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いろんな人がいろんなところで

オルゴール


 祖母の家の奥の飾り棚の一段だけが、いつ見ても不思議なほどよく磨かれている。あの棚には、祖母が大事にしている小さなオルゴールが置かれている。


 祖母は、そのオルゴールを人に触らせない。ただ、音はよく聴かせてくれた。わたしはその音が好きだった。祖母が自分の膝に置いて、そっとゼンマイを巻く姿は、祈りのようだった。


 ゼンマイの「コリ、コリ」という音が止むと、いつも決まって同じメロディが流れ出す。どこか懐かしく、薄い霞みの向こうから聞こえてくるような旋律。わたしは曲名を尋ねたことがあるが、祖母は「さあ、なんだったかしらねえ」と笑っただけだった。けれどその笑いには、何かを隠しているような、遠い場所を見つめるような影が差していた。


 中学生になった頃、祖母が入院することになった。祖母は入院の前の日、わたしを呼んだ。そしてオルゴールを取り出し、膝の上にそっと置いた。


「これはね、私の母から受け継いだものなのよ。母は自分の祖母からだって言っていたわ」


 祖母の母。写真でしか見たことがないけれど、子供の祖母を抱いて笑っている。


「お前のお父さんが生まれた時には、これを鳴らしながら眠らせたものよ」


 そう言って祖母はいつものようにゼンマイを巻いた。弱い指の動き。以前よりも細くなった手首。それでも、その動作だけは昔のままの自然さだった。


 ふたを開けると、あの優しい音色が鳴った。何度も聴いたはずなのに、その時は違って聞こえた。病院の白い壁や、祖母の静かな横顔が重なり、胸の奥がきゅっと締め付けられた。


「この音がね、私をよく助けてくれたの。教えてくれるのよ。悲しいときも、怒っているときも、ふっと気持ちが戻ってくるのよ。不思議ね」


 祖母は微笑んだが、その目は少し潤んでいた。


「それでね、お前には譲る時が来たって教えてくれた。もう少し大人になってからだと思っていたけど」


祖母は戻って来なかった。医療事故だ。些細なミスが重なった結果だと父母は泣いた。 


オルゴールを鳴らしていると悲しみが癒えた。


わたしも結婚する時にオルゴールを持って行った。折に触れてゼンマイを巻く時これって祖母の姿のまんまだと思った。子供に聞かせ、孫に聞かせた。


ある日、音が変わった。そしてわかった。そう、教えてくれるのだ。


わたしは孫を呼んで、オルゴールを譲った。祖母のように話をして。



 


 






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