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Fさんの場合

『怨霊の背景を探る』!

 人の世はとかく世知辛いものです。真面目に生きていても、知らぬうちに巻き込まれてしまうことも……。

 誰でも怨霊の元になる感情は持っています……そう……あなたも……。

 このコーナーでは、怨霊になった皆さんに、その経緯をお聞かせいただきます。本日は、怨霊のFさんに霊界通信を通して、ご出演いただいております。


「よろしくお願いいたします」


 これはこれは、ごていねいに。私には霊界通信で映像が見えるようになっているんですが、Fさんはとてもシュッとした、おしゃれな方ですね。清潔感があって、中性的な印象を受けます。


「うふふ。お褒めにあずかり、恐縮です」


 ええー、本当に怨霊なんですか? 銀座あたりを歩いていてもおかしくはなさそうな、上品な感じがしますけども。


「こう見えても、わたくし怨霊でございます」


 ふふ。わたくし怨霊でございますって自己紹介、ちょっと面白いですね。

 まずは、Fさんについて、お聞かせいただけますか? お洋服を見た感じ、割と現代の方ですよね。銀ブラとかされます?


「つい最近怨霊になったばかりですので、こちらの界隈のことは、くわしく存じ上げません。生前、銀ブラはあまりしませんでしたね」


 そうでしたか。

 お話の途中ですが、一旦CMです。Fさんがなぜ怨霊になられたのか、引き続き、お話をうかがっていきます。続きはCMのあとで!


***


 さて、それでは改めまして、Fさんが怨霊になった経緯をうかがっていきます。

 Fさんは最近怨霊になられたということでしたね。おしゃれな方のようにお見受けしますが、生前はあまり銀ブラなどをされなかった……と。


「はい」


 生前……ということは、Fさんはすでに亡くなられているということですね。失礼ですが、無念の死を遂げられたりだとかは……?


「30代の頃に亡くなりました。突然倒れて、そのまま三途の川を渡りましたので、気が付いたら死んでいたようなものですね」


 そうでしたか……。では、死の実感があまりなくて、さまよっている感じですか?

 それとも、以前ご出演いただいたCさんのように「もっと遊びたい!」だとか……。

 ぱっと見た感じ、Fさんのような方が怨霊になるとは、意外でした。


「うーん……。死の実感がないのは確かなんですけれど……どう言えばいいのかしら。心残りとも少し違うし……どちらかというと……思い出し怒り?」


 思い出し怒り!?

 これはまったく予想しなかった答えが出てきましたね。

 でもそういうことって、生きているとたまにありますよね。その場はなんとなく収めてしまったり、流してしまったりしたけれど、後から思い出すと、腹が立ってくる……なんてこと。


「普段はそんなに怒りを引きずらないんですけれど、これだけは絶対許せない! というものがありまして……」


 おおお……スタジオの床に、暗い色の花が咲きはじめました。ちょっとしおれてますね。土も水もないから? あの世の花なんですかね?

 Fさんの思い出し怒りの内容は、いったいどういうものですか?


「わたくし、生まれたときは男の子だったのですが、女の子の遊びやお洋服が好きだったんですね」


 ああ、そうなんですね。今はわりとよく聞きますね。男の子が赤いランドセルを欲しがるだとか。

 Fさんの中性的な印象は、そういったところから来ているのかもしれません。


「世間一般で『オネエ』と言いますでしょう? ……そういう方たちとも、また少し違って……自分の性別がよくわからないんですよ。身体は男性ではあるんですが、性自認……というのかしら。心の性別が、よくわからないんです」


 そうでしたか。てっきり、心の性別は女性の方なのかなと思っていました。

 グレーゾーンってやつですかね?


「……わからないんです。生前はよく、『オネエなの?』と聞かれたのですが、わからないから答えようがなくて」


 ああー。うっかり聞いてしまってすみません。

 私のような人間は、身体の性別と心の性別が同じなので「わからない」という感覚がそもそもないかもしれませんね。


「答えようがないから、言葉を濁していたのですが……『言いにくいの?』と周りの方に気を遣われてしまうこともあって。……なかには、『心の性別を発表する手伝いをする!』なんて強引な方もいらして……」


 ああー……それは……。

 いわゆるアウティングというやつですね。リスナーの怨霊の皆さんはいろんな時代の方がいらっしゃると思いますので、簡単にご説明しておきますと、本人の了承を得ずに、勝手に心の性別を発表するみたいな意味合いの言葉です。私も最近知ったんですけどね。

 でも、なんでもかんでも発表すればいいなんてものでもないですよねぇ。


「そう! そうなんです! わたくしが恨んでいるのは、アウティングされたことです!」


 わあ……スタジオの床に咲いた花が、一斉に花粉を……。花粉症でなくてよかったー……。リスナーの皆さんは大丈夫ですかね? 怨霊にも花粉症ってあるのかな?


「ございますよ」


 あるんだ!

