Dさんの場合
あなたにも、恨みつらみ、ありませんか──?
気付かないふりをしている恨みつらみも、積もり積もれば、生き霊に──。
もしかしたら、今これを聞いているあなたも……キャーッ!!
はい。怨霊になった経緯をお聞かせいただく『怨霊の背景を探る!』のコーナー! 本日は、怨霊のDさんに霊界通信を通して、ご出演いただいております。
「こんばんは。Dです」
よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。オファーをいただいて、前回この番組を聞いたんですが……すごく盛り上がってましたね」
ああ、Cさんですね。S子さんまで登場して、かなり盛り上がりました。
「私、あんなに番組を盛り上げる自信ありません……リスナーの皆さん、おもしろくなかったらごめんね」
あー。でもCさんは、ちょっと特殊な方でしたから。15歳のときに亡くなって、楽しいことをしたい! という思いで怨霊になったとおっしゃってました。
Aさんはパワハラで怨霊に、Bさんは不正アクセスと産業スパイの被害に遭って怨霊になられた、と。
ゲストの方によって雰囲気もかなり違いますので、気にしなくて大丈夫ですよ!
「……そうですか? 番組のテーマ的に、怨霊になった経緯を……恨みつらみをお話しするものだと思っていたので。恨みつらみなのに、あんなに盛り上げなきゃいけないのかって、すごくプレッシャーでした」
あははは。Cさん、とっても愉快な方でしたね。でも怨霊の背景を探るコーナーなんで、普段はもう少しおどろおどろしいです。あまり真面目に考えなくてもいいですよ。
「なるほど……ほっとしました」
Dさん、真面目な方なんですねぇ。
さて。それではDさんが怨霊になられた経緯をおうかがいしたいのですが。Dさんが怨霊になったのは、どういった理由ですか?
「離婚ですね」
離婚! ……では恨みの対象は元ご主人で?
「はい」
スパッと断言されますねー。
いったい何があったんでしょうか?
「新築の家を買ったんです。元夫が、どうしても新築がいいと言い張るものですから」
戸建ですか? 場所は?
「はい。戸建です。23区内ではないですが、都内某所に」
あー。新築とか戸建てとか、こだわりのある方、いらっしゃいますよねぇ。
Dさんはその辺、あまりこだわりはなかったんですか?
「ですね。私は賃貸マンションでもいいと思っていたのですが。貯蓄もそんなにあるわけじゃないので、ローンを組みまして」
ああー……まあ大きな買い物ですから、ローン組みますよね。
……その返済ができなくなって離婚されたとか?
「いえ。ローンの返済は問題なかったです。そういうわけじゃないんですが……」
おっと、一旦CMです。Dさんがなぜ怨霊になられたのか? 新築の家と離婚について、お話をうかがっていきます! 続きはCMのあとで!
***
さて、それではDさんが怨霊になった背景を、引き続き掘り下げていきます。
Dさんが怨霊になられたのは、離婚した元ご主人への恨みということですね。
元ご主人の希望で都内某所に新築戸建てで家を買い、ローンを組んだところまで、お話をうかがいました。
一国一城の主といえば、憧れですからねー。
おお……スタジオの机がガタガタ動いています。私もDさんも、貧乏ゆすりはしてないですからね!
離婚の経緯について、教えてください。
「はい。大きな買い物ですから、ローン返済のために、私は仕事を増やしたんです。元夫は私に仕事をして欲しくなかったようです。仕事に熱中して、家事をおろそかにするから……と」
ううん、元ご主人は、Dさんに専業主婦でいてほしかった……と。
令和の今では、あまり聞かない話ですね。今は共働きしているご家庭の方が多いですからね。
これ、いつ頃の話ですか?
「平成の終わり頃の話です」
……あれ? じゃあまだ比較的新しめの話じゃないですか!
失礼ですが、Dさんはおいくつですか? 亡くなられてます?
「私は生き霊です。今年で40代後半です」
働き盛りですねー。
それで、Dさんはローン返済の足しにと働きだしたと。でも元ご主人は、Dさんが仕事をするのを望んでいなかった、と。
「はい。子供も育ち盛りでしたから、何かと物入りで」
あー。お子さんの教育費や進学費、結構かかりますもんねぇ。
それで仕事をはじめたと。
「はい。仕事をはじめたのですが、元夫は自分の生活を何も変えなかったんです。家事も育児も、相変わらず私にすべて丸投げで……。忙しい仕事だからと、それまでは渋々ながらも納得はしていたんですが、私も仕事をするようになりましたので、どうして? と」
はいはい。ワンオペ育児ってやつですね。社会問題にもなっています。
海外の人に「育メンって英語で何て言うの?」と聞いたら、困惑しながら「……father」って返ってきたなんて笑い話もありますね!
海外では、父親も育児に関わるのは当たり前のことですから、育メンなんて言葉がそもそも存在しない。
元ご主人は、家事もDさんに丸投げだったということですから、海外の人が聞いたら卒倒しそうですね。
……その辺の家事育児の分担が原因で、離婚されたんですか?
「そうですね。それもあります。さらに金銭問題も発生しました」
……外で急に雨が降り出しました! スタジオの窓ガラスに雨がぶつかっています。まるでDさんの嘆きのようです。
金銭問題ですか? どのような?
