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鳥居の島  作者: 青竹煤
潜竜島
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潜竜島

 ──やれやれ、どこの島もあの二人を受け容れてくれぬ。玲瓏れいろう殿、人間と妖怪の二人が住む場所を求めているのだ。どうか、住まわせてやってはいただけないだろうか。

 

 ──禊月殿、我らも島を護る神。得体の知れぬ者を住まわすわけにはいかぬことを、重々ご承知のはずだ。


 ──そこを何とか。幽香ゆうこう殿が世話になったのだ。幽香殿に代わって、恩を返してやりたい。


 ──ならば禊月けいげつ殿がされるがよかろう。時鐘ときがね島に住まわせればよい!


 ──我の意見もよろしいか?

 禊月殿、潜竜島せんりょうじまの守り神はご存じのように二柱ふたはしら。ヒの答えだけが潜竜のそれと思われませぬよう。


 ──受け入れてくれるか。


 ──幽香殿に恩のある者たちならば。


 ──スイ、我らは島を護らねばならぬ。どこの馬の骨とも知れぬ者を島に入れるわけには!


 ──様子を見るくらいならばよかろう?ただし、そやつらが潜竜に来ることができればの話である。来ることができねば、その話はなかったこと。それでよかろう、ヒよ?


 ──……わかった。しかし、言い出したのはスイだ。我はそやつらに一切関与せぬ。


 ──となれば、罰を与えることもせぬか。厳格なお前らしくない。


 ──揚げ足をとるな!



 それは夏の、日が上りきらないうち。夜の色が広がる空に光が差し始めた頃のこと。この時間になると島の大半は起きていて、本島に働きに行くための準備をしたり、畑に出たり、店の品をチェックしたりと朝の準備をしている時間だ。


 この島の護役もりやくであるツガももちろんその時間に起きていて、島の守り神である玲瓏れいろうヒ、玲瓏スイの(やしろ)の戸を開け、中に向かって一礼をし、深呼吸をしたところだ。


 この世に生を受けて五十と余年。気持ちを切り替えたはずだが、どうしても昨日の散々だったことを思い出してしまう。

 朝早くから遠く離れた巣降すふりの村に呼び出されて、行ってみれば本土の警察が動く程の大惨事の調査を押し付けられ、警察と共同捜査。事件が神罰であると結論づいたと思ったら用済みとばかりに追い出され……。帰ってきたときには心身ともにくたくたで、社を閉める時間には早かったが守り神様に許可を得て社を閉め、夕飯も作らず早々に布団に入ったのだ。

 ツガの仕事は護役として基本的なことと、この特に大きな事件も起こらない、人口の少ない島の役所も兼ねていた。


 潜竜島にはツガの他に護役はいない。新人の頃のツガを教え導いた護役が亡くなってからは、ずっと一人で社の隣に建つ二階建ての屋敷に住んで神様たちや島民たちの世話を焼いてきたが、独り身が寂しいという気は全く起きなかった。ツガがお世話をしている二柱の守り神様といると、自分が所帯を持つことよりも今の状況で満足してしまうのである。


 いつものように一日が始まるはずだった。

 しかし、今朝はいつもと様子が違った。社の掃除をしようと道具を取りに家の裏に回ろうとしたツガは、立ち止まった。いつもなら視界にチラチラ映ってはツガなど気にも留めないようにどこかへ行ったり日向ぼっこをしていたりする魍魎(もうりょう)と呼ばれる黒い塊が、この時間にしてはどうにも落ち着きなく走り回っている。何匹かはツガの足にぶつかり、慌ててどこかに去っていったと思いきやすぐに戻って来て社の前でくるくる回って参道から逃げていく。何かあったのだろうか。

 こうもおかしな様子を見せられては掃除などと言っていられず、ツガはすぐに潜竜島の守り神様の社の中に入って中に安置された二体の木像に向かって声を出した。

 「おはようございます、ヒ様。おはようございます、スイ様」

 大昔に社叢林しゃそうりんの中の木から削り出された二体の竜の像に挨拶をすると、そこからスゥっと人間の上半身が抜け出てきた。

 「うむ。おはよう、ツガよ」

 両の目を閉じたまま、尖った耳の上から角を生やした黒髪の男が、像からずるりと上に向かって伸びていく。下半身は蛇のようで脚がなく、頬や手の甲と同じ緑の鱗で覆われており、もう一方の像からは藤色の髪を二つに分けた、白い鱗を持った女が出てきていた。

 「おはよう、ツガ。昨日は疲れたようだが、よく眠れたか?」

 この二人がこの潜竜島の守り神である。男の神様を玲瓏れいろうヒ、女の神様を玲瓏スイといい、長い間この島を人の力が及ばないわざわいから守っていた。

 「それどころではありません。魍魎たちが落ち着かない様子であちこちを走り回っています」

 しかし二柱の竜の神様はわかっているとでもいうように頷いてツガを見返した。

 「ツガ、すまぬが西の海岸を見てきてはくれぬか」

 玲瓏ヒが厳かな声をお社の中に響かせた。

 「西の海岸ですか」

 「うむ。先ほどから島の魍魎が騒いでおる原因がそこにいるようだ」

 ヒは目を閉じたまま、西に顔を向ける、瞼が微かに動いたので、そちらに目を向けているのだろう。

 「我らも感じておる。外より何かが入り込んできたのだ」

 玲瓏スイもそちらに目を凝らし、次いでツガに向き直り、更にこう言った。

 「今ならばお前でも対処できよう。この島に害をなすものならば祓え」

 「はい」

 ツガは自分の仕事を理解している。人間同士のトラブルの対処は島の駐在が負う仕事だが、魍魎や妖怪絡みの事件があった場合、対処できるのは自分だけ。島を護るためなら対象をためらいなく祓うことがツガの、いや護役としての仕事なのである。


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