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皇帝である夫が魔族に呪われた結果、わたしが部屋から出られない

作者: 稲井田そう
掲載日:2026/06/06

 この国は、建国から存在している魔族と戦い続けている。


 魔族というのは、ほぼ人の形をしており、魔力と呼ばれる不思議な力で人を宙に浮かしたり、幻覚を見せることができる。


 魔力はこの国の人間も持っていて、魔力を使って魔族と戦うが、相手が人の形をしているという点で気付くだろう。


 同族なのだ。ほぼ。


 建国当時、魔族はアメーバ状だったり、龍のような見た目をしていたらしいが、年々人の形に近づいていった。


 理由は魔族と人の結びつきが発生したからだ。いわゆる交配である。


 本来魔族も人間も殺し合うのみ、殺意単一の感情しかなかったが、同族同士の争いのほうが激しい時代があり、人間同士の暴行現場を見かねた魔族が助けに入り恋愛関係に至る……ということがたびたび発生していた。「人間はクソ、魔族様素敵」「魔族はクソ、人間って良くない?」これが死ぬほど繰り返された。


 同時にどんな時代も何らかの変態紳士、変態淑女は存在しており、国の代表たちは争う一方、民の間では人間の血を色濃く引いた魔族の子、魔族の血を引いた人間の子が生まれ、今や正直区別がつかない。


 100年前は角があれば魔族、角が無ければ人間と見分けがついていたらしいが、今はぐっちゃぐちゃ。


 とりあえず魔族陣営は魔族だとハッキリわかる、人間陣営は人間だとハッキリわかる陣営で揃え、争い合っていた祖先の顔を立てるため、そしてお互いのどうしようもない事情を相手のせいにして同じ陣営を納得させるため、軽く魔法の掛け合いをするということで均衡を保っている。


 人間側は魔法をかける。魔族的には呪いをかける。月1回の交互だ。


 内容は、結構ふざけてるもののほうが多い。結局、外向き用なのでお互いの陣営に酷い被害は出してはいけない。そしてふざけた内容を互いの参謀がそれっぽく言うのがお決まりの流れだった。


 先月は、魔族陣営の代表である魔王の妃に、人間陣営代表の皇帝の妃である私が、幼児化の魔法をかけた。そして今月、魔族陣営が人間陣営代表である私の夫……この国の皇帝に呪いをかけた。


 内容は、過去の想定が具現化する呪いである。もしも海に行けていたら、と想定があれば海が広がるらしい。戦の想定をしていたら火の海にでもなるのだろうかと一瞬考えたけど、お互いの信頼関係によるものだろうし、そこまで大事にならないと魔族代表である魔王の妃と盛り上がった。


 ただ、普段は「いつも通りの流れ」で終わるはずの流れが、シャレにならなくなった。


 私の部屋を圧迫する、腐った花と腐ったケーキとよく分からない紙の束。


 突然ドン、である。転移魔法で嫌がらせでもされてるのかと思えど、そういう魔法の気配も無かった。腐った花と腐ったケーキとよく分からない紙の束を生成する呪いにかかったのかもしれない。魔王、出力先もろもろ間違えたのでは?


 人間と魔族の争いの火種になりそうだが、わざとじゃないことは分かる。魔王はそういう性格じゃないから。というか、普通に生きてて隣人夫妻の妻のほうにここまでの悪意を持つ男なんてほぼいないだろう。「奥さんの知り合いの人」程度だと思う。私も正直、魔王に対しては魔王というより「いつもお世話になってるご近所さんの旦那さん」以外の感情がない。「あぁ~いつもお世話になっております~」以外の会話がない。あとはもう、魔王は私の夫と話すし、私も奥さんと話す。


 そもそも私、自分の夫とも話さないし。


 典型的な政略結婚だから、というのもあるだろうが、皇帝は死ぬほど無口なのだ。政治の場ではそれとなく明るさを出すが、私生活は暗いし何かを考えているかよく分からない。魔王のほうは私生活だろうが政治の場でも暗いので、四人集まると魔王の奥様が一人で喋り、私しか相槌をうたない、返事をしないことが多発する。


 そのため自分の夫に対して、「顧みられない」「夫は私のことなんか好きじゃない」と思う以前に認識してるかすら危ういと感じていた。妃とは認識できているだろうけど、個体として認識されているか分からない。喋らないし。誕生日だって祝われたことないし、私に何もしないわりに、周囲はこまめに褒めてケーキの差し入れしていることも知っている。

 

 そんな感じだったので、想定が具現化する呪いに関して魔王の奥様とも盛り上がったのだ。魔王の奥様は「不器用な愛情が分かる機会」と笑っていたが、こちらは離婚の根拠にする気だったので。


 にもかかわらずこれ、まさかの不発。


 なんなんだろうなと思いながら私はひとまず謎の紙束に手を伸ばした。私宛の手紙だ。


『いつもありがとう』


 汚い字で書かれた手紙は、グチャグチャに丸められている。


 別の手紙を開ければ、若干さっきとはマシな字で『いつもありがとうございます』と書かれていた。


 この字には見覚えがある。夫の字だ。


 腐ったケーキはもう判別できないが、枯れた花は度々廊下で突発的に飾られてきた花と似てる気がする。

 

「これもしかして、渡せなかった……」


 呟いてすぐ、バタバタと足音が聞こえてくる。聞きなれた足音はやがて大きくなって、ドアノブを回す音が部屋に響く。


 呪いは多分、不発じゃない。



魔族と人間同士で非合法なのは一切ないです。相思相愛と変態の組み合わせしかありません。

それだけよろしくお願いいたします。




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― 新着の感想 ―
「「人間はクソ、魔族様素敵」「魔族はクソ、人間って良くない?」これが死ぬほど繰り返された。」なるほどなぁ〜そういう事もたしかにありそうと思ったら急に変態紳士変態淑女出てきてわろてしまいましたw。 「「…
隣人夫妻の妻←戦い続けている種族への認識じゃなさすぎる 魔王の妃が笑っていたあたり皇帝の思いは周囲にバレバレになってそうですね 楽しいお話でした、魔王夫妻のお話も気になってしまいます!
平和だなぁー
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