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Jewelry heaven

作者: 木花開耶

彼/18才/大学一年生

絵の才能を買われ、難関の芸大に見事合格し、芸術活動に専念する。熱帯魚が好き。


私/16才/高校二年生

なかなか逢えず淋しい日々か続くが、恋人として、そんな彼を応援する。






 一分一秒が、こんなに長く感じたことは無かった。




 髪型…よし。

 ワンピース…よし。

 日焼け止め…塗った。

 リップ…少し大人にローズルージュ。

 コロン…クールオーシャンで爽やかに。

 ミュール…お気に入りで行こう。

 時間…約束の時間まで、あと1時間20分。


 …早過ぎる。


「はぁぁぁあ…」

 勢いよくベッドに座りこむ。


 さっきから、鏡と時計とを交互ににらめっこしては、ベッドに戻ってくる始末。




 三月末に卒業して、夢を追いかけて遠方の芸大に行った、二つ上の先輩。

 私の…大切な人。


 …待ちきれない


 お互い予定がなかなか合わず、やっと決まった…待ちに待った約束の日。

 カレンダーには、"あと○日!"のカウントダウンがずらりと並んでいる。




 本当は今すぐにでも駅に行って、彼が来る電車を待っていたいところだけど…。

 ガラス越しに外を見た。

 超快晴…は嬉しいんだけど、お日様濃い過ぎる。こんな中で待っていたら、せっかく頑張ったお化粧も、服も、汗で台なしになってしまう。




 …。

 ……。

 ………。

 約束の時間まであと一時間。


 まだ早いけど、駅近くのスーパーか何かで涼んでたら良いよね?


 よし、行こう!!


 最後にもう一度鏡を確認。

 財布も確認。

 水族館のチケット二枚、ちゃんとある。


 勢いよく玄関を飛び出した。




 駅へ歩きながら、しばらく合っていない彼の顔を思い浮かべる。

 自然と頬が緩んでしまうのが自分でも分かった。




 …あっというまに到着!!

 彼の電車まで後40分以上…急ぎ過ぎたかな、思わず苦笑する。


 とりあえず近くのコンビニに待避。

 …は良いんだけど、狭いコンビニの店内で40分過ごすのは、非常に居心地が悪い。

 出来るだけ目立たない所で雑誌でも読んでいよう。


 …財布が薄いため、コンビニで買い物もしたくないし。

 水族館のチケットを買ったら、残金がほとんど無くなってしまったのだ。


 熱帯魚が好きな彼。

 絵が上手い彼。

 絵の才能を買われ、難関の芸大に入学し、毎日忙しく夢を追いかけてる彼。


 忙しかったり疲れてたりで、なかなか電話も出来ないけど。

 絵を描いてる時の真剣な眼差しが好きだから。

 彼の夢を私も応援する、って約束したから。

 淋しいのはお互い様だから。

 我慢できる。






 あと10分。

 コンビニで良く粘ったぞ、私。

 コーヒー一杯で何時間も喫茶店で粘るのは、こんな感じなんだろうか。

 結局、何も買わないで店を出るのは許してほしい。


 ごめんね、店員さん。余裕が出来たら、いっぱい買い物するから。


 心の中で懺悔して店を出る。




 手鏡を取り出して、もう一回身嗜みチェック。

 そうこうしているうちに、約束の電車がホームに滑り込んできた。


 改札で彼を待つ。

 もう胸が張り裂けそうなくらいバクバクいってる。


 まだかな。人混みの中を注意深く探す。

 まだかな…。どこに居るんだろう。

 まだ…かな…。見つからない。


 あれ、おかしいな…。


 時計を確認。うん間違いない。

 待ち合わせの時間は、何回も何十回も確認したから、間違うはずがない。

 第一、昨日メールで確認しあったんだから、絶対合ってるはず。


 でも…居ない。


 電車、乗り遅れたのかな?




 携帯をチェック。

 新着メール…無し。

 着信履歴…無し。


 こちらから電話しようとして…指先が悩んだ。


 電車一本遅れたくらいで急かしたら、ちょっと重い…かな?

