかでない。

 ましてアルディシアが攻め込んできたという事実がある。モア同様、進也に対して敵意を剥き出しにしていた。

 族長がどう対処するか決めあぐねていると、エンネがモアの元へと駆けつけてきた。


『姉さん! 大丈夫!?』


『エンネ……! 私は平気だ。それより離れているんだ。近くにいたら、お前までプラムたちのように』


『……? あっ』


 エンネが神剣使いの二人を見やった。何やら複雑な表情で視線を送っている。

 若者からも、やや剣呑さが失せた目線が返る。

 その反応に、族長はエンネへと尋ねた。


『エンネ。お前は彼らを知っているのかね?』


『え、はい、あの……』


「そっちのドラ猫といい、よく会うな。狭い(せめー)森だ」


 エンネの言葉を後押しするように、若者も暗に肯定(こうてい)した。

 説明を聞くと、どうやら森でエンネを助けた者たちだったようだ。


『ふむ……今度はモアとプラムも助けられた、ということか』


「そこまでした覚えはねーよ。そのエンネとかいうガキも、俺が助けたわけじゃない。そっちのドラ猫に関しては、プラムってのを返す代わりに道案内させただけだ」


『……卑劣な奴め!』


『族長! モアの言う通り、此奴(こやつ)は始末すべきではっ?』


 忌々(いまいま)しげにモアが若者を(にら)んだ。同調して爪牙を構える氏族に対し、族長は手で制止する。


『一族の者が助けられたのだ。その恩を踏みにじる真似はすまい。だが……アルディシアが攻めてきた以上、信用するかどうかは別だ』


 族長は、あくまで厳正に判断しながら、改めて若者を見やる。


『悪いが我々はここを移る。何を目的で訪れたかは知らぬが、無駄足だったな。恩義に報いて、そちらが森の外に辿り着くまで手出しはさせぬと誓おう』


「そりゃどうもと言いたいところだが、あいにくこの場所に用はねえ。俺はあんたたちに聞きたいことがあってここまで来たんだ」


 族長は(まゆ)を吊り上げた。


『……手短に頼みたいところだが、一体何を?』


「女神を倒すには――神剣の呪いから逃れるにはどうすりゃいい?」


 射貫(いぬ)くように放たれた言葉に、族長はもちろん、他の森猫族(フェーリス)にも動揺が走った。


「……う、ん……ここは……?」


 どよめく声に意識を引き上げられてか、若者のそばの少女が目を開いた。

 それを見届けつつ、族長はモアたちを振り返る。


『……皆、遺跡へ向かう。他の氏族へも、使いを出してくれ』


『族長!?』


『ついてくるかね、来訪者よ』


 族長が尋ねると、起きたばかりの少女はきょとんとしていたが、若者の方が大きくうなずいてみせた。


『よろしい。では行こうか。始まりの場所へ』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