優しい調べは届かない3
進也の視界に映ったのは、現代の制服を身にまとい、神剣を携えた少年と少女の二人組だった。
年齢はこちらより少し幼い。背後の子供獣人よりは年上だろうが、今はそこが問題ではなかった。
(別の連中? 同じように、この世界に連れて来られたのか?)
状況と疑問ばかりが加速していき、進也は一瞬動きが止まる。
その出遅れを突くように、女獣人が新手の二人へ向けて疾駆した。
慌てて進也は追走する。標的を変えたのならこちらが手出しする必要はないが、少年少女の出方は気になるところだ。
だが肝心の二人の様子をうかがって進也は瞠目する。
(こっちに気付いてねえ!)
少年少女は明後日の方を向いており、女獣人が下生えを踏み鳴らしながら接近し切ったところで、ようやく気が付いた。
手前にいた少年が、呆けたような表情のまま、女獣人に頭をつかまれる。そのまま、少女と進也から距離を取るように引き連れられたところで、無慈悲に首を捻られた。
鈍い音が森に響き渡る。
数瞬、進也は動揺して立ち止まる。少年の体はだらりと脱力し、女獣人が険しい表情でそれを投げ捨てた。同時に取り落ちた神剣が、空しくかすかに振動する。
少年が起き上がってくる気配はない。体内の熱が徐々に失われていくのが、否が応でも進也には伝わった。
(死んだ……いや、殺せた、神剣使いを)
女獣人が、今度は少女へ狙いを定めて動く。進也は戸惑ったままでいる少女の眼前に、自身も当惑しながら割り込む。
女獣人へ向け、薙ぎと振り下ろしを見舞う。剣のリーチを生かした連携を、相手はバク転を交えた身軽な動作で逃れる。
格闘の間合いから追い払うだけの牽制とはいえ、軽々しく避けられていることに進也は臍を噛む。明らかに身体的な強度が違う。
「ひっ……く、楠川……? う、ウソ……?」
背後でようやく我を取り戻したように少女が呟くのが聞こえた。
頼むから取り乱すのは後にしろと進也は、性に合わないかばう戦いをさせられていることも含め、苛立ちを募らせる。だが見捨てるわけにもいかない。
(貴重な情報源だぞ。余計なことしやがって、このケダモノ女)
内心の怒りを込めて女獣人を睨む。無論、この獣人たちも進也にとっては話を聞きたい相手には違いないが、事ここに至っては無傷の制圧など不可能だ。殺すつもりで構える他ない。
後方の少女が感情を激発させる前に――と進也が踏み出そうとすると、女獣人は横っ飛びで離れる。
「! 鹿沼!」
進也はすぐさま察知して叫んだ。女獣人は真っ直ぐ先ほどの子供獣人の方へ向かう。彼女の狙いは最初から仲間を取り戻すことだった。
差し迫る女獣人へ、しかし鹿沼はわざと子供獣人から離れ、明け渡す。
女獣人はかっさらうように子供を抱き、一瞬立ち止まって鹿沼の方を振り返る。
「捻った脚は処置してあります。咳は止められますか、その子?」
尋ねられた女は、眉をひそめて何か言いたげに口を開こうとするが、子供が咳き込んだのを見て、険しい表情に戻る。
『礼は言わぬ。キカズの民、女神の奴隷ども。地獄へ落ちろ』
敵意の伴った視線をぶつけ、女獣人は子供と共に森の奥へと走り去っていった。