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デコとトオル  作者: 黒蜥蜴


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2/6

甘辛い牛肉は正義

布団に入ってスマホでMYTUBEのアプリを開く。今日は金曜日。土日の休みに作り置きをして食事の用意を簡単にしたい!でも買い物と料理と後片付けで休みが全部潰れるのは嫌。そんなときに動画サイトは便利だな〜。別に作り置きも凝った料理じゃなくて良いから、取り敢えず食材の名前と時短、簡単、材料〇つとか適当に入力してレシピを探せるのが楽で嬉しいね。レシピアプリも使い慣れたら楽しいんだろうけど、動画の方が工程が分かりやすいと思う。僕は料理が下手な部類に入るのでレシピアプリのささっと出来る!は信用していない。モタモタしてしまう自覚があるからだ……おお、この動画なんかシンプルで美味しそうなレシピじゃないか?【作り置き向け!牛肉の時雨煮】。再生回数は42回、一昨日に投稿された動画らしい。サムネイルには落ち着いた色味の茶色い肉とごぼうが見える。ネギなどの緑を散らしたりはしていない。気取らない感じが好感が持てる。ごぼうなんて久しく食べてない気がするぞ……味が染みると旨いんだよなあ。動画を再生すると、ささやかなBGMと共に男女の掛け合いが弾けるようだ。


「こんにちは、デコで〜す!」

「こんにちは、トオルです。2回目の動画投稿ですが動画編集ってホントに難しいですね。それはそれとしてデコちゃんのこの満面の笑み……あ、顔出してないから分からないですね、すみません」


映像にはパンパンになったエコバッグが映っている。黒くて四角い大容量のものだ。そこに白い腕がにゅっと入って、牛肉の切り落としのパックを取り出しピントを合わせる。


「トオルちゃんのおドジ!はい始まりました『デコとトオルちゃんねる』。実は〜!いつも行くスーパーで牛肉の切り落としがめちゃ安かったの!」

「多くない?300gを3パックってほぼ1kgじゃん。冷凍庫に入れるにしても1パックが限界なんだけど」


肉のパックには300g459円と記されているのが見える。100g150円程度なら確かに安い。しかしそんなに牛肉が食卓に続くと飽きるのでは?レパートリーが少ない僕では肉野菜炒めくらいにしか出来ないぞ。それか焼肉のタレで焼くとか。


「お肉ちゃんは1つは冷蔵庫でおかずになるの待機、1つは今夜のおかず、もう1つは保存食なのだ!」

「簡単レシピなの?」

「それはもう簡単!まあ保存食といっても冷凍で2週間くらいです。お弁当のおかずにもオススメ!牛肉の時雨煮を作っちゃうよ!」


冷凍庫なら空いている。保存容器もある。一旦動画を見て、作りやすそうなら自分もやってみるか。


「需要ありまくりな言葉は一旦置いといて……」

「よっしゃ〜!」

「「行ってみよ!」」


♪«デコとトオル»

というジングルが玉ねぎとごぼうを映した映像と一緒に流れる。MYTUBEでよく聞くBGMが切り替わり、ジャズピアノの演奏になった。心地良いテンポだ。


「材料こちらです」


キッチンでトオルくんが言うとテロップに【牛肉300g、玉ねぎ2分の1、ごぼう2分の1、砂糖大さじ3、醤油大さじ3、カップの日本酒2分の1(料理酒100mlで代用可)、生姜すり下ろしチューブ半分】と出た。生姜のチューブ半分?!


「生姜とお酒結構使うんだね。そうそう、うちでは料理酒の代わりに普通のカップの日本酒使ってます」

「日本酒そのまま飲むの苦手だからだいたいカクテルにしてま〜す!お酒はお肉を柔らかくするために必要なので!生姜はたくさん使った方がキリッとしてご飯に合うからだよん」


言われてみれば時雨煮は佃煮の一種なのだから、生姜がたくさん入っている方が日持ちする、のだろうか。いや生姜は風味付けで、砂糖とか醤油の量で佃煮の保存日数が変わるはず。このレシピでは冷凍保存する前提らしく砂糖や醤油は控えめだ。


「では下ごしらえからいくよ〜。ごぼうをしっかり洗って斜めに薄切りにしていきます」

「ささがき出来る人はささがきでオッケー!トオルちと私は苦手だからしない!玉ねぎも半分にしてから薄切りにしま〜す」


ささがきが出来ない僕でも安心である。デコちゃんは玉ねぎをかなり薄く切っている。繊維に沿って、という感じだ。


「ささがき難しいよね。ところで時雨煮って生姜使う甘辛い佃煮全般のことらしいけど、牛肉だけで良いじゃん。お野菜入れるのは何で?」

「単純にかさ増しで〜す!あとごぼうと玉ねぎは味をちゃんと出してくれるから!玉ねぎの甘みとごぼうの旨味、歯応えは大事!ごぼうが無いときは玉ねぎ1つ入れちゃうのもアリ寄りのアリ。ごぼうはアク抜きしないでそのまま使っちゃう!」


