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接触14

 鹿沼が駆け出していくのを見届けて、進也は剣を構え直す。


「梨子、お前も熊崎を起こしてこい」

「で、でもっ」

「お前の能力じゃ役に立たん。早く行け」

「っ……死なないでね、死んだらダメだよ、進也」

「当たり前だ」


 一瞬ためらうような間はあったものの、梨子も駆け出していく。

 進也は残った七海の方へ声をかける。


「バカ女、お前どこまでできる?」

「またその呼び方……あいつの攻撃を返すくらいはできるわよ!」

「分かった。任せる。熊崎が起きるまで時間稼ぐぞ」

「え、ちょっ」


 返事を待たずに進也は巨人へ向けて走り出した。

 今は万全な態勢ではない。鹿沼の剣の能力なのか、多少ブーストがかかっている状態のようだが、怪我の修復はし切っていない。普段の機動力は発揮できないため、防御は他に任せるしかない。代わりに攻撃へ全力を注ぐ。

 早速敵の拳が飛んでくる。進也は熱を生まずに剣を拳の端めがけてぶつけ、反動で翻りながら横すれすれを抜けていく。熱を生むと切れ味が上がりすぎて食い込んでしまうため、わざと弾かれるように調節して回避をした。

 更に疾駆する進也へ、巨人が今度は土砂を構える。これに対抗するすべは進也にはない。

 だが掲げた腕が、暴風と狙撃によって弾かれる。土砂が取り落とされ、あえなく攻撃は失敗する。七海の、そして桂木の能力だ。回避できない面攻撃も、投げるのを抑え込んでしまえば意味はない。野球だったら反則どころの騒ぎではないと、進也は場違いな感想を思い浮かべた。

 足元へたどりつく。極限まで熱を込める。進也の周りだけが別世界のように歪み、大気ごと燃やしながら神剣が走る。

 鈍い手応え。足を斬り裂くものの、分断まではいかず、巨人の強靭さのほどがうかがえる。恐らく万全であっても、今と同じかそれ以下でしか通らない。

 巨人が足元を手で薙ぎ払ってくる。削岩機のように差し迫る強大な手から進也は必死に逃走する。パニック映画のような状況に、思わず変な笑いが上がりそうになる。


「おら! こっちだ!」


 挑発に効果があるかは怪しいが、進也は自分の健在を巨人へアピールしながら、戦場を引っ掻き回す。熱が弾け、風がうねり、光が鎧となり、弾丸が突き刺さり、岩盤が隆起する。

 限界に近い肉体をなおも酷使し、進也は巨人に傷を負わせ続ける。既に分かっているが、この巨人を突き崩すにはひとりでは無理だ。自分の攻撃だけでは手が足りない。

 熊崎の方を確認する。遠間に、鹿沼と梨子に支えられて立ち上がろうとする姿が見えた。

 やれるな、と笑みを向ける。当たり前だと言わんばかりの視線が跳ね返る。

 鹿沼の神剣が光って、熊崎に力を与える。水流が発生し、巨人へ向かって押し寄せる。

 拳で相殺しようとする巨人だが、熊崎の水流は倒れる前よりも威力を増しており、逆に巨体を押し返す。

 すると、巨人の身体に異変が起き始めた。節々から煙のようなものが上がり始めている。マナを使って淡く煌めいていたはずの肉体が、徐々に光を失い威圧感を失っていく。

 ノアが言っていた。オークはマナを消費し活性化すると急速に死へと近づく。と。その兆候か。

 そして巨人の肉の一部が、ぼとりと地面に落ちた。


(なんだ?)


 見たことのある形だ。普段目にしているオークの死体だった。

 進也は巨人の全景を改めて見る。洞穴へ逃げ帰って出て来なくなったオークたちと、剥がれ落ちたオークの死体、そして地面の中から出てきたこの巨人――つまり巨人はオークたちが集合して作り上げた肉体だった。どういう構造してやがるんだと口に出したくなるが、今さらな話だった。

 ただのオークが、マナをかき集めるだけでこれほど強さが跳ね上がる。ならば同じ道理はこちらにもある。巨人の衰弱と、こちらの神剣の能力の結束、合わせれば勝機はある。

 無論、逃げ続ければ安全だ。だがそこまでの余力は進也にはもうない。他の皆も、戦い通しだ。生きて帰るには、決着をつけるしかない。


「熊崎! 着火する! 合わせろ!」


 言い渡して、進也は再び接近する。熱の斬撃だけでは殺しきれない。水の勢いでも潰せない。ならば二つとも合わせる。鎧は既にまとっている。自分の身の安全など考慮しなくていい。全力で神剣の能力を同時にぶつける。

 熊崎ならみなまで言わずとも分かっているはずだ。初日の交戦で既に体験している。

 これが分水嶺だと巨人も悟ったのか、いよいよ抵抗が激しくなる。活性化の消耗もいとわずに拳のラッシュをかけてくる。

 風と狙撃、水流の援護で進也は回避を続けるが、この状態はまずい。鎧が解けた場合、再装着が間に合うのか、残数があるのか分からない。

 その時、巨人の目に狙撃が突き刺さり、猛攻を食い止めた。石片の弾丸ではなく、もっと小さな何かで眼窩を貫いている。


「あたしの御守りは効くだろ?」


 桂木のシニカルな声が届いた気がした。

 進也は駆ける。攻撃の止んだ隙を狙って、巨人の目の前で極熱の刃を構える。

 水球が発生する。熊崎もしっかりとタイミングを合わせてくる。初日に味わった水と熱の交差による暴悪な衝撃を、今度は鹿沼のブーストも込めて全力で見舞う。

 だが、がくりと踏み込みがズレる。ここに来ての負傷の影響、間合いまであと半歩足りない。このままただ当てるだけでは魔力が伝わり切らない。

 背中から風が吹く。最後の一押しのような神風。七海の能力だ。ズレを埋めて、進也の炎熱が加速し水に着火した。

 爆発――膨大な魔力と共に発生した衝撃が、神の怒りの如き破壊を引き起こす。

 進也は、轟音と爆風で引き裂かれそうになりながら後方へ吹き飛んだ。光の鎧があっさりと溶け、何度も地面を転がり、擦り傷を作る。


「くっ……」


 耳鳴りがひどい。視界が明滅する。

 痛む体を無視して、剣を支えに立ち上がる。巨人がどうなったかを確認する。

 巨人は、身体のほとんどが吹き飛んでいた。残っているのは、進也が傷をつけた足の、くるぶしから下の部分と、反対側の膝から下の部分だけだ。爆発の威力を余すところなく一身に受けたことがうかがえる。

 熊崎に任せて指向性を持たせての爆発だったとはいえ、よくこんな火力を生み出せたものだと自分でも恐ろしくなった。ともあれ――


「ははっ」


 巨人の足の残骸が傾いて倒れる。同時、疲労の極みだった進也もその場にどっと腰を下ろした。

 鹿沼や熊崎たちが駆けてくるのが見える。何か言っているようだがまだ耳がよく聞こえない。

 生き延びた。勝ったという実感よりも、そちらの方が上だった。

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