「はい。私の財布から、子供の学費を勝手に持っていってしまったんです。40万円。当日支払わなくてはならないもので、元夫に話もしていたのですが」
……それ、窃盗では? 40万円って結構大きな金額ですよ。
それに、お子さんの学費ですよね? 父親としてどうなのかって話になります。
「そうですね。元夫は、しょっちゅう私の財布からお金を持ち出していました。キャッシュカードは私が預かっていたので、当然だと思っていたようです。……40万円を持ち出された時点で警察に届け出ればよかったんですが、支払いの方に気が向いていて……」
なるほど。そんなことをされてしまっては、結婚生活をつづけるのは難しいですね。
「はい。元夫に確認したら、確かに財布から子供の学費を持ち出したと。学費だというのも覚えていて……あわててましたね」
あわてるくらいなら、やらなきゃいいのに!
それで、返しに来たんですか?
「いいえ。返してくれなかったので、また別に、40万円を用意しました」
それはなんとも……。
離婚するのは当然のように思えてきます。
おっと、雷が……。窓の向こうが稲光で明るくなっています!
「私はかなり腹を立てましたが、過失だからと、見逃したんです」
えっ!? ……見逃しちゃったんですか。
「はい。子供もいますし、家も買ったばかりでしたから」
いやいや、見逃しちゃダメでしょう!
「今から振り返ると、おっしゃる通りですね。……子供の成長とともに教育費が増えて、家のローン返済も大変でしたが、私が仕事を増やすことで、なんとか対応していました。一時は仕事を三つ掛け持ちしていたんですよ」
そうですか……。
三つも仕事を掛け持ちするのは大変だったでしょう……。
「はい。さすがにしんどかったので、仕事は二つにしました。平日の仕事と、土曜日の仕事」
二つでもしんどいですよー。
「そうですね。……そんなとき、元夫が株をはじめたんです。私の実印を勝手に使って、株を……。株には手を出さないでって言っていたのに……」
ええっ……!?
……あのー……これ、本当に平成後期の話ですか?
あまりにも元ご主人の考え方が、昭和すぎません? 元ご主人とはご年齢が離れていたとか?
「いえ。元夫は2歳上です」
……価値観を、時代に合わせてアップデートできないタイプの人だったんですね。
「はい。元義実家にも相談をしたのですが、『うちの子がそんなことをするはずがない!』と……。勝手に使われた私の実印も、元夫や子供を守るために作ったものだったんです……」
あああー……それはもう、改善する余地、なさそうですね。
家族を守るために作った実印というのは?
「はい。私の実家で遺産相続が発生しまして。プラスなら問題ないのですが、マイナスになる可能性もありました。元夫の実印を使うと、元夫にも遺産相続の影響が出るかもしれません。何かあったとき、離婚して元夫や子供を守れるようにと、用意した実印です……」
うわぁー……。
家族を守るために作った実印を勝手に持ち出されて使われたというのは、悲惨としか言いようがありません。しかも株でしょ?
風で窓ガラスがものすごく揺れています。
Dさんの実印だったと、どうやって判明したんですか?
「元夫の印鑑は、そのときちょうど私が持っていたんです。ですから私の実印しか、家には置いていなかったんですね。その実印を、勝手に使われました」
離婚だ! 離婚! こんなのはもう離婚しかないですよ!
Dさんの心境を思うと、私も胸が苦しくなります。
「はい。そういったことがあって、離婚しました。ところが……」
えっ!? まだあるんですか!?
「養育費の問題が、今度は発生しまして」
うわあー!! ダメダメすぎませんか!? 元ご主人!
お金にだらしないとかいう次元の話じゃない!
「養育費算定表を元にして、養育費は6万円と決めていたのですが、5000円しかいただけなかったんです。親戚にも相談しましたが、『もらえるだけでもありがたいと思え』『うちも養育費はそれくらいだよ』と……」
養育費算定表を元にしたんですよね!?
「はい……ですから、養育費調停を……」
ああ……。それで、調停はうまくいったんですか?
「はい。……ああいう人って、えらい人の言葉には従うんですね。私が何度話しても、ちっとも聞いてくれなかったのに」
これは、恨みますねぇ……。
Dさんが生き霊になるのも当然です。
「仕事をしようにも、元夫は私に仕事をして欲しくないと言っていましたので、職歴もほとんどなくて……。派遣として、必死に仕事をする毎日でした」
うわあ……。
「そんなとき、嫌がらせがあって」
まだあるんですか!?
「『しきたり』と言っていました。その嫌がらせの最中、元夫から連絡があったんです。『困ったことがあったら、連絡して』と。……私、元夫に嫌がらせのことを話してないのに。元夫はメールもめったに送ってこない人で、送ってきても、余分なことはほとんど話さないような人なのに」
またです。また、『しきたり』!
怨霊たちからこの『しきたり』の話を聞くのは何度目でしょう!
しかしそれは……元ご主人が嫌がらせに関与していた可能性を疑ってしまいますね?
……では、Dさんが恨んでいるのは、元ご主人と。
「はい。どちらかというと、『しきたり』に関与した件での怒りですが……。ここまでのことをしておいて、よく『しきたり』に関与できたな!!」
スタジオの窓が突然開きました! ものすごい雨風が入ってきます! お聞き苦しいかもしれませんが、ご了承ください! 雷の音も、リスナーの皆さんに聞こえるかもしれません!
さて、Dさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました。
それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!
……「もっと早く離婚していれば!」……これに尽きますかね。
しかし怨霊たちが語る『しきたり』とは、いったい何なんでしょうね? 現代社会に潜む闇の気配がします。
この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回をお楽しみに!