アク抜きしない?!ごぼうは切ったらとにかく水に晒すものだと思っていたのでびっくりだ。でも野菜でかさ増しできるのはいいな。食感が豊かで栄養も摂れるのは素敵なことだ。


「なるほどね〜。では切ったごぼうと玉ねぎをフライパンで焼きます。ノンオイル調理です」

「テフロンがヤバいフライパンの方はちゃんと油引いて焼いてくださ〜い!牛脂だとリッチなお味になるしごま油でもコクが出て美味しく出来ちゃいます!もちろんサラダ油もよろしくてよ!」


IHコンロで野菜が焼かれていく。うちのフライパンはまだテフロン加工が健在なので油無しで焼けるだろう。でも牛脂で炒めるの美味しそうだなあ……


「ちょっと焼き目が付いてきたらお肉を投入して砂糖を入れます」

「お肉を加熱するときすぐに砂糖入れるのが良いって何かで見た記憶があるのでこの順番だっちゃ!お肉の片面色が変わってお砂糖もお肉に馴染んだらお酒とお醤油、生姜のすり下ろし入れま〜す!ぐるぐるっと混ぜて〜」

「フライパンの蓋をして3分煮てから、蓋を取って水分がなくなるまで煮詰めます」

「一番美味しくなってる目安は、牛肉の端っこが砂糖で照り照りしててカリカリになってたら大成功!ウ~ン良い香り!お肉アップで撮って!」


三脚か何かを持ったようなミチ、という音がしてカメラがぐーんとフライパンの中を覗き込むようにアップになった。酒が煮詰められて蒸発する音がじゅわじゅわじゅわ、と聞こえて何だか腹が減る。くそ、寝る前に見るんじゃなかった!


「ご覧ください、照り照りカリカリです。これを保存容器に詰めていきます」

「粗熱が取れたら冷凍庫へ!お弁当のおかずにしたい方はおかずカップに入れて冷凍保存すると便利よ!」

「完成〜!」


おや、まだ動画時間があるぞ?続きをそのまま再生する。


「今回動画の尺がちょっと短いので、牛肉の時雨煮のアレンジレシピも撮影することにしました〜!イェイ!」

「時雨煮の玉子とじ丼です。うちには小さめのフライパンがありまして、親子丼とかカツ丼とかの乗っけ飯1人分を作りやすいサイズなのでご紹介します。もちろん普通のフライパンで作ってもヨシ」


先程時雨煮を作っていたフライパンと並べて比べている。本当に小さいフライパンだ。目玉焼きにちょうど良さそうなサイズ感。


「ご飯のお供にもお酒のおつまみにも!まず牛肉の時雨煮を80g取り分けますよん。2人分だから1人40gで〜す!」

「味付けがしっかりしてるからたくさん食べなくても満足感があります。ごぼうのおかげでしっかり噛み締めて味わえるのがポイントですよ」


玉子とじ!いかにも和食って感じで食欲が唆られる。おつまみにもなるというのが魅力的だ。


「ごま油を少量たらーりとフライパンに入れて、1人分の時雨煮を軽く広げつつ炒めま〜す!」

「溶いた卵1個に白だしを小さじ2分の1入れてよく混ぜます」

「そしたらば!あったまったフライパンに卵をぐるっと流し込む!」

「卵が半熟になるまで触らないこと。固まってきたらシリコンの大きいスプーンで掬い上げて丼ぶりのご飯に乗せます」

「出来上がりなのだ〜!」


保存容器に入れられた時雨煮と玉子とじ丼が映る。玉子とじ丼はほかほかと湯気を立てているのが目に毒である。


「それではいただきます」

「いっただっきま〜す!うん、お肉の旨味と野菜の優しい味にふわふわ玉子!美味しいねッ!」

「甘じょっぱい味付けにごま油のコクが牛肉とごぼうに合うんだな〜。玉ねぎは薄いので甘みは感じられるけど食感は主張しません」

「和食特有の『入れるけど悟らせたくない』ってやつです!これテストに出ますわよ!」

「レシピを簡単にまとめたものを概要欄に掲載しておきます。ここまでご視聴頂きありがとうございました!」

「デコとトオルでした〜!」


«チャンネル登録し・て・ねッ!»とスタッカートの付いたデコちゃんの声で動画が終了した。

明日牛肉とごぼう買ってこよう。玉ねぎはあるし、生姜のチューブも残っているはずだ。深夜に見てしまったことをとても後悔しながら寝る用意をする。ついでにポチッと。

『デコとトオルちゃんねる』の登録者数は13人になった。





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