表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移したけど、それより先公ぶっ潰すのどうするよ  作者: kuro
我が身の裡に炎をともせ
125/130

我が身の裡に炎をともせ10

 上空でトウダイとダフニが戦いを繰り広げている。その様子を、地上から進也たちは歯がゆく見つめる。


「くそっ、俺のも飛べたり遠くまで撃てりゃ……」


「あの状況だと、下手に割り込むのもまずそうだけどね~」


「さすがに、あたしも当てる自信は無いね。効くかも怪しいけど」


 介入出来ないまま趨勢(すうせい)を眺めるが、やがてトウダイが吹き飛ばされ、近くの地面に叩きつけられて戻ってきた。


「……やあ。やっぱりちょっと無茶だった」


「見りゃ分かるわ!」


「どどどど、どうするのさっ!?」


 先の砲撃は、辺り一帯を消し飛ばすほどの威力を見せている。またダフニは皐月の時と違い、跳躍(ちょうやく)だけでは届かないほどの距離にいる。一度撃たれるだけでほぼ()みだ。

 こちらからは打てる手がない。相手だけが圧倒的に有利な状況で、とっかかりとなる布石さえ存在しない。諦めるつもりがなくとも、物理的に攻撃し得ない相手を倒すことは不可能だ。


「……いや、間に合った」


 トウダイが呟いた。

 と同時に、進也たちの周囲、そしてダフニの背後に、次元の歪みが発生する。

 相手の攻撃かと身構えるが、出てきたのは梅里を始めとした、神剣使いの生徒達だった。

 そして上空、(おど)り出た紅峰(あかみね)が自身の最高速をもってダフニの背を斬り、地面へと叩き落す。


「これは……」


 進也たちが戸惑(とまど)っていると、地面に激突したはずのダフニが(すさ)まじい勢いで起き上がる。今の攻撃でも傷ひとつ負っていない。


「審判者ぁっ! お前か!」


 およそ女神とは思えぬほど呪いのこもった叫び声を上げる。

 ダフニやトウダイの仕業で無いなら、次元を操る者は他にはあり得ない。

 審判者は、進也たちと少し離れた後方から姿を現した。

 進也は敵意と困惑を抱えて身構える。


「テメエ、何でここに……」


「契約違反だぞ! 何をしている!」


 進也の声をかき消すように、ダフニが喚いた。

 審判者はトウダイと進也をちらりと見た後、泰然(たいぜん)とダフニの方を向く。


「契約には反していない。貴様自身が出張(でば)って手を(くだ)すというなら、これは異邦者共を連れてくる手間を(はぶ)いただけのこと」


「そんな屁理屈(へりくつ)が通るか!」


「貴様が自分で()いた種、いや、植え替えた苗木だ。自分の手で()り取るがいい。……あとは勝手にやれ」


 最後の部分はトウダイに向けて言い放ち、審判者はそれ以上、この場に干渉する姿勢を取ろうとはしない。


鞍替(くらが)えしやがったのか? つーか、何が勝手にしろだよ、このゴキブリもどき」


 トウダイとひと当てあって力を貸した、ということなのだろうが、負けた相手の変わり身ぶりに、進也はいまいち納得できず、文句が口を突いて出た。

 審判者は反応を返してこない。眼中に無いということかと、舌打ちする。

 だが進也以上に(いきどお)りを(あら)わにする者がいた。


「……死人(しびと)風情(ふぜい)が」


 ダフニは息巻くと同時に、手の平を宙にかざして広げると、何かを握り潰すように勢いよくその手を閉じた。


「ぐがっ……!?」


 突如、審判者が体を痙攣(けいれん)させて(うめ)き、(かぶと)隙間(すきま)から血を(あふ)れさせた。そのままよろよろと(ひざ)をつく。


「もういいわ。誰に命を握られているかも分からないほど愚かなら、あんたは消えなさい」


 ダフニが冷たく言い放った。恐らく審判者の生命を維持していた源を、今ので砕いたのだ。


「ぐっ…………のむ、……を」


 息を()んで見つめる異邦者全員に向け、瀕死(ひんし)の審判者は懸命に最後の言葉を(つむ)ぐ。


「どうか私たちを……()(はな)……」


 すがるように伸ばされた手は、何もつかめずに地面へ落ちる。女神の威光の(もと)、イールドの歴史で暗躍し続けていた始祖の剣士は、そうして事切れた。


「ああ、くだらない。一番最初に目をかけてやったっていうのに。結局面倒ばかり増やしてくれたわね」


 (なぐさ)めの言葉ひとつなく、ダフニは肩をすくめる。


「ちょうどいいわ。誰かあれの代わりになる奴、手を上げなさい。そうすれば助けてあげるわよ。他は全員殺すけど」 


「誰がやるか。テメエこそここで死ね」


 ダフニはまるでいい思い付きであるかのように、生徒たちへ契約を持ち掛ける。当然ながら(うなず)く者はいなかった。命を()しむ者はいても、片手間に殺される(かせ)をはめられた奴隷(どれい)を望む者など、いるはずがなかった。


「何が女神だ。お前のやってることは結局、アリの巣に水を流し込んで遊んでるガキと大差ねえ。心底くだらねえ」


「だから何? 楽しいんだからいいでしょう。それにお前たちが下等なのには変わりないわ。アリの言うことなど、何故私が聞いてやる必要があるの?」


「そんなんでよく名を残そうなんて考えたもんだな。だから審判者の野郎も見限ったんだろうが」


「……ダフニ。君はやり過ぎた。僕は君の存在を、この世界から徹底的に消し去る。君の望みとは反対に、君の()した痕跡を一切イールドに残さない。それが君に与える罰だ」


「……私は消えない! 消えるのはお前たちだ!」


 めきっ、と音を立ててダフニの体が爆発的に(ふく)れ上がる。人の形から一挙に変貌(へんぼう)()げ、装甲を(おお)いまとった多頭の蛇と化す。

 咆哮(ほうこう)が上がり、プレッシャーの増した上位者の神威(しんい)が襲い掛かる。

 潰されかけ、及び腰になる生徒たちの精神へ進也が点火、トウダイが圧力を重力で受け止める。


「勝つぞ! 倒して、生きて帰ってやれ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