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鳥居の島  作者: 青竹煤
護役サナギ
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教室で

 新しく潜竜せんりょう護役もりやくに就いたその人は、事情があって護役としての知識が乏しいままに島を出てきたそうです。だから、護役のいるクラスに入れてください。

 女性の担任では問題が起こるかもしれないから、男性の先生と代わって授業を行なってください。

 ──今のところ、問題はなし。

 一時的に四年二組の担任になったユキヒロ先生は、気温からではない汗をハンカチで拭って、出席簿に挿んでいたまっさらな帳面に問題はないことを走り書きをして出席後を閉じる。

 教室では、まだ護役のウズモが教室の前で話をしていたが、大事な仕事を任せてもらえない立場のウズモの話はすぐに尽きてしまった。何かネタはないかと窓の外を見て安心したように息を吐く。今までにも何度か見た、熊と人間が混ざった姿の神様が、優しい目でこちらを見ていた。

 「この華表かひょう諸島は島が九つあって、守り神様は……」

 そこで一旦口を噤み、その姿の元となった動物の名を挙げていく。余った時間はそれぞれの島の守り神様の話で埋まっていった。


 休み時間になると、珍しい転入生──サナギの周りには女子が、眠そうにしている千松の周りには男子がやってきて、それぞれを取り囲む。輪に入らない何人かは、ウズモの所に来た。

 「なんで小学校に入ってきたの?」

 左の手首にいくつものカラフルなシュシュを通している女子が、ニヤニヤしながら精一杯の「かっこいい大人」だと思う仕草をして、サナギの机に腰かけて話しかける。サナギは不思議そうな顔をしてその子を見上げた。

 「あんた大人じゃん? せめて高校とかさぁ」

 「なんで人にお尻を向けて、振り返った格好して話しかけるの?」

 サナギは心底不思議そうに、自分の机に尻を乗せる子に質問を飛ばした。

 「私に話してるなら、こっちを向かないと誰に話しかけてるかわからないよ。なんか嫌な感じだよ」

 意地悪そうな薄笑いからだんだん血が上った色に、女子の表情が変わった。千松は眠かった表情を少し引き締め、ウズモも「あっ、やばい」という顔で、サナギの前で嫌悪感を丸出しにする女子を注視した。周囲の子たちも黙り込み、その女子から少しずつ離れる。

 「私が質問してんだけど!? ちゃんと答えてくれる!?」

 人間が怒ると大抵は怖いと感じる顔になるが、その子は喋ると口が斜めに開いていた。サナギはその様子を見て、変な顔だなぁとしか思わなかった。

 「ねぇ、聞いてんの? なんで小学校に来たのか聞いてんだけど! バカなの? バカだから!? そうかー、バカだからなのかー! 聞きたいこと聞いたから、もう用ないわ!」


 一人で勝手に怒って教室を出て行く女子を、同じようにシュシュを手首に通した女子何人かが追いかけていく。なにが起こったのか全く分かっていないサナギは、このクラスの先輩であるウズモに「今の、何だったの?」と視線を送るがウズモは息を吐いて俯いて見せるのみ。サナギの周りにいた女子たちもそぞろに散っていった。千松の周りにいた男子たちは嫌な空気を振り払うかのように、大きな声を出し始める。

 「守護霊って、本当に動物なんだな」

 「オレ知ってる。こういうの、獣人ていうんだぜ。マンガで読んだ」

 「なんで着物着てんの?」

 「着物じゃねぇよ、着流しってんだ」

 「うわ、毛が固い」

 勘弁してくれ……。

 千松はひたすらに遠くを見つめ、セミの声に負けない騒音の中でこの苦行が終わるのを待ち続けるのだった。


 二時間目が終わると、ついにお昼の時間になる。四年二組の教室もワイワイと仲間同士が机をくっつけて持ってきた弁当を広げるので、サナギも千松と机をつけて弁当を出そうとしたのだが、ウズモに止められた。

 「アンタたちはオレと一緒。ついてきて」

 やれやれといった様子を見せて弁当の包みを持ち、ウズモはサナギと千松に手招きをする。一時間目の終わりに勝手に怒った子の痛い視線を受けながら、サナギは千松と足早にウズモについて教室を出た。

 「こっちだから」

 初めて見る小学校に、サナギは面白がってキョロキョロし、これは何の教室かと楽しそうに尋ねる。その間にも千松は周囲の視線に敢えて気づかないふりをし、黙ってウズモについて階段を下りた。

 

 二階に下り、職員室を通り過ぎて低学年の子供たちが集まっている部屋の前でウズモは立ち止まった。

 「入るから、どいて」

 下級生たちをシッシと追いやり、ウズモはその子たちの視線を受けて自分の名前を書いた札を扉に貼った。

 「萍水へいすいの護役、ウズモ。入ります」


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