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エピローグ 黒き影と観測者

「やったー! 年収300万円からの妊活、最終話終了だ!」

 クライマックスということで、なんとか子供が持てるようにと書いた前回の記事はかなり好評をいただくことができた。

 そして今回は、十ヶ月間記事を書いての、後書きというか後日談のようなものを書いているところだ。


 この記事がどの程度役に立ったのかはわからないけれど、希望を捨てずに、願うことをやめてはいけない、ということを書いて記事の最後を結んだ。最初から諦めていてはできるものもできないのだ。


「んじゃ、次はあっちの件の報告書、かな」

 はぁ、もう先輩ったら仕事押しつけすぎだ、と知杖はぼやいた。

 ディスプレイに表示されたファイルには、今回の被害者、そして生存者のデータが表示されている。

 そして、追加として生まれてきた子供達の遺伝子データについての付則も載っているものだ。

 シゲさんや真にお願いして、さらに詳細なデータすら手元にある。

 

『ふむ。一万の腹から出てきたのは七千か。これで少子化対策になったであろうか』

 黒い影の主は、ふむといいながら、いつのまにか知杖の背後に立っていた。

 振り向かなくてもわかる。その影はディスプレイに反射して映っていたのだから。


『どう思う? 観測者よ』

「……いきなり現れてそんなことを言われましても……」

 さて。対話の相手としていきなり選ばれたわけなのだけれど。

 不思議と違和感はあまりなかった。

/

 これが、医師達の言っていた「彼がそう言うのだからそうなんだ」という感覚だろうか。


「貴方の問いに答える前に、こちらもいくつか聞きたいけど、いいかしら?」

 ICレコーダーのスイッチをいれ、同時にメモ帳とペンを用意する。

 電子機器に黒い影の声が入らなかった時のための補助として、手書きのメモももちろん必要だと思ったからだ。


『かまわぬ。観測者として主は大いなる事をしたのだからな』

 答えられるところは答えよう、とその影は言った。


「なんで、こんなことを?」

 この存在が一連の騒動を起こした、というのはわかる。

 見た感じなんか、すさまじく真っ黒でやばい感じは受けるのだけど、こうやって話してみると、そこまでやばい感じは知杖は受けなかった。

 だからこそ、なんでこれをやったのか、というのが知杖はわからなくなったのだ。

 そこに欠片も悪意がないのだから。


『我は、人の願いを叶える存在。そしていつかかつての彼の地に戻る存在』

「堕天した神様とかなのかな。まあそれで? これが願いを叶えたってことなの?」

『さよう。彼らは悩んでいた。少子化だとこの国まじやばくね、と』

 ……まじやばくね、という言葉をつかう超常存在が、マジやばい気がする。


「選定基準とかはどうだったんです?」

『少子化を憂えていると推測する発言をしたものに、子を授けた。少子化を憂う声を拾い、一万の者にそれを授けた』

「ぴったり一万だったか……」

 報告数のトータルは、9500前後といったところだ。おそらく溶解した中では報告をしていないところがあるのか。

 それともいきなり子供ができて、人知れず自殺でもはかろうとして溶解してしまったものがいるのかもしれない。

 さすがに、それを失踪者の中から探すことは難しいか、と知杖は首を振る。


「堕胎しようとしたら溶けたのも貴方のせい?」

『さよう。我は彼らの願いを叶えようとした。なのにそれはいらぬと言われたら報いは必要であろう?』

 影の言い分に、知杖はまあ、そういう発想になるのか、とボールペンでそのことをメモする。

 たぶん影にとってはものすごく単純な話だったのだろう。

 