 彼だって、遅刻したのは分かってるはずだし。

 急かした所で、電車が早く着くわけじゃない。


 寛大な大和撫子としては、ここは笑って流してあげるくらいの心の広さを持つべきかもしれない。


 うん、そうしよう。




 しかし…暑い…。

 涼みたい…けど、涼める場所がない。

 まさか、さっきのコンビニに戻るわけにもいかないし…。


 仕方ないから駅前のベンチに座る。


 ちょっとちょっと…。少しは手加減しなさいよね?

 太陽を睨みつけてやるけど、太陽の睨みの方が何万倍も強烈。


 はぁ…。

 早く来ないかな。




 約30分間、待ちに待った…文字通り待ち焦がれた電車。




 でも、彼の姿が…無い。




 仕方なく電話する。

 だけど、無機質な発信音が鳴るばかり。

 メールも送ったが、返信はない。




 どうして?

 忘れてる…訳…ないよね?




 それでも、待ち続けるしかない。




 1時間後の電車。

 彼の姿は見えない。




 1時間半後の電車。

 電話の発信履歴が、10回を越えた。




 2時間後の電車。

 暑い…暑いよ。




 2時間半後の…電車。

 家にも電話した。…彼からの連絡は無いそうだ。






 あ…。


 時刻はお昼4時過ぎ。

 あまりの暑さに、意識も薄れかけた頃。


 うなだれていた首筋に当たったのは、小さな水滴。


 雨…?


 曇天の空。太陽はいつの間にか姿を隠し、代わりに分厚い雲が空を覆っていた。


 日差しは薄れたけど…全然涼しくない。

 むしろ、蒸し暑さが…不快指数は上がったかもしれない。




 ぽつり、ぽつり、と気づくか気づかないかの雨粒はやがて…。


 ザァーーーー


 と、急に激しさを増して。




 あは、あはは…。

 私、馬鹿みたい。

 雨の中、渇いた笑みが浮かんだ。


 どうせ、お化粧も、コロンも、日焼け止めも、汗で流れてしまっているんだから。


 もう…どうでもいいや。

 俯いたまま、ワンピースの裾を握りしめた。


 全部流しちゃってよ。


 ずぶ濡れがお似合いね。


 もう………。




「もしもし?」

 不意に声をかけられた。

 同時に降り注ぐ雨が止んだ。

「濡れていますよ?」

 目を上げると、優しそうに微笑む初老の男性が、傘を差し出して立っていた。

 鉄道会社の制服を着ている…駅員さんだろう。


「駅舎に来なさい…風邪をひいてしまいます」


 駅員さんの親切な言葉にも、私は黙って俯き、首を振った。

 どうでも良かった。

 もう、なにもかも。


「誰かを、待っているのですね?」

 穏やかな声だった。それでも、雨音に掻き消されない、通る声だった。

「3時間近く、待っているのでしょう?駅舎から見えていましたよ」


 返事をしようとしたけど、声が出なかった。


「大切な方なのですね?」


 大切。

 大…切。

 私にとって、大切な、特別な、人。


 やっと搾り出した声は、かすれたような肯定の言葉。


 同時に、早く逢いたい、という感情が溢れてきた。


「…髪だけでも、拭きなさい」

 そう言って、ハンドタオルを差し出してくれた。


 いつの間にか、雨は止んでいた。

 通り雨だったのだろう。地面に水溜まりだけを残すと、あっという間に去って行ったのだ。


 そして、再び戻ってきた直射日光。


 どうして…来てくれないの?


