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鳥居の島  作者: 青竹煤
護役サナギ
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学校 ウズモ視点

 なんで、こんなことになってしまったのか。

 四年二組の教室で、ウズモは荒んだ視線を隣に座っている二人組に向けた。

 

 登校した時はいつも通りだった。

 何事もなく、学校への坂道でクラスメイトや同じ役職の仲間と会ったりして校門を潜り、教室へ入る。あと何日かしたら夏休みが始まって、学校には来なくなる。それだけだったはずだ。夏休みに向けてわくわくした気持ちを抱きつつ、授業を受けて友達と遊ぶ。それが恒例だった。

 しかし、今日は違った。

 

 「は?」

 登校してまずウズモを待っていたのは、小学生の自分に不釣り合いな高校生女子の呼び出しだ。

 後方のロッカーにランドセルを突っ込み、クラスメイトの冷やかしを無視して茶髪の女子高生に従って歩く。二階の職員室の隣にある開かずの教室と呼ばれる部屋の引き戸に自分の名を書いた札を貼り付けて中に入ると、そこには既に五人の姿があった。島は違うが、自分と同じ役職──自分の島の守り神様のお世話をするという護役もりやくである。


 朝に集合がするのは珍しいことではない。学校に妖怪関連の伝達事項があれば朝でも昼でも、放課後だって招集はかかる。

 今回は何があったのか。どうせ校庭のカマキリがー、とかだろう。そう思っていたのだが、今回はそうではないらしいというのが全員の緊張した雰囲気から伝わった。

 「ウズモ、お前に任せたから。がんばれよ、先輩!」

 時鐘ときがねの護役であるユウトから肩に手を置かれた。何のことかわからずにいると、ユウトは全員に話しだす。


 簡単に言えば、夏休みまでの短い間だけ小学生のクラスに転入してくる二人の面倒を見てほしいらしい。少し詳しく言えば、その二人はよその島の新しい護役で、神社だけにいるのは問題があるということ。性格の問題で小学校に入ることになったという。

 護役で尚且つ小学生。ウズモはその転入生のお目付け役に抜擢されてしまったのである。

 

 護役というものは、島の守り神様のお世話をする他にもう一つ、当たり前に存在する妖怪の類と人間たちの境界を守るという役割を持つ。護役という職を受ける者は守り神様が独断で決めるため、既にいる護役たちの意見は聞かれることもなければ考慮されない。護役と決められれば、その人物がどんな経歴を持とうが構わず強制的に同僚とされてしまうのである。

 だからウズモは表面上、仕方なく引き受けた。先輩という言葉に頬が緩んだし、あれこれ教えてやろうと意気込んでいたことは否定しない。しかし全校集会で校庭に出てその二人を目に映した時、すぐに後悔した。

 赤い差袴さしこ白衣びゃくえに縫い付けられた龍の鱗を示す模様は、潜竜せんりょうのものだというのがわかる。しかし、身長が違う。小学校に通う歳のように見える方がおかしいくらいだ。

 ──どう見たって、大人じゃん! オトナだよ! 小学校に入るの? 大人が?

 それ以上に目玉が飛び出る程驚いたのは、その新人護役の隣に聳える巨体の狼であった。

 「妖怪じゃん!」

 ウズモはついに叫んでしまった──。

 そういえば、朝の集まりの時、誰かが言ってたことを思い出す。

 ──新しい護役って、潜竜せんりょうのでしょ? 護役長もりやくちょうがラジオで聞いてたけど、どう考えても小学生じゃないって言ってたよ。なんか、珍しい守護霊憑きだって言ってたから、それ絡みかなぁ?

 つまり、守護霊の方を見ろってことなのか!? そんなもん、守護霊に憑かれた本人が見ろよ!

 喉まで出かかって言葉を、ウズモは必死に飲み込んだ。目の前の狼に睨めつけられて、声を出そうものなら命はないとまで思わされてしまったのだ。


 朝礼でも、生徒たちは皆ウズモと同じ反応をした。特に小学生たちの騒ぎ様は酷かったし、教室でも小学生の机の中に二基、しかもご丁寧にウズモの隣に高校生用の机が並べられている。何かあったらウズモに抑えてもらうということが決定づけられている決定事項に、小学四年生のウズモは頭を抱えた。

  

 そして、冒頭に至るというわけだ。

 新人護役はサナギと名乗り、妖怪の方は千松というらしい。サナギの守護霊と紹介されたが、ウズモはそれを信じなかった。信じられないのではない。信じない。小学生といえど、守護霊については実際に見ているし勉強もしていたのである。

 守護霊とは生まれたばかりの赤ん坊に対して、親が護役に頼んで呼んでもらうものである。護役や守り神でもない限り見ることはできない。だからこの千松という妖怪は、信用できなかった。それを連れてヘラヘラと笑っているサナギは特にそうだ。

 サナギ自体もおかしいと思わされる節がいくつもあった。年齢を聞けば二十二。そのくせガキっぽいところがあった。授業中に邪魔をしてくることはなかったが、時鐘の護役長の決定で学校に来させるくらいなのだ。何か理由があるのだろう。

 ウズモは決心した。先輩としてではなく、護役として監視しなければ。


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