 少子化をなんとかする一番の方法は、子供を生むことだ。

 けれども、それを叶えてやったというのに、自らその子供を下ろそうとする。つまりは矛盾が生じたから、そこで奇跡ははじけて代償を欲した。

 知杖たち人間からすれば、そんな単純な話ではない、と叫びたいような発想だった。


「最後、出産したのに、大量にお亡くなりになったのは?」

 さて、堕胎がダメだというのはわかった。けれども、それ以上に大惨事となった、出産日当日の話はどうなのだろうか。

 無事に出産をすることができたのなら、それで願いは叶えられたのではないだろうか。


『全部ではないが、我が指定したのは、心持ちだな』

「心持ち?」

 どういうこと? と知杖は理解が追いつかず首を傾げた。


『さよう。少子化対策がどうだと言っておきながら、子供が生まれてくることになんら感慨がないもの、出産してせいせいしたと思っているようなものは、矛盾を抱えて崩壊した』

「ああ……」

 なるほど。だからこそ、テレビに出てエンターテイメントにした人達の生存率が極端に低かったわけだ。

 メディアに出て、妊夫であることをアピールしていた人達の生存率は5%程度。それに対して、全体では2割強の人達が無事に生還した。

 その差はなんなのだろうとずっと思っていたのだけど、その答えがこれなわけだ。


「じゃ、じゃあ、他は? 他に亡くなった人だっているよ?」

『それは、体力の問題であろうな』

 激痛に耐えられなかったのであろう、と影はあっさりと言った。

 すべての妊夫が生還か溶解かのどちらかになったわけではない。

 分娩室でそのまま息を引き取った人も実は百例ちょっといる。

 その人達は、体は溶解せずにそのままの状態で亡くなっていた。


「ってことは、痛みを抑えるような処置をしても問題なかったってこと?」

『その通りだな。子供を最優先に考え、万全を期すのが一番であろう? 痛みによって父体が持たないのなら、人の手による技術の介在はもちろんあるべきであろう』

「……なるほど。それで帝王切開でも大丈夫だった人達がいたんだ」

『産道を通る、というのは人に取っては一つの手段であろう? 我とて人の技術は見知っている。必要であるのならば最善は尽くされるべきだ』

 逆に、自然分娩を試みた人達は、体力を消耗しきって生き残れなかったケースもあった、というわけか。

 帝王切開でやっていれば、父子ともに生存できたかもしれないのにだ。


 すべて、お腹の子供のために。この影の基本理念はそれだった。


『では、観測者よ。そろそろ我の問いに答えてもらおうか』

「少子化対策になったのか、って話ね」

 はいはい、と知杖はパソコンを操作して、数字を表示する。

 そこには年間に出産される子供の数が表示されていた。


「いちおう一年間で7000人強増えたわけだから、もちろん少子化の対策にはなったのでしょうけど……でもね。通常年間100万人子供が生まれるの。それに比べると、たったの0.7%でしかないのよ」

