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鳥居の島  作者: 青竹煤
潜竜島
41/81

露見

 堤防の上に、サナギが見つけたもの。

 最初はただの石ころかと思ったが、目を凝らせば小さな笠を被った小さな妖怪だと気付く。サナギは自分の左の掌を見つめ、風景とともに後方に流れてさらに小さくなってしまったそれを、ここに乗るくらいかと見比べながら見送った。

 「妖怪って、大きさは関係ないのかな」

 そう呟くサナギにツガはどうかしたのかと訊くので、サナギはそれのいた方向の堤防の上を指した。

 「片手に乗るくらいの妖怪みたいなのがいました」

 どんな容姿かまでは確認できなかったが、小さな笠を被っていた。更に小さなノートのようなものをもっていた気がすると告げると、ツガは、今日は忙しくなるかもなぁとサナギと千松に言った。


 「サナギが見たのはおそらく、この島の守り神様に会いによその土地から訪れた妖怪だよ」

 「なんでわざわざ来るんだ?」

 千松の歩調が速くなる。トラックを少し追い越して止まり、トラックに追い越されてまた少し追い越しながら不機嫌そうにツガを見下ろした。

 「妖怪の中には、神様になろうとする者がいるのは知ってるね?彼らは修行として、自分の身につくものなら何でもやる。中には神様になることについて不安を抱いたり、神様としての心構えを今からつくっておきたかったりと……何でもいいから、とにかく神様の話を聞きたがるんだ。そういう者たちは国中を旅して神の名を持つ存在に会いに行く。この華表かひょう諸島にも、今までたくさんの訪問者が来たよ」


 それまで苦い色を浮かべていた千松の顔が険しくなった。黄色い目にははっきりと怒りが浮き上がり、話しかけるなと言わんばかりに肩を怒らせ大股で歩き始める。

 「千松くんの話を聞きに来たわけじゃないよ」

 慌てないようにサナギはいつもの調子を取り繕うが、千松に睨みつけられて作った笑顔を顔に貼り付けたまま、動けなくなってしまった。

 「あんな糞みたいなもんになりたい?俺はごめんだ」

 吐き捨てる千松に、ツガは顔を顰めながらも何も言わなかった。神というものを嫌う者がいることは事実であり、それを否定するのはツガの望むところではない。

 「千松くんのことじゃないって」

 最初の「せ」の字で上ずった声が出てしまったが、サナギは続ける。

 「千松くんとは関係ないんだから、どうこう言うことじゃないでしょ」

 それはサナギが正しい。ツガがそう片付けると、トラックの後ろから激しいベルの音が近付いてきた。三人がそちらを見れば、通常よりはゆっくり走るトラックに追いつこうと必死に走る自転車だ。

 「つ、ツガさん!ちょっと待って……!そいつ、キケ……!」

 息も切れ切れなその男を見て、ツガはトラックを止めさせて荷台の後方に寄っていく。

 「駐在のアズマさんじゃないか。息切らせてどうした」


 やっとトラックに追いついたことで足をつき、ゼエゼエと荒い呼吸を整えようとしながらも千松を指す駐在を見て、サナギはトラックの荷台から千松の着物を握る。千松はその緊張した表情を吹き飛ばそうとサナギの頭に手を置いて囁いた。

 「ここの蛇は住んでいいって言ったんだ。いちゃもんつけるような奴はどこにでもいただろ。気にすんな」

 千松は縋るサナギを抱き上げなかった。それは逃げる心配がないということで、サナギは千松の険のない表情におそるおそる着物から手を離すが……。

 「記事が出たんだ。本土で頻発していた窃盗の犯人だよ、その妖怪!」

 サナギの手が再び千松の着物を掴む。千松もそっとではあるがサナギの肩に手を伸ばし、二人とも硬い表情で駐在を見据えた。 


 ツガは何を言っているんだと言わんばかりに駐在の上下する肩を叩く。

 「この子たちが何かしたのか?証拠は?」

 ハァっと大きく息を吐きながら駐在は勢いよく顔を上げ、無表情のツガを探るような目で見上げた。島の厄介事を二人で捜査することも多々ある。人間によるものなら駐在であるアズマが、野生動物以外の人外によるものならツガが担当することになっている。仲が良いと思っていたのは自分だけではないはずだ。

 「その、新しい護役の子」

 アズマは大きく息を吸って、整いつつある呼吸を吐き出しながらサナギに目をやった。

 「その子は、本土で行方不明になってる。捜索願もまだ取り下げられていない。あんた、ユウって名前だろう?」

 トラックの壁から背を浮かしながら怯えた表情で狼の着物を掴むサナギに声をかけると、サナギはそろりと足を立てた。その耳に狼が何か囁くのを、アズマは見逃さない。

 「その妖怪!」

 サナギの肩に手を回し、いつでも抱き上げて逃げる準備を見せている千松に、駐在が厳しい目を投げる。

 「そこのユウさんを施設から攫ったんだ。誘拐だよ!」

 「落ち着きなさい」

 しょうがないなぁと友達を宥めながらツガは少しだけ笑ったので、アズマは笑ってる場合かと息を吐く。

 ツガの少しも慌てない調子のおかげで蝉の声が耳から頭に染みていき、顔を流れる汗やじっとりとそれが染み込んだシャツに気付いた。


 「この島は守り神様の庇護下だ。勝手な真似は私と、ひいては玲瓏れいろうヒ、玲瓏スイの二柱ふたはしらが許さないよ」

 ツガは泰然としてアズマに何かあったら教えると言うと、釈然としない表情になった駐在に水筒の麦茶を差し出し、少し飲ませて帰らせた。去っていく濡れた背中を見送ると、不安そうにしているサナギと千松を振り返る。

 「帰ったら、洗いざらい話してもらうからね」

 ツガは穏やかな笑みを向けてくれはしたが、二人は嫌な気持ちを拭えず以降のトラックの荷台では居心地の悪い思いをすることになるのだった。

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