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余裕
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大学四回生のNは、卒業論文を手に事務室へと駆けていた。汗を垂らしている。というのも、締め切りまであと二十分しかないのだ。
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光素の除外された空間では、暗闇という概念さえ通用しない。一対の無が拡散した。宇宙のように拡大してゆく。
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Nは事務室の窓口にようやく到着した。残り十五分であった。「す、すいません!」
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超光速粒子が飛び交う、虚数の中で。分子の負の揺れ動きによって絶対零度を下回る温度が生じていた。もうすぐだ。
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「あのね、きみねぇ」当然のことながらNは職員に叱られた。くどくどと説教を聞かされる。
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Sは能源を物質に変換した。対極の無を圧縮する。次元を飛行した。
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「きみは人生をなんだと思っているんだ」締め切り時間になった。「あ、あの、時間……」
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超光速粒子では時間遡行できない。しかし複素数は両面を備えている。それを用いる。
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Sの行動によりNの周辺の時間が逆戻りした。締め切りまでの猶予を獲得することができたのだ!
卒業論文が白紙へと退行した。
作者註)筒井康隆のオマージュです。