 それを思えば、果たして少子化対策になったのか、というのはなんとも言えないわ、と知杖がいうと、黒い影はびくりと体を震わせた。

 知杖は事実を言っただけだ。


 でも、無意味だったのかどうかは、なんともいえないところだ。

 少なくともこれだけの人数の被害者が出て、子供が7000人増えただけ、という惨事は、人に衝撃を与えることができる。

 痛ましい事件として語り継がれるだろうし、そして。


「今回の事で、出産が大変な事だってお偉方がちゃんとわかってくれたら、少子化対策に動くでしょ? そうなったらもうちょっとマシになるんじゃないかな」

 それなら今回の事は無駄じゃないと思うよ、というと、影は、おぉっ、と歓喜に震えているようだった。


「あ、最後に一つ質問いいかな?」

『よかろう。言ってみろ』

「どうして、私が観測者だったの?」

 確かに記者として、この事件を追ってきた。

 けれど、そんな人は他にもたくさん居ただろう。かなりセンセーショナルな事件なのだから。

 もちろん、先輩から声をかけられて割と早い段階で関わることはできたとは思っている。

 でも、観測者に対してネタばらしをするという、この行為を受けるのが自分であることが疑問だった。


『それは、お主も少子化対策に必死だったからである。しかも、我の予測よりも多くの人を生還させた功労者でもあるからだ』

「はい? 生還させたって?」

 え。と知杖は間抜けな声を漏らした。

 たしかに妊活しよーよ! という記事は書いてきた。でもそれは、どちらかというとそうならないと今携わっている雑誌の売り上げが下がるからだ。

 根本的には、今回被害者になった人間達と同じようなことを考えていて。


 でも、それでいいと黒い影は言う。


『人が子供を産めない精神状態を緩和させようという自力の努力、そして、極めつけは今回の妊夫事件の記事である』

「え? あの記事がなにか?」

 特別なにかやっただろうかと知杖はちらりとあの特集を思い出す。

 割と協力者がいたので詳しくは書けたのだが、それでも特別なことを書いているかといえば……


「あ。あああ。真の記事?」

 あれは確かに、他とは毛色の違う記事に仕上がった自覚はあるけれど。

 果たして、そこまで影響を与えていただろうか。


『主自身が自覚しておろう。あれを読んだからこそ、子を産むことに真摯になったものたちはかなりの数に上った。そうでなければ、生存者はもっと少なくなっていたであろう』

「シゲさんもあれを読んで考えを変えてた、か……」

 なんだろうか。

 記者をやっていて、ここまで明確に反応が出たのって、実は初めてで。

 ちょっとだけ体がほてるような、ぞくぞくするような変な感じだった。

 ああ、やばいなぁ、もう。


『では、我はそろそろ次の願いを叶えに行こうかと思う』

「うわぁっ、ちょ、ちょっとまって!」

 さらばだ、と言い切られる前に知杖は黒い影に慌てて問いかけた。

 まだまだ聞いておきたいことはあるのだ。ここで去られては困る。


『まだなにかあるのか?』

「はい。あの、来年もまた今回の様なこと、やります?」

 これ。これを聞いておかなければならない。

 また、来年も同じような事が起きるなら大パニックが起きてしまうからだ。


『ふむ。またしばらく(、、、、)したら別の願いを叶えるために活動は行う』

 今回と同じ願いにはならぬだろうがな、と黒い影は言った。


「そう。ならまた不思議な事が起きたら、しっかりと追いかけないとね」

 そのときはよろしくお願いします、と知杖が頭を下げると、すでにその黒い影の姿はなくなっていた。

 お話は終わり、ということなのだろう。


「はぁ。我ながらおかしな体験しちゃったなぁ」

 まったく、ようやく記事も終わるぞといったところで、最後に大きなネタがでてきてしまった。

 どこからどこまでを書くのか。

 知杖は少し思いながらも、上手く伝わるようにと記事の構成を考える。

 きっと、黒い影が家に現れて、なんて話をしたって、誰も信じてはくれないだろう。

 

「願わくば、もう少しこれで子育てしやすいような形になればいいんだけどねぇ」

 そのためには、まずはもうちょっと労働時間を減らす必要があるけど、と知杖はキーボードに指を置きながら愚痴を漏らした。

 きっと、あと数年は知杖が家庭を持つことはできないだろう。そんなことを思いながら。

やっと終わったー!

ここまで読んでいただいたみなさま、ありがとうございます。

ネタがネタだけに、大地雷の可能性あり!! みたいな感じですが、はい、その通りでした。

そもそも、最近の「少子化ガー」発言にぶちきれて書き始めたものでしたが、逆に子供作ろうと思ったら、どーすりゃええねんー、という感じになって行きました。


まー、産んでも育てられない、となると話にならないわけで。そこらへん考えていきましょー、みたいな感じですね。

トランスさんの受胎の話は最初あんまり、触れるつもりは無かったのですが、不思議と最後知杖さんが観測者になった理由に絡んでくれて、まとまったわぁ、という感じで。


今回は私の作品には珍しく、あんまり救いがない話にはなりましたが、何かしら感じるものがあっていただけるとなによりでございます。

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