表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
決して戦ってはいけません。  作者: グリーンティ
第一章『降臨編』
3/24

大地の怒り

魔の森から北部に位置する街『グランディア』。

ここには、魔の森から時折出てくる獰猛な魔物共を討伐する歴戦の勇士達が集う。

言わば、戦士の街。

森の中では昼夜問わず、多くの魔物が活動を活発にしている為、戦士達はいつでも出撃できるよう気を引き締めている。


ただ、今日は少し街の様子が違っていた。


「神獣の加護に乾杯!!」


長く豊かな髭を蓄えた小柄でふくよかなドワーフの男が、今日何度言ったか分からない音頭をとる。


元気のあるものは、杯を掲げ返答するが、大半は酔いつぶれ、テーブルに突っ伏している。


総勢13名。彼らは冒険者ギルド、クラン『レギオン』のメンバーである。

数々の戦果を上げ、Sランク冒険者として名を馳せている彼らはまさに一騎当千。

一人でAランクの魔物と渡り合える猛者なのだ。


そして、魔の森の警備を国から、請け負っている者達でもある。


3年前。

見込みのある傭兵、冒険者をまとめ上げ300人近く戦闘に参加させた大型レイド戦。

『準魔王の暴走』を退け、勝利に導いたのは、誰もが知る伝説となっている。


レギオン 軍団の名の通り、集団を統率する能力にも長けたクラン。

その存在は国にとって敵に回すと非常に危険。また、味方にしても有用な戦力になるものの、扱いが難しい。寧ろ影響の大きすぎる厄介な存在となるのは明白だった。


だったのだが。

レイド戦の後、クランリーダーと副リーダーとの間に、子供が出来たことで状況は変わった。

リーダーは子供の将来を考え、安定した生活を望んだのだ。

そこで、国に自分たちの実力を買ってもらい、都市の防衛を任されることで定期的な収入を得ることができるように交渉した。

国としても、扱いの難しかった強者を飼い慣らし、使い潰せる上に、いざという時重要な戦力になるというのだから願ったり叶ったりだった。

かくして、今のレギオンは魔の森の警備クランにとなった。


魔の森の警備は休みがない。

何しろ、日に数十件A級の魔物と思われる存在が目撃される。

魔の森周辺の巡回、マークした強力な魔物の監視、現れた魔物を討伐する人員の勧誘、報告書作成など。クランメンバーと雇用関係にある冒険者達が総動員し、交代制で日夜警備しているのだ。

数週間顔を合わせない事など珍しくないような目まぐるしい仕事なのだ。


そんな彼らが一同に会し、朝から夕刻まで飲み明かしているのには訳がある。


今日は『神獣の日』と呼ばれる祭日なのだ。

世界に7匹しかいない圧倒的存在である神獣の一柱、『不死鳥フェニックス』が上空に飛来するのだ。

魔物は遥か格上の神獣の持つ魔力を感知し、攻撃されない限り行動をとらなくなる性質がある。


神獣の存在が上空にある限り、魔物を来襲の心配はない。

不定期に訪れるこの祭日は、いわば人々や魔物にとっての休日となるというわけである。


「ミザリー、セッツ。全員に解毒魔法を頼む。そろそろ神獣様の御姿を見に行こうじゃねぇか。」

リーダーの男が立ち上がり、魔術師の2人に声を掛ける。

その声に、机に突っ伏していた少女がピクリと反応し、ゆっくりと顔を上げる。ドワーフの前で話を聞かされていた男は、腰につけていた杖を上に掲げ、ほぼ同時に広域解毒魔法の呪文を唱える。


部屋全体に粒子が舞うと、メンバーの酔いは覚めた。そして、それぞれの足取りで外に向う。

外は綺麗な夕暮れとなっていた。


「クロードさん。神獣様ってこの地にはどれくらい現れた事があるんです?私は今日初めて神獣様を見ることになると思うのですが。」

「ああ、ミザリーは『準魔王の暴走』の時に仲間になったから知らねぇんだな。神獣がこの地に現れるのはおおよそ4年周期だと言われてる。現に4年前俺達ゃ拝ませてもらったよ。何回目かは知らねぇが。」


メンバーの誰もが空を見上げて神獣を探す。

不死鳥の姿は燃える火を纏った鳥の姿のため、夜であれば見つけやすい。


夕暮れの中見つけるのはやや難しいが、あるゲン担ぎのため、リーダーが躍起になっているためこんな時間になっている。

曰く「一番に見つけることができたら幸運が訪れる」だそうだ。


そういう迷信はそれなりに浸透しているため、道を歩く人やそこらの市民は皆空を見上げている。



「いた!」

「何!やるじゃねぇか。」

ミザリーと呼ばれた魔術師の少女は、上空にいる赤い点を見つけ、叫んだ。

少女は魔力に敏感な魔術師である。

上空に漂う魔力反応から、神獣の気配に気付いたのだ。


そして、次の瞬間。少女は神獣の近くに異質なものを感じた。

壮絶な嫌な予感。一気に流れ出る冷や汗。そして、訪れる心の底から込み上げる恐怖心。

「ひっ!」


遠目で見た為ほとんどのものが気付かなかった。

否、ミザリーと同じ魔術師であるセッツは気付いたが。


言葉にする事が躊躇われる事実。

「神獣様が、殺された。」


そうポツリと呟くと、ギョッとしたメンバー一同。

それの真意を問い返す間も無く。



巨大地震が世界を襲う。


ーーー


世界が壊れる。

この地震は誰もがそう信じてしまうほどの衝撃だった。


大地は生命が存在するための土台であり、不動なものである。

それが、この世界の大陸に住まう者たちの常識であった。

過去の文献や言い伝えにより、地震という現象の存在は仄めかされているが、どれも大昔のことであり、その記載されている現象の原因が突拍子も無い連想に結び付けられているため誰もが真面目に受け取らなかったこともある。


およそ500年地震は確認されていなかった。



「助けてくれぇ!」「いやぁああああ」「神よ。どうか御慈悲を御慈悲を!」


落下物に巻き込まれるもの、足を竦ませ立つこともままならないもの、愛するものと抱き合い守ろうとするもの。ひたすら神に祈り続け縋るもの。


まるで世界の終わりを迎えたように、阿鼻叫喚の、地獄を彷彿とさせた。



「止まった・・・のか。」

「え、ええ。ぐすっ・・・みたいですね。」


家屋の倒壊はない。落下物に巻き込まれた者もそれほど大きな怪我ではないらしい。


ただ、周囲には不気味な静寂が訪れていた。


ミザリーは、いつも勇ましいクランメンバーに縋るように視線を向けるもすぐに後悔する。


誰もが青い顔をしており、次に何が起こるのか不安でたまらない顔つきをしていた。


なんでも知っていることで一目置かれていたドワーフのガンドさえ、己の神に祈りを続けている。


「一体、今のはなんなのでしょう。」

誰も答えない。ただ、ミザリーは問わずにはいられなかった。



古い伝承に遺された『大地の怒り』と呼ばれる現象。

それが、大地の揺れた原因の正体である。

数日後、王国の知識人が出した結論はあっという間に全世界に広まっていった。



2月28日修正

獣人の信仰対象→世界で7匹しかいない圧倒的存在の一柱


神獣は獣人だけの信仰の対象ではないので修正しました。


11月28日修正

グランディアの位置を北部に変更しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