 しかし、そうでしたか……。それでFさんは怨霊になってしまわれたんですね。

 わからないんだからそっとしておいて欲しいと、当事者としては思うところでしょうね。


「男性だ、女性だというよりは、わたくしがわたくしである……という話だと思うのですが、うまく伝わらないものですね」


 私の知人にも、以前性別を聞いても教えてくれない人がいました。インターネットで知り合った人なんですが……性別を聞いても、毎回すごく適当なことを言うんですね。ついには、ホムンクルスだとか言うようになって。

 仲良くなってオンライン飲み会をしたんですが、女性でした。

 身体と心の性別が違うのかな? と思ったんですが……、話を聞いてみると、ちょっと違っていて。

 身体と心の性別は同じなんだけれど、口説かれるのが面倒だから……って言ってましたね。


「ああ、わたくしも似た経験がございます。ネットだと口調で想像される部分もありますから、女性だと思われるのですね。女性だと口説かれたり、接待のようなことを要求されたり、男性より無知であることを期待されたり、セクハラに遭うようなこともありますから……そういう目に遭ううちに、自分の中の女性性を否定してしまうに至った女性というのも聞いたことがございます。男性に間違えられると、ちょっとうれしい──と。それでも彼女たちの性自認は、概ね女性なのですが」


 そういうものですか?

 私はあまりそういう経験がないから、わからないのですが。


「はい。男性を立てて──などと言うのは、そういうことではないかしら。……以前性別を伏せてSNSをしていた男性の方が、女性に間違えられてうんざりするようなセクハラに遭った……と言っているのをお見かけしたこともあります。意外に世の中には、肉食男性が多いようですね。女性との出会いに飢えて、鵜の目鷹の目で狙っているエロ河童みたいな輩が」


 わははは! エロ河童! Fさんは不思議な語彙をお持ちですねぇ。

 しかし、そんなに違います?


「違いますね。……男性の方が『なめられたくない』と仰ることがありますでしょう? それで虚勢をはってしまうだとか」


 ああー! あります! ありますね! そういうこと!

 なめられると、面倒な部分もあります。こいつはイジってもいいだとか、バカにしてもいいだとか、挙句、便利に使いっ走りにされるだとか。

 昔のマッチョな不良漫画などでもよくありましたねー!


「それに近い部分があるのではないかと考えます。……わたくし、一度、SNSでブチギレてしまったことがあったのですが」


 えっ!? ブチギレたんですか!? Fさんが?

 ちょっと想像できません……。


「激怒して、身体は男性だと言いましたらば、相手が急におとなしくなりました。……女性というだけで、なめた真似をしくさる殿方は一定数おります」


 わははは! なめた真似をしくさる!

 Fさん、たまに面白い言い回しをされますね!


「うふふ。ありがとうございます。ときには欲望の対象として、またあるときは『男性に従うべきもの』として見ている方が、中にはいるんでしょうねぇ。時代錯誤ですわ。誰だって、下に見られるのは嫌でしょうに」


 ……おっと……、スタジオの床に咲いた花がゲラゲラと笑いはじめました……いつの間に顔ができたんでしょう? 笑い上戸の酔っ払いみたいな笑い方ですね。


 いやー、お話が楽しくて、つい脇道に逸れてしまいました。自分にはない観点ですから、勉強になりました。

 では、Fさんが怨霊になられたのは、心の性別がわからないのにアウティング……勝手に公表されたから……ということで、よろしいですか?


「はい。『心の性別がわからない』のに、『心が女性である』とアウティングされてしまったのですね。それで周囲の目も変わってしまったものですから。職場に居づらくなって転職してしまうだとか……環境も大いに変わってしまいました。わたくし自身といたしましても、間違った内容ですから、納得がいかず……」


 その後のことを考えると、恨みに思うのも無理はないかもしれませんねー。


「間違っていなかったとしても、勝手なアウティングはいただけません。人にはさまざまな都合がありますし、パーソナリティのあなたが『自分にはない観点だった』と今おっしゃったように、我々は他人の立場を推し量ることしかできないのですから」


 スタジオの床に咲いた花が、一斉にこちらを見ました! いやー、真顔もここまでそろうと壮観ですね!

 話すことで理解が深まるタイプの方ならいいですけど、残念ながら、そういう方ばかりではないですからねー。


「わたくしは突然の病死でしたが、死の淵で走馬灯を見て、思い出したのです。アウティングした方たちが、ニヤニヤしていたことに。『あれは怒るべきだったのでは? わたくしの人生が破綻していったきっかけはそこだったのでは?』と──恨みがふつふつと」


 なるほど、そうでしたか。

 そのときに怒ることができないと、意外と心に引っかかりますよね。

 Fさんの無念が晴れる日が、来るといいですね。

 さて、そろそろお時間のようです。Fさん、本日はご出演、ありがとうございました。


「お世話様でした」


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「誰しも、心に異性の部分を抱えている!」……ええ。本日のFさんのお話を聞いていて、そのように思いました。

『わからない』なら『わからない』ままでいいんじゃないですかね、きっと。


 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!

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