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Eさんの場合

 いさかいや行き違い、噛み合わなさ……そんなものから生まれる恨みつらみは、世に尽きぬものです。

 お酒でも飲んで、パーっと忘れましょ! ……それで済むならいいんですがねぇ。

 ──あなたは忘れていても、相手は忘れていないかもしれません。恨みつらみをとぐろのように、腹の底でぐるぐると巻いているかもしれません。

 ……はい。怨霊になった経緯をお聞かせいただく『怨霊の背景を探る!』のコーナー! 本日は、怨霊のEさんに霊界通信を通して、ご出演いただいております。


「……うらめしい」


 おおっと! 初っ端から怨霊らしさ全開ですね!?

 今まで四回にわたって、この番組をお送りしてきましたが、皆さんわりと人間味があるというか、お話をうかがえる状態の方が多かったんです。

 こんなに怨霊らしいゲストに来ていただけるとは……いや、これ、番組になります? 放送事故になりませんか? 私がずっとしゃべりつづけてたりして! わははは!


「話すのは不得手……」


 あ、よかった。お話はしていただけるんですね。

 でも苦手だと。そこらへんは、このわたくし、できる限りサポートさせていただきますんで! 苦手かもしれませんが、がんばってください!

 まずは、Eさんがどういう方かについて、お聞かせいただけますか?


「合戦で討ち死に……」


 合戦! じゃあ結構昔の方ですね? 何時代でしょうか。鉄砲はありました?


「あった……」


 撃たれました?


「違う……」


 なるほど。Eさんは合戦で斬られて亡くなり、怨霊になられた、と。

 ちょっと早いですが、一旦CMです。Eさんがなぜ怨霊になられたのかについて、お話をうかがっていきます! 続きはCMのあとで!


……ねぇ、これ、番組になる?


***


 先ほどはCM前に失礼しました! いやー! つい! うっかり! ……やっちゃいましたねー!

 さて、それでは気を取り直して、Eさんが怨霊になった背景を、うかがっていきます。

 Eさんが怨霊になられたのは、合戦で討ち死にされたのが理由ということでしたね。

 世間一般では、怨霊は無念を抱えてなるものだと言いますが、Eさんの無念は、亡くなったことですか? それとも城を落とされたーとか、領地を奪われたーとか?


「死んだこと……しんがりでした」


 しんがり! リスナーの皆さんは、しんがりってご存知でしょうか? 合戦などで撤退するとき、追撃を食い止める役目をするのがしんがりです。

 ……しんがりを任されるってことは、Eさん、優秀な武士だったのでは?


「我が隊を率いる将が、殿様の覚えもよかったようです……」


 ああ、なるほど! Eさんは、しんがりを任された部隊の中の一人ってことですね。

 しんがりを任されていたのに、役目を果たせず討ち死にしてしまった……とか、そういうことですか?


「いいえ……」


 では、どういう?


「無茶な命令が……」


 ああー。えらい人の無茶振りに付き合わされて、死んでしまったと。

 それは身につまされる話ですね。今の世の中もブラック企業とかありますからね。あまり変わっていないかもしれません。


「将はついてこいと……しかしながら、我らは馬に乗っておりません……」


 ……それ、かなりの無茶振りですね!?

 徒歩で馬についていくとか無理でしょう! ましてや甲冑を着ているわけですよね? いったい何考えてるんでしょうね、上司!

 それで、Eさんは置いて行かれてしまった状態ですか?


「逃げつつ、立ち止まって戦うお役目であったのですが……」


 ははあ、上司は先に馬でピャーッと逃げてしまったわけですね?

 現代にもいますよ、そういう上司! あの手の人たちって、逃げ足だけはやたらと早いんだよなぁ。あははは!


「うらめしい……」


 おおっと、Eさんの恨みに呼応するように、どこかから法螺貝の音が聞こえてきます。

 戦いがはじまるぞーって合図の音ですね。ブオオー! みたいな!


「ハッ……馳せ参じねば……!」


 えっ!? 無茶振りしてくる上司なのに!?

 死んでまで、従うことはないんですよ! Eさんは無茶な命令を恨んでるんでしょう!? 無念だったんでしょう!?

 番組、まだ途中ですよ! Eさん、ちょっと! 困ります!

 ……ヒッ! 馬が走る足音と、雄叫びが聞こえてきます! 行かないで!


「これにて御免」


 Eさーん!! まだ番組は途中ですよ! 行かないで!

 ……だんだんと合戦の音が遠ざかっていきますね。

 Eさん、行ってしまわれました。

 いやー……人間の都合などお構いなしというところが、まさに怨霊ですね。

 ……しかしEさん、無茶な命令を恨みに思っているから怨霊をやっているはずなんですが……なんで合戦がはじまると呼ばれてしまうのか、私にはわかりません。条件反射みたいなものなんですかね?

 合戦ですから、相当昔の時代の話ですよね? 今の時代に残っているってことは、それだけ恨みを抱えているってことでしょう?

 現代に置き換えると、ブラック企業で働きつづけてしまう人の感覚に近いんですかね?

 ブラック企業を辞めるときなんて、今は退職代行サービスを使う方もいらっしゃるほどじゃないですか。同じ日本語しゃべってるのに、話が通じない! 聞いてると、こっちの頭がおかしくなりそう! もう関わりたくない! とばかりに。

 亡くなられたあとも馳せ参じちゃうEさんの気持ちは、私には、これっぽっちもわかりません……。

 死ぬことで、やっと無茶振りをする上司とご縁がなくなったのにねぇ……。


 アクシデントはありましたが、Eさん、本日はご出演ありがとうございました。

 ……もしかしたら、恨みつらみを長い間抱えて染まり過ぎてしまうと、まともな思考ができなくなっていくのかもしれませんね。


 それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「現代は、退職代行があります!」……上司の無茶な命令で心身を削って命を落とす前に、退職代行、使っちゃいましょう!

 この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!


 ……だから言ったじゃないですか! 番組になるの? って!

 あああもう! お酒飲んで、パーっと忘れよ! お祓いだ! お祓い!

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