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優しい調べは届かない10

 町に戻った梨子がひとり通りを歩いていると、花貝(はながい)琉伽(るか)が声をかけて近寄ってきた。


「姫口、まーた怒られたんだって?」


「……うん、まあね」


 気の乗らない返事を口にするが、琉伽は意に介す様子もなく隣を歩いてくる。


「あんまり気にしない方がいいって。姫口の方が活躍してるように見えるから、単に嫉妬(しっと)してるだけさ」


「……そうかもね」


 琉伽の無遠慮な物言いに、表面上は肯定をしながらも、それが違うことを梨子は悟っていた。

 円花や先輩たちが叱りつけるのは、必死に梨子を学校の中へ(つな)ぎ止めようとしてくれているからだ。決して安い対抗心などではない。

 そもそも、梨子は己が、彼らにそんな感情を抱かせるほど力を持っているとは思わない。


「向こうで何か祭りの練習でさ、出し物があるみたいだから。ちょっと見に行こうぜ」


 琉伽は強引に梨子の手を引き、連れて行く。

 広場で複数の町娘が、統一された宗教服――梨子たちからすれば修道服と呼べるような格好で、踊りながら花を投げている。観客たちがそれを(はや)しながら花を受け取っている。


「お、これ、くれるんだ。女の子はやっぱり花だよなあ。ほら、姫口」


 琉伽が地面に落ちている一本を拾って差し出してくる。

 見覚えがあった。ストレーミアの花だ。王国の国花である。

 自分の名前と同じ、クチナシによく似た、進也に届けようと思って渡せなかった花――

 梨子は思わず顔を(そむ)けた。


「姫口? どうかし」


「……ごめん、やっぱり無理だ。ひとりにして」


 梨子は剣の能力を使い、姿ごと琉伽のそばから消失する。


「へっ、ちょっ……何だよ、それ!?」


 ひとり憤慨(ふんがい)する琉伽を、観客たちが怪訝(けげん)な表情で見ていた。




(やっぱりボクには無理だ)


 人目を避けて進みながら、梨子は先の魔物討伐を振り返る。


(ボクには、進也のようには戦えない。強くなれない)


 能力を使って真っ先に斬り込んだ。最前に立って数多く魔物を倒した。

 それでも、味方を奮い立たせるような効果は生まれなかった。むしろ逆に、皆を困らせただけだ。

 思い知った。自分の弱さを。こんなにもひとりでは無力なのだと。


(君がいないと、ボクには無理なんだ)


 何故、連れていってくれなかったのか。そのことで進也を憎もうともした。だがすぐ元の感情に戻った。


(弱いから置いていった? 連れていく価値がないから? どれだっていい。例え君にボクが必要なくても、ボクには君が必要なんだ)


 梨子は進也と過去に交わした会話を思い返す。

 まだ出会って間もない頃、尋ねてみたことがあった。


 ――どうしてあの時、ボクに声をかけたの?


 純粋に疑問だった。進也はおよそ人助けをしたがる性格ではない。実際振られて落ち込んでいた梨子に対してその後行なったのは、散々色んな場所へ連れ回して自分勝手に遊び倒すという、ただそれだけだった。

 こちらを(なぐさ)めるようなことは一切しなかったし、またそのような態度も見せなかった。当初は単におもちゃのように(もてあそ)ばれたのだと思ったものだ。


 ――気に食わなかったから。


 一体何が気に食わなかったのかは、(つい)ぞ教えてくれなかった。

 代わりに、というわけでもないだろうが「性別がどうのなんざ相手が口に出せなくなるよう魅力的に(面白く)なれ」と言い渡してきた。

 当時、気の沈んでいた梨子にとって、その言葉がどれほど救いになったか。

 また同時に、「今のお前は面白くない」と暗に言われたため、意地でも進也に面白いと口にさせようと決意した。

 結果として、ずっと彼のそばを付いて回り、そしてあのオークたちとの一戦において、言わせることには成功した。


 だが今はいない。ここに自分を奮い立たせてくれる相棒の存在はない。

 会わなければ。見つけなければ。そうしなければ、姫口梨子という人間は成り立たない。


(必ず、君にもう一度会ってみせる)


 思いを(つの)らせながら、梨子はルエン王女のいる城へと向かった。

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