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メイドロボットのリア充計画

 ある日のことでございます。私めはいつものように、ブレックファーストの用意をしておりました。ご主人様がお目覚めになる前に、お食事の準備を済ませなくてはなりません。いつもご主人様は七時前後にお目覚めになるので、私めは、五時には食卓に並べられるように、料理をしておりました。

 しかし今朝は、言いつけを守ることができなかったのでございます。なぜなら、ご主人様が早起きをなさってしまったからであります。ご主人様は不機嫌そうなお顔をして、私めをお睨みつけになりました。

「ケッ。リア充なんて爆発しちまえばいいのに」

 私めがお並べしたブレックファーストをお口にお運びになりながら、ご主人様はそうおっしゃいました。しかし、内蔵されているデータには入っていない情報が、そのお言葉には含まれていました。

「申し訳ありませんが、ご主人様、『リア充』とはなんでございましょう」

「あ?……ああ、お前の辞書には古語が載ってないんだったな」

 そう前置きをなさって、ご主人様はお口をお動かしになります。食べ物をお噛み砕きになりながら、器用にお声をお出しになります。

「リア充ってのはな、裕福な生活をすごしながら、恋人作ってきゃっきゃと楽しんでやがるクソみたいな連中のことだ」

 ご主人様のご説明を、辞書ファイルに取り入れます。バックアップもとっておきました。これで、今後「リア充」の単語が出てきても理解することができるのでございます。

「つまり、リア充がいたら爆発したらいい、ということでございますね?」

「あ? あ……ああ、まあそんなもんだ」

 視線をお逸らしになりながら、ご主人様はそうおっしゃいました。いつの間にかブレックファーストはお食べ終えになったようです。私めは、食器を片付けます。

 まだ朝の五時半です。

「料理の音がうるさかったでしょうか。今朝はずいぶん早起きのようですが」

「……いいや、別にそういうわけじゃない。まあ朝食をこんなに早く作ってりゃ、俺が起きる時間には冷めてただろうがな。……旧式だから仕方ない」

 また存じ上げない単語が出てきました。辞書に追加しないといけませんので、私めはもう一度ご主人様に伺います。

「『朝食』ってなんでございますか?」

「は? お前こんな言葉も知らないのか。これだから旧式は……。えーっとだなぁ、朝食ってのは、さっき俺が食べたみたいな、朝に食べる食事のことだ」

「それは『ブレックファースト』と同義ということになりますが」

「そう言ってんだよ、バカ」

 ご主人様はお眉をおしかめになります。

「それで、私めが原因でないのなら、どうしてそう早起きなさったのでしょう」

 ご主人様は、少しだけお顔に翳をお落としになりました。呟くようにおっしゃいます。

「夢を……夢を見たんだ。そこはまるで、昔の世界で。古典小説みたいに、建物が地面から伸びていたり、海を船で渡っていたり。ワカメみたいな髪型の女の子とか、派手な仮面をつけた男とか……とにかく、普通じゃない夢を見た」

「その夢のせいで、ご主人様はお早くお目覚めになったと?」

「ああ……早くこの世界から抜け出さないと、なにか大変なことになるんじゃないのかと、気が気じゃなかった」

 ご主人様のお顔は、まるで今も夢をご覧になっているようです。

「それと、『リア充』になんの関係が?」

「……ない」

 なんとも、こんがらがってしまいそうな話です。脈絡のない話は、コンピュータの処理が遅くなってしまうのでございます。

「……ただ、夢の世界と、古語の世界がマッチしていたからだな。ああやって、なんだか意味不明な物語が繰り広げられている中、恋人作ってきゃっきゃやってる『リア充』がいたんだろうよ。そういう時代だったんだろうよ。……まあ夢なんだけどな」

 ――あんな世界、滅びてしまえばいいのに。

 ご主人様が、そうお呟きになりました。まるで今のこの世界が、実は滅んでないかのような言い草です。

「まあ、それを言うなら、俺はたぶんリア充なんだろうな」

「……と、おっしゃいますと?」

「だって、考えてみろよ。昔は『リア充』という概念があったために『非リア充』が形成されてしまったけど、今はそんなことはない。『リア充』という言葉がないこの世界では、みんながみんなリア充だ」

「つまり、ご主人様もリア充ということでしょうか」

「ああ……そういうことだ」

 そうご主人様は、屈託もなくお笑いになりました。翳はお顔から消えています。

「では、そういうことでございますね」

 私めの言葉に、ご主人様が怪訝そうな表情を咄嗟にお作りになります。私めの申し上げていることが、よくご理解いただけなかったのでございましょう。

 私めは、ゆっくりと音を立てずにご主人様に近づきました。その様子を、ご主人様は不思議そうにお眺めになるだけです。音のない、まるで夢のような行動に。

 そしてご主人様に、私めは手をかざします。

「リア充は――ご爆発くださいませ」

 あでぅ。

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