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文化・風習の武器

 国々にはおのおのの文化や風習がある。例えば食文化でいえば、日本は食べ物を残さず食べることが一般常識だが、アメリカはむしろ残して捨てていくのが普通である。余談だが、私はアメリカ人の友人に、日本の風習によって大食らい扱いされた。そういう違いは問題の種になりがちだが、捉え様によっては、立派に役立つものとなることもできる。

 こんな話がある。日本の電車は一分の遅れを詫びると。これは世界的に見て異様なことであるが、その詫びに気味悪がる日本人は、果たして何人いるだろうか。悪い言い分になってしまうが、日本人の時刻の正確さは、まるで勝手に動き出す機械人形のように気味が悪いのである。

 ……つまり日本人は、時刻をよく守る。□時×分集合だと言われようなら、日本人は必ずそれまでに集合場所に訪れる。やむを得ない場合を除き、日本人が約束の時刻を守らないということはありえない。

 私はそれを評価された。この国際次世代研修会において、私が表彰されたのはそういった理由からである。と、選考委員は語っていた。

 私は日本人に生まれるのを選んで良かったと、心から思っている。日本人は決して食べ物を残すこともなければ、予定時刻に遅れることもないのである。

 私が日本人を選んだのには、ふたつの理由がある。

 ひとつめに、私は日本の映像技術をかった。アニメと呼ばれる、絵を流すことで動くように見せる映像は特に、高い技術を日本は持ち合わせている。私が日本に初めて訪れたのは二〇一〇年のことだが、そのときで既に素晴らしい技術を築いていたのである。繰り返し言うが、この国の映像技術は目を瞠るものがあるのだ。二〇一一年に大きな震災があったが、それでも映像技術が揺れることはなかった。我々の技術を遙かに超える。日本の隣にある大韓民国や中華人民共和国などは、映像技術は目を瞑ったとしても、著作権が(あるいはそれに対する人民の姿勢が)まるでなっていない。いくら素晴らしい映像技術を持っていたとしても、それを守る民がなければ、宝の持ち腐れである。そういう点を鑑みても、日本の芸術性は心を打つのである。著作権などはアメリカ合衆国などのほうが整っているようだが、それでも私は日本の技術をかった。

 ふたつめに、日本の人気が圧倒的に下がっていたことだ。我々から見ても、周りから見ても、日本の今後が明るいものでないことは明白だった。以降は衰退し、先進国の枠組みから外されよう。そのためか、我々の中で日本を選択する者はとても少なかった。私はそれでむしろ、日本に興味を持ったのである。日本は確かに衰えていたが、決して遅れてはいなかったように思う。当時の日本人たちは、みな低迷の世を懸命に乗り越えようとしていたのだ。借金を増やしていく日本に、私は希望の色を見てしまったのだ。

 日本を選び、日本人として生まれた後、上記の、日本特有の風習を学んだ。私は日本人で良かった。今はすっかり復興し、時代の先頭を歩みつつある。私が今回、賞をいただいたこともその証だ。

 賞をいただいて、国際次世代研修会の期間も終了した。私はこの文章を土産に、久々に故郷に帰るつもりだ。少し安息に身を浸からせることにする。もちろん、この会の名称の通り、これは次世代を担う者が集う会である。私は少しだけ休めば、すぐ戻ってくる。私は今後とも、日本の邁進を続けていく予定だ。研修会に参加したことで得られたものも多く、それを参考に計画も練っているのだが、ここでは明かさないことにする。

 今回、受賞という名誉をいただけて、真に嬉しい気持ちで一杯だ。今一度、会に関わったすべての方に感謝を述べたい。ありがとうございました。

 さて、このあたりで文章を終わらせることにする。重ねて、感謝する。もうすぐ船が出る時間だ。もちろん時刻ぴったりに出発するのである。またすぐに、ここへは戻ってくる。今度はれっきとした成人として。……では、さらばだ。また会おう、地球よ。

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