優しい調べは届かない21
長い森の迷路を抜けて、夏美たちはようやくアルディシアへ戻ってきた。
いつ背後からジュノスの民や、炎が迫ってくるか気が気でない状況だったため、安堵はひときわ大きかった。
町に入ると兵団への迎えとは別に、パドネの使いが現れ、主人の元まで案内すると告げた。
夏美はこれに反駁した。
「……今度は何をさせようっていうの?」
『え?』
「本当のことは何も言わずに私たちを戦わせて……! 森の中で、また友達がいなくなったのよ! いい加減にしてよ! 私たちを家に帰してっ!」
叫びながら涙がこぼれる。生き残った友人たちも、夏美と同じような心境で表情を険しくしていた。
『そ、そう申されましても……』
パドネの部下は、困り果てた面持ちで言葉を探している。
夏美にも、これが無意味に当たり散らしているだけに過ぎないことは分かっている。誰に訴えたところで現状はどうにもならない。
それでも、感情を吐き出さずにはいられなかった。
『と、とにかく屋敷へ。皆様もお疲れでございましょう』
へりくだって務めを果たそうとする使いに、確かに疲労の大きい面々は、それ以上文句を告げる気力もなく、結局付き従うこととなった。
だが戻ったところでどうすればいいのか、と夏美は考える。
パドネにこれ以上協力する気にはなれない。だからと言って、森の惨状を見た後では、町を出て暮らしていくような決意は到底浮かばない。
悩みながら屋敷へ足を踏み入れたところで、夏美はつと神剣の共鳴に気が付く。
(……誰? 神剣器官じゃない、別の……)
「あ、ちょっと夏美っ?」
導かれるように、発信元を探しに向かう。他の生徒たちは疲労の極みにあり、追うこともできずに夏美を見送った。
早足で屋敷の中を巡り、やがて二人の人物を見つける。
凛とした雰囲気の少女と、気怠そうに目をこすっている少年。どちらも年上で、神剣を持っている。
何より、その格好は鹿沼の着ていた制服と同じだった。
向こうの少女がこちらに気付いて話しかけてくる。
「あなた……もしかして、私たちと同じ……?」
隣の少年も、喋りこそしないが、夏美を見てぽかんと口を開けている。
どうすればいいのか、何を言えばいいのか。混乱する中、頭に森でのやり取りがよみがえる。
――帰るために戦うのか。死なないためにここに留まり続けるのか。好きな方を取れよ。自分で決めろ。
天杉はそう言った。
――泣くのと同じくらい、怒っても現状は変わりませんよ。
皐月先輩はそう言った。
背中を押されるように、夏美は口を開いて、大きく声を発した。
「お願いします! 私たちを助けてください!」




