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接触23

 ノアは突然のカメーリアの奇行に悲鳴を上げる。


「カメーリア殿! どうして畑に入っているんですか!? 早く出て下さい!」


 壮年の神官は何故か生徒たちに交じり、畑の世話を行なっている。思ったよりも様になっているのが意外だが、神官服と普段の交渉役としての姿を知っているノアからすれば、奇行以外の何物でもない。


「いやあ、土いじりなど久しぶりですな。ノア殿もどうですか?」

「いいから早くこちらにお戻りください!」

「お召し物が汚れてしまいます、どうか神官殿……!」


 兵たちも同様にカメーリアを止めに入る。仕方がない、とカメーリアは生徒たちへ手を振ってから畑を出ていく。


「何を考えているのですか、あなたは!?」

「そこまで怒鳴らずとも。ただの交流ですよ。ここは神剣の影響を受けているようですな。なかなかの盛況ぶり」


 がなるノアを尻目に、カメーリアは農地を見渡す。見覚えのある作物も多いが、中にはカメーリアも見たことのない作物も交じっている。種々実を付けているそれらを、生徒たちが収穫している。


「製法をうかがいたいところですが、まあ難しいでしょう。今後の交流で、あるいは可能性があるかな?」

「早速悪巧みを始めるのはやめていただきたい。まだ彼らの具体的な扱いは王女の元へうかがってからなのですから」


 ノアの苦言に、カメーリアは困ったように笑う。カメーリアとしては単純な好奇心の方が勝っているのだが、ノアにとってはこれも悪巧みの一環にしか映らないらしい。


「もちろん、それは分かっていますよ。残念な点として、神剣を持つ者以外には、我々の言葉は通じないようですね。この分だと文字も通じないのかもしれません。これは留意する必要がある。赤峰殿たちにも伝えておくとしましょう」


 カメーリアの言葉にノアが驚く。どうやら気づいていなかったらしい。彼女自身、神剣使いであるし、この拠点の神剣の担い手の多さを考えれば無理からぬことでもある。


「城塞の方も興味深い。オークの襲撃があったそうで、だいぶ傷が付いていますが、かなり堅固な代物だ。こちらの建築の様式とはどう違うのか、詳しい方を募りたいですが」

「ダメです。彼らの迷惑になります。とにかく一度王国へ戻るまではお控えください」

「ノア殿、それはずるいですよ。あなたは先にこちらへ招待されて、彼らの話を聞いていたのですから」

「いや、それはそうですが……」

「そういうわけで、私も同じくらいには話を聞いてみたいのです」

「子供のようなことを言われても困ります。とにかくダメです」

「神官を捕まえて子供のようとは。なかなか口の悪いことをおっしゃる」

「あ、いや、これはその……失言でした」


 生真面目な騎士の態度にカメーリアは思わず微笑ましくなる。


「気にはしていませんよ。しかし、ノア殿はここの住人をずいぶん気に入られたようですな」

「ええ、それはもちろん。ここにいる間、彼らは私に対しかなり気遣って接してくれていました。最初は取り入るためだけにそうしているのかと思いましたが、もっと単純な、年相応な純粋さでの接し方のように思えました。ハクを始めとして、ここの住人に対して、私は少なくない友情を抱いています」

「見知らぬ民との出会いと交流。未知や神秘との遭遇は、いつでも心の躍るものですな。……ただ、あまり入れ込み過ぎるのもよろしくない」

「え?」


 戸惑うノアへ、カメーリアはあまり厳しい言い方にならないよう、慎重に言葉を選ぶ。


「私はクロム教の神官という立場から、あなたは王国の民という立場から、彼らを見る必要がある。入れ込み過ぎれば、他の者たちから誹りを受けることになる。国や教会を裏切っている、とね」

「……無論、弁えているつもりです」

「ノア殿は、特に神剣のことでやっかみも多いでしょう。他人の足を引っ張ることにばかり夢中な方々の犠牲にはなってもらいたくない。才覚のある人間を潰そうとすることが利に値するとは、私は思わないのですがね」


 カメーリアは本心でノアを心配している。ただの村娘でしかなかったノアを騎士にまで伸し上げてしまった神剣の存在は、あまりにも大きい。

 ノアは、カメーリアに対して安心させるように微笑む。


「神官殿、大丈夫ですよ。私が他者の悪辣さに振り回されることはありません。何しろいつも悪巧みの得意な人物を見て、鍛えられていますので」

「はて。誰のことでしょうな」

「今、私の隣に居る老練の神官殿のことです。カメーリア・サスクというのですがね」

「いや、これは……言われるようになりましたな。はっはっはっ」


 答えに窮したカメーリアはノアに対し、愛娘へ向けるような困り顔で笑い上げた。

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