接触13
飛来する巨人の拳を、しかし最後まで目を逸らさずに見届けようと覚悟を決めた皐月だったが、その瞬間は訪れなかった。
広い背中が前に立つ。破けたシャツの隙間から刺青がのぞく。だんっ、と巨人に劣らぬ轟音で踏み込み、剣を突き出すように構える。
拳が神剣へ突き刺さる。踏ん張った両足が地面を割り、巨腕の威力のほどを物語る。だが耐えた。真っ向から受けたはずの衝撃さえものともせず、天杉進也は巨人の攻撃を受け止めた。
傷の付いていない箇所などないのに、苦痛に耐えきれるはずなどないのに、立っているのですらあり得ないのに、それでも天杉は不敵な笑みを浮かべている。巨人の怪力と完全に拮抗してみせる。一体どこから力が湧いているのか。
驚きで声も出ない。皐月は目前の光景に、ただただ打ち震えるしかない。だが本当に度肝を抜かれるのはその後だった。
「う、おおおおおおらあああああああ!」
巨人さえもが恐らく予想だにしなかっただろう。防御のために構え拳に突き刺した神剣、それを支点に天杉は、巨人の身体を持ち上げ思い切り投げ飛ばした。
でたらめな光景だった。轟音と振動が響き渡る。巨人にとって、これほど小さな生物に背中から落とされるなど、未知の体験だっただろう。心なしか、戸惑ったような鳴き声さえ聞こえた気がした。
「あ、天杉……あんた……」
円花が呆然としながら天杉の方を見る。生きているのはまだしも、起きた直後にあんな力業をやらかすなど、唖然となって当たり前だ。
「……し、進也? 進也!? あぐっ……!」
姫口も目を覚ましていた。天杉の姿に思わず近付こうとして、怪我にうめいている。
「天杉、くん……」
恐る恐る声をかける。そんな場合ではないと、知っているのに。
だが天杉はいつもの軽蔑する目でも無関心な表情でもなく、初めて皐月に向けて、不敵な、しかし感謝の混じった笑みを送ってきた。
「助かった」
堪え切れなかった。何度も頷いて涙を流す。
自分には成せた。使命を果たすことができた。そう思えた瞬間だった。
「進也、進也ぁ、うわあん!」
「やめろバカさわんないてえ! こっちより熊崎を起こしてこい!」
滂沱の状態で姫口が天杉の背に飛びつく。だが天杉は怒号と共に引き剥がして指示を下した。
巨人の身体がゆっくりと起き上がる。時間はない。皐月はすぐさま駆け出した。




