優しい調べは届かない2
「えっと……天杉くん、この子……?」
子供を見た鹿沼が、進也と同じような反応を示す。
「え、人間? ですか?」
「知るか。……熊崎の奴がいたら、飛び上がって喜びそうな見かけはしてるが」
進也は、平静を保つために冗談めかして言い、そのまま押し黙った。
逡巡していた鹿沼だが、子供の肩に手をかけ揺さぶった。
「起こすのかよ」
「起こさないんですか?」
「襲い掛かって来るかもしれんぞ」
「それが分からないから起こすんじゃないですか。神剣があるから、多分言葉は通じますし」
至極真っ当な意見だ。というより、進也も普段通りならさっさとそうしている。ためらっているのは、どこか余計な思考が挟まっているせいだ。
みんなを守るために出て行ったのではないか、という鹿沼の言葉への反発。まるで優しい人間であるかのように思われるのが嫌で、手を出さずにいる。
鹿沼がゆすり続けると、やがて子供は目を覚ました。
まだ意識がもうろうとしているのか、ぼんやりとした瞳で進也たちを見上げた。
「大丈夫?」
『えっ、あっ?』
子供は座ったまま後ずさろうとするが、動きが止まる。顔をしかめて足首を押さえていた。
「怪我をしているの?」
見る限り、切った跡などはない。恐らくは捻挫か。
「ちょっと待ってね」
鹿沼は背負っていた荷物の中から冷却スプレーと包帯を取り出し、地面に落ちている適当な枝を添え木にして、子供の足の処置をする。
「はい、これで大丈夫」
治療を受けた子供は戸惑った表情で二人を見返してくる。
『……あなたたちは、僕を追いかけてきた人じゃないの?』
聞き捨てならないセリフに、進也はやや気色ばむ。
「おい、ガキ。今のはどういう意味だ?」
進也の方を見た子供は、ひっと小さく悲鳴を漏らす。
慌てて鹿沼が、制するように両者の間に入る。
「待ってね、大丈夫だから。……天杉くん」
「うるせえな。こっちに文句言うなよ」
進也は舌打ちしながら渋々引き下がる。ぼろぼろの服装に武器を構え、剣呑な目つきをしている相手を前に、子供の平静さを期待するのも無理な話ではあった。
「それで追われているって? どういうこと?」
『だって……その剣。アルディシアの人たちじゃないの?』
鹿沼は困惑の表情を浮かべ、進也は眉をひそめる。
「その、アルディシアというのはよく分からないけど、私たちはあなたの言う人たちとは別よ。森の向こうの荒れ地から来たの」
鹿沼が丁寧に教えると、子供はつぶらな瞳をぱちくりさせる。
「ねえ、あなた名前は? 私は皐月で、こっちが――」
「鹿沼! ガキかばって下がれ!」
進也は咄嗟に叫び、剣を構える。接近してくる者が熱探知に引っかかったのだ。
直後にその襲来者は三人の前に姿を現した。背後にいる子供と同じ、獣の器官を有した人間の女性だった。
彼女は、進也たちへ順に視線を巡らせると、長く伸びた爪をぎらつかせ、真っ直ぐ鹿沼の方へ突っ切ってくる。
(問答無用かよ!)
敵とみなしての行動なら正当には違いない。進也は止めるために剣を一閃する。だが女獣人は低く沈み込んであっさりかわす。
そのまま勢いよく蹴り上げてくる。予想を上回る動きの速さに、進也は受け切れず突き飛ばされ、たたらを踏む。
距離が開いた瞬間、女は再び仲間の方へ駆け寄ろうとする。
『姉さん、待っ――げほっ、げほっ!』
子供は制止しようとするも、急に咳き込んで遮られる。
『エンネ! っ!』
子供の容態の変化に女獣人が顔色を変える。その隙を突いて進也はもう一度斬りかかった。
これも回避されるが、女と鹿沼たちの間に割り込むことには成功する。
背後では、むせ続ける子供を鹿沼が何とか対処しようとしている。持病か何かか。
進也は牽制するように女と向き合いながら、事情を話すか、とりあえず倒すか、面倒な状況の選択を迫られ――更に接近する者を察知する。
(増援かよ!?)
進也が目線を外さぬまま驚愕していると、女の方も、恐らく聴覚か嗅覚で察したようで、顔を向ける。
やがて茂みの中から二人の人物が飛び出してくる。そして、その姿を目の当たりにした瞬間、進也も鹿沼もさらなる驚きに包まれた。
(神剣!?)