 待ってるのに。




 雨は上がったのに、気分は晴れないまま。

 むしろどんどん落ち込んで、苛立って…そう、苛立って。


 メールの一つくらい、電話の一つくらい、よこしたって良いのに。




 もう、良い。

 これ以上待っていても、惨めなだけだ。

 炎天下の中、体力も限界を越えていた。


 帰…ろう。




「――!!」

 ベンチから立ち上がろうとした時、私の名前を叫ぶ声が聞こえた。


「――!!」

 間違いない。彼だ。

 やっと…来たのだ。


 駅から走って来る彼を…私はやけに冷静に見ていた。


「…っ。はぁっ…はぁ…。…久しぶり。…待たせたな。…さ、行こうぜ。デートのプランニング、おまえがしてくれたんだろ?」

 息を弾ませながら、にこやかに笑う彼。


 でも…。

「"待たせたな"って…それだけ?3時間も何してたの?」

 カチンときた。私は炎天下の中、ずっと待ってたのに。


「え?…あぁ、有名な先生がキャンバスに来られてな…色々話してたんだよ。才能ある、って褒められたんだぜ?凄いだろ?」

 脇に抱えた、紙に包まれた薄い板を見せながら、得意そうに言う。おそらく、包みの中はキャンバスだろう。


 違う…私が聞きたいのは、そんなんじゃない。

 そんな言葉じゃない。


「…ひとこと。ひとこと謝ったって良くない?」


「仕方ないだろ、話を途中で切り上げるわけにもいかなかったんだ。それに、大学行く時に、ちゃんと約束しただろ?美術活動最優先にする。って」




『俺、行けるところまで、夢を追っかけてみようと思うんだ』


『そっか…うん、頑張って』


『おう。…あんまり話せなくなるし、美術関係の予定が入ると、そっち最優先で活動したいんだ』


『分かった。応援してる』




 そう約束したのは事実。

 でも、それとこれとは話が違う。




「それよりさ、これ見てくれよ」

 結局、ひとことも謝らず、脇に抱えた包みを私に差し出す。




 ――限界だった。




「――いい加減に…してよ!!」


 差し出された包みをひったくって、地面に…水溜まりに、叩き付けた。

 その上から、思いっきり踏み付ける。


 ミュールのヒール部分が、キャンバスに突き刺さるのが、分かった。




 思わず、彼に詰め寄った。


「…応援するとは言ったけど!!」

 ――せめて。


「応援してるけど!!」

 ――今日くらいは。


「私は!!」

 ――私を。


「いったい!!」

 "1番"に。


「何なの!?」

 して欲しかった。




「…あぁ…」

 彼は俯いたまま片膝をつき、私の足元に手を伸ばした。


「――っ!!」

 頭が沸騰しそうになる。


 この状況でも…

 この状況でも、彼は…

 "私"より、"絵"が大事なのだ。

 "私"より、"絵"に手を伸ばすのだ。


「ふ…ふざけないでよ!!」

 私はゆっくりと片足を上げ、もう一度キャンバスを思い切り踏み付けた。


 私の脚に、キャンバスを拾おうとしていた彼の顔に、泥水が撥ねた。


「…ごめん」

 彼は伸ばそうとしていた手を握りしめて、ようやくぽつりと謝った。

 それでも彼の視線の先は、私の足元にあった。


 その時になってようやく、自分の足元を見る。


 水溜まりに突っ込んだ左足。


 そこに映った自分の顔は酷く醜く歪んでいた。




 ――否。




 水溜まりの中で、泥だらけに踏み荒らされた私の顔は………。




「…わ……た…し?」

 包み紙は破け、中のキャンバスに描かれていた人。それは間違いなく、私だった。


「…うん」

 水溜まりの中から大切そうにキャンバスを拾いあげる彼から、思わず数歩後ずさった。


 上手く頭が回らない。

 上手く言葉に出来ない。


「ごめん…」

 もう一度呟くように謝る彼。


 そんな彼を見ていられなかった。

 今すぐここから逃げ出したかった。


 遠くへ、遠くへ。






 ――気が付くと、自宅の玄関の前で息を切らせて立っていた。



 携帯が鳴っていた。

 ――音声着信5件。

 ――新着メール2件。

 …全部彼からのもの。


 首を振って携帯を閉じる。


 とてもじゃないが、今彼と顔を合わせられない。


 家に居たら、彼が訪ねて来るかもしれない。

 どこか別の場所へ――。




 結局。

 彷徨い行き着いた先は。


 …受付終了した水族館の入場口。


 この日まで、今日のデートを何度も何度もシュミレートしてきたのだ。そのせいで無意識に足が向かったのだろうか。


 自嘲めいた笑いと共に踵を返す。




 …帰ろう。

 くたくたに疲れていた。一度自宅の前まで帰った時、せめて着替えれば良かった。

 もう空は薄暗くなっていた。雨に濡れた服では肌寒いくらいあった。


 今日という日を待ち望んでいたはずなのに。

 彼が来た時、私が笑って許していれば…少なくともそれから先は楽しい時間が待っていたのだろう。

 つまらない意地を守るために、何を犠牲にしたのか。

 次、彼と会う時、話す時、メールする時…何を言えば良いのか、何を話せば良いのか。それすらも分からないでいた。




「――!!」

 夏風に乗って聞こえる、私を呼ぶ声。

 幻聴まで聞こえるようになったら、もう重症かな?


