止まない雨④
「ロボットも、死ぬのでしょうか」
体液を思わせる褐色の液体を滲ませるロボットを前に、僕は呟く。答えはわかっている。ロボットだから死ぬのだ。
明らかに中身が零れ落ちたぶんの重さがあるはずなのに、僕はそれまでロボットにあったであろう重さを思い出せずにいた。腕の中から零れ落ちた片足だけが、静かに存在を主張する。ロボットの落ちた足へと女性は手を伸ばし、両手で掬って言葉を添える。
「朽ちてしまった、という方がしっくりきます。中身はどこへ行ってしまったのでしょうね」
道を進めば進むほどに雨影は次第に薄れゆき、もはや傘の手も借りることなく歩けるようになった頃、ようやく僕は自分が歩いている場所に見覚えを感じた。妻が一度、地元の風景だと写真を見せてくれたことがある。この場所だ。間違いない。
「どうかしましたか、いきなり立ち止まって」
「ああ、いえ......。この場所、一度写真で見たことがあるんです」
「そうですか......」
一度くらい二人で行こうと言っていた妻だが、行こうと思えばいつでも行けると先延ばしにしているうちに、今やすっかり叶わない夢になってしまった。僕一人では、やはり辿り着けなかっただろう。
事情を知らない女性が不可思議な様子で此方に目を向けるので、僕は思い出したついでに出会い頭の話題を持ち出した。
「ところで、止まない雨とは何だったのですか。すっかり雨は上がったようですが......」
「ものの例えですよ。いつかは止むとわかっていましても、先の見えない雲に遮られてはいつ雨が止むかは定かではありませんから」
そうして口元を抑えるようにして笑う女性の姿を前に、僕は思わずどうして笑うんですと尋ねた。
「だって、貴方ったら傘もささずにわざわざ雨雲の方へと歩いていたものですから。貴方の背後にあった空は、あんなに晴れていたんですよ。それがどうにもおかしくて、ついからかってしまったんですの」
女性の指差す先へ視線を泳がせれば、光の溢れる空が此方を見返していた。片足がとれたままのロボットが、僕の声を代弁するかのように小さく軋む。君だけがいない街。欠けた月とはこういうことかと僕はロボットの頭を優しく撫でた。




