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決して戦ってはいけません。  作者: グリーンティ
第一章『降臨編』
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困惑の五歩目

(それじゃ、まず君には魔力の感知を会得してもらうよ。君の目には見えていないだろうけど、魔力はどこにでも存在するんだ。とりわけ、君の周りには馬鹿みたいに濃い魔力がある。それを感知して、自分で動かせるようにするのが目標だよ。まず、自分にとってリラックスできる姿勢を取ると感じ取りやすいらしい。)


とりあえず、目を閉じてみる。両手を広げ深呼吸。近くで破壊音が聞こえたが、今更だ。


目を瞑ると、風の音しか聞こえない。木々は一切ないからだ。

周囲にあるのは土と砂、石。そしてたまに埋まっている大きな岩肌。

あ、一応まだ小さな枝もあるようだ。これは、動物の骨だろうか。爆発に巻き込まれてしまった被害者だな。許してくれ。あと・・・。


んんん?なんで見てもないのに物の位置が分かるんだ。


俺は、思わず瞑っていた目を開け、周囲を見渡す。

目を瞑って見ていた?物がある。

位置も大きさも形も正確に合っている。


どういうことだ。


「うわ!?」


突然、周囲に何かの存在を感じた。見回してみても何もない。ただ、『それ』は間違いなくある。ある気配を感じる。

それを掴もうと右手を伸ばすと、周囲を囲んでいた物が全て右手に収束した。

手を握った瞬間。大きな爆発が生まれる。被害は少ないが、手前の地面が手の形に削れ、砂埃が舞う。

それを手で払うと、今度は腕から手のひらにかけて『それ』が纏わりつき、大きな突風が舞う。


なるほど。これが魔力なのか。

最初の一歩を踏み出した時は、この魔力が足に集中し、暴発したっていうわけだな。


(驚いた。もう感じ取ることができちゃったのかい?)


「ああ。ここにあるっていうのが感じれる程度には。」


(十分だよ。それにしても、これ程までに早いのはなんとも凄まじいね。君には仙人の才能があるかも・・・)


仙人の才能って・・・この方法ってまさか。


「もしかしてこの方法って」


(ご明察。仙人になる為の修行だよ。)


「この修行で人間じゃなくなるってことはない、よな?」


(あっはははは。そんな簡単に仙人に成れたら苦労しないよ。この感知はそこらへんの魔法使いでも出来るからね。)


「そうか。なら良かった。」


仙人が笑い飛ばしてくれたことでちょっと安心した。

種族が変わっていても故郷に帰ろうとする同郷者には悪いが、俺は姿が変わってあの世界に帰るってのはゴメンだった。


(次のステップへ進もうじゃないか!魔力の制御をやってみよう。まず、君の足元にある手のひらサイズの石を壊さないよう積み上げてほしい。)


「石?ん・・・。」


いつの間にか、足元に大量の石が置いてあった。

もう、すでに周りが暗く、肉眼では見ることができないが、魔力で個数や形まで感知できる。


(君の意識が逸れている間に置かせてもらったよ。)


「そういう魔法か。」


(空間魔法って呼ばれているよ。)


さっき言ってた天人の魔法か。


「壊さないように積み上げて、手加減を出来るようにするってことか。これは、恐ろしく時間がかかりそうだな。」


(壊さないように、5個積み上げれたら合格にしよう。)


「5個?案外少ないんだな。それで制御が出来るようになるのか?」


まぁ、早いことに越した事はないんだが。


(やってみればわかるさ。君の魔力の扱いにくさは、見ることができれば誰でもわかるよ。)


俺は半信半疑で、1個目の石を摘み。

小さな爆発が発生した。

そして、用意してあった全ての石が吹き飛んだ事を理解した。


「にゃろう。」


俺の挑戦は始まった。












(今日もいい天気で良かったね〜。さて、これで何個目になるんだろう?)


「煩い。」


最初の1個目から、3度夕日を見た気がする。石を積み始めてから、もう3日が過ぎようとしているのだ。

それなのに、俺はまだ4個目の壁を乗り越えていなかった。


1日目、徹夜で必死に1個目を開始地点に置けるようになり、その要領で2個目、3個目と置けるようになったのは良かった。

ただ、4個からバランスが悪くなってきたのだ。倒れそうになると慌ててしまい、つい石の持ち手の気をそらしてしまう。

そして、次に来るのはドカンだ。


惨めに土の上に寝転んで睡眠をとり、雨が降ったらどれほど辛いことか、と天候に怯える日々。


ああ、屋根が恋しい。


「4個目。いけた・・・。」


ダメだ!喜んではいけない。

冷静に揺れそうな方向に手を入れる。・・・壊れない。よし。

左手は添えるだけ。左手は添えるだけ。


添えた左手と石を持つ右手の集中を切らしてはならない。

ゆっくり、落ち着いて。

4個目の石が安定した。後は、最後の一個だ!ここで一気に決める。


右手に掴んだ石をゆっくりと4個目の石の上に運ぶ。絶妙な力加減で、絶妙なタイミングを選択する。



5個目の石が、4個目の石の上に乗った。


これで、終わりだ。やった・・・


(後は手を離すだけだねぇ。)




何を言われたか理解するのに時間が掛かった。

この石から手を離す。何をバカな!

そんなこと・・・できるわけがない。

全身全霊を賭けて、この子(石)を想い、積み上げてきた歴史があるというのに、その手を離せという。

何てことだ。理不尽にもほどがある。


俺は悲しみに暮れ、いやいやと首を振る。

そんな俺を見兼ねた仙人が優しく諭す。


(手を離しても、ちゃんとバランスは取れるはずだよ。)


・・・そうだな。

俺も子(石)離れする時が来たのかもしれない。

そうだ。俺が必死に、立派に育ててきた。

もう、自立できるだろう。

俺が見守ってやる必要はなくなったのだ。

今度は、お前が誰かを守ってやる番だぜ。息子(石)よ!


決心し、右手を石から離す。

支えになっていた左手は役目を終え、最後に石に触れることなく、すっと抜けた。


積まれた5つの石はしっかりと地面に立っていたのだ。


(お疲れ様だったねぇ。・・・って、なんで泣いてるのさ。)


泣いてねぇよ。目から汗が出ただけだ。


悠然と立っていた石も、少しだけ震えている気がした。




寝不足でおかしな事になっていたので、この日はそのまま土の上で泥のように眠った。

翌朝、積み上げた石が忽然と姿を消していた。きっと仙人が気を利かせて何処かへ運んでくれたのだろう。否定していたが、そういうことにしたい。

だって、自分の寝相で吹き飛ばしたなんて、信じたくないのだ。


あいつ(石)はきっと森の何処かで立派に立っているはずだ!


そうあって欲しい。



「それで、俺はこれで魔力の制御を会得したと言ってもいいのか?」


(じゃあ試しに、風を起こさないよう手で仰ぐ動作をしてみよっか。)


言われた通りに、石を積む時の要領で魔力を抑え、仰ぐ動作をした。


突風が小さな旋風を生み、小規模な砂嵐が起きた。


「って。ダメじゃねぇか!!」


(そりゃそうさ。石を積んだくらいで魔力を制御できたら苦労しないよ。)


こいつ!


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