 それでもはっきりと、次第にはっきりと聞こえてくる彼の声に目を上げた。


 道路の向こう、反対側の歩道から大きく手を振りながら、車の往来縫うように走ってくる彼の姿があった。


「――ち、ちょっと!?」

 そんなことしたら。

「危な――」


 乗用車が。


「――!!」

 必死に彼の名を呼ぶ。




「――あ…危ないでしょ!!あなた何考えてるの!?」

 恐る恐る目を開けると、対向車線にはみ出すように斜めに止まった車から、運転手の女性が怒鳴っていた。


「すいません!!すいません!!」

 謝る時間も惜しいのか、息を切らせながら大急ぎでこちらに駆け寄ってくる。


「…やっと…見つけた」

「…」

 上手く言葉が出て来ない。

「ごめん…今日は本当に悪かった!!」

 私の顔を窺うように、勢いよく頭を下げる。

「この――」

 ようやく私の頭が回り始めた。

「――この馬鹿っ!!…確認もしないで車道横ぎって…事故にあったらどうすんの!!」

 もしも、万が一にも、彼が事故に遭って。

「…死ん…じゃったら…」

 私はもう、生きてはいけない。

「どう…すんの…よ」


 最後の方は涙で上手く声にならなかった。

 彼はひたすら謝るばかり。


 落ち着いたのはしばらく経ってから。




「…よく私を見つけられたね…」

「…まぁ、水族館の方に行ったんじゃないかな…って思ってたから」

「あれ?なんで知ってるの?」

 私がデートに水族館を選んだのも、水族館のチケットを買ったのも、彼には内緒のはずだ。

「これ…チケット。お前、落として行ったぞ?」

 差し出されたのは水族館のチケット。どうやら駅前で落としてしまったらしい。


「今から行くか?」

 しわくちゃになったチケットのシワを伸ばしながら彼が尋ねてくるが、私は首を振った。

「…もう、受付時間過ぎてる」

「…そっか。ごめんな」

「…別に」

「でも、なんで水族館なんだ?」

「魚、好きでしょ?」

 彼が以前、自室で何種類もの熱帯魚を飼っていたのを思い出したのだ。

「よく覚えてたな…熱帯魚飼ってたのなんて、もう何年も昔だぞ?」

「綺麗だったし、何度か餌もあげた事あるし」

「…あぁ…そうだったな」

 彼は思い出したように笑った。

「お前がしっちゃかめっちゃか餌投げ込むんで、俺が怒ったことあったな」

 …確かにそういうこともあったかもしれない。


「…そっか…受付終了か…」

 チケットを睨み付ける彼。

「これ、高かったろ?」

「うん、まぁ…」

 二ヶ月分のお小遣が飛んでいったのは内緒。


「…よし」

 何を思ったか彼は、チケットの半券を丁寧に切り取りはじめた。

 小さい方の半券(水族館側が取る方)は小さく破って空に舞い上げる。

「ほら」

 残った半券を差し出された。

「?」

 よく意味も分からないまま受け取る。


「今日のお詫びだ。今から海に連れていってやる」

 海!?…ここから海は…かなり遠いけど。

「あー…、海と言うよりは川…かな?」

 川…それならいくらでも流れてはいるが、どの川もお世辞にも清流とは言えない。気の利いた魚がいるとも思えなかった。


「とりあえずついて来い。俺だけの秘密の場所なんだ。そのチケットは、秘密の場所に入るための入場券」

 そう言って彼は、私の手を握って歩きだす。


「秘密の…川?」

「うん、まぁ別に秘密って訳でも無いんだが、誰かを連れていくのは初めてだからな」

 そんな川があるのだろうか?


「…こっちだ」

 やがて彼が連れてきたのは、小高い丘。

「ここに川があるの?」

 川はおろか、池もなさそうだけど。

「あぁ、とりあえず登るぞ」

 腰まである藪を掻き分けて進むと、拓けた場所に出た。

「ここは昔から変わってねぇな…」

 懐かしそうに呟く彼を横に辺りを見渡すが、どこにも水の流れはない。

「…川って?」

「まぁ、座れよ」

 そう言って彼は地面に大の字になった。

 私も彼の横に座りつつ、キョロキョロと川を探す。


「…ほら」

 彼は上を――夜空を指差した。

「Milky way」

 彼の指差す先を見上げる。

 満天の星空だった。

「…ラテン語では、Orbis lacteus」

 滑らかな発音が続いた。

「和名では、天の川」

 あっ、と息をのむ。そういうことか。


「綺麗…」

 思えば、じっと夜空を見上げるのもずいぶん久しぶりだ。


「綺麗だろ?」

「うん…」

 私も彼の横に寝そべる。

「あれがアルタイル…彦星」

 私も必死に探すけど…どこだろう。

「そしてあれがベガ…織姫」

「わぁあ!?ちょっと待って…まだ彦星様が行方不明なんだから」

 口を尖らせて抗議する。

「ほら、一番上の方…めちゃくちゃ明るい星があるだろ?」


 え…っと?

「あ!あった!!あれが彦――」

「――それはデネブ」

「…」

 腹いせに脇腹を小突いてやる。

「痛ぇ!?…いや、デネブさえ見つけたら後は簡単だって」


 彼の教えてくれる通り、織姫と彦星を探す。

 …見つけるだけで30分くらいかかった気がする。


「もう覚えた?」

「…多分」

 正直自信が無い。

「多分って…」


 苦笑まじりの彼に取り繕うように話題を変える。

「そういえばさ、織姫と彦星って、年に一度しか逢えないんだよね?」

「うん、そうだね。お互い天の川を挟んだ向こう側にいるからね」

「そっか…寂しいね」

「…うん」


 自分達を織姫と彦星に重ねたら、神話に失礼だろうか?


「俺達はメールも電話もあるし」

「そうだよね…年に一度しか逢えない、って訳でも無いし」


 二人だけの時間がゆっくりと流れる中、大事な事を思い出して飛び起きる。


「ん?どうした?」

「いや、あの…」

 言葉につまるけど。

 地面に正座しなおして、深々と頭を下げた。

「ごめんなさいっ!!…大切な絵、台なしにしちゃって」

 申し訳なさで頭が一杯だった。


「いや、あれは…俺もデリカシーが無かった。早くお前に見せたくて、つい…」

「いやいやいや、私が頭沸いちゃって、あんなこと…。あの絵って…その…」

 暗闇の中でも、彼が頷いたのが分かった。

「あぁ…お前の…だ」

 やっぱり。


「別に良いんだ。絵はまた描けば良いし。それに――」


 ゆっくりと。


「――それに、今…お前が目の前にいてくれるから」


 ゆっくりと彼の顔が近付いて………。






 星に願いを。

 どうかこの一瞬が。

 流れ星が消えるよりも短い、この一瞬が。


 永遠であり続けますように。





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