Yさんの場合
はい! はじまりました! 本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーです!
このコーナーでは、怨霊の方々にインタビューを敢行!
なぜ怨霊になったのか? どんな無念があるのか? を通して、我々人間が怨霊にならないようにしよう……という、意外と社会派の企画です。突撃取材みたいなものですね!
本日はゲストに、怨霊のYさんをお呼びしておりまーす!
「聞いてくださいよ!!」
はいはい! なんでしょう!
「僕の趣味が、理解されない!」
ぶはははは! なんですかそれは! え、それが怨念なんですか?
「そう!」
すみません、本題に入る前に、自己紹介をお願いします。
「あ、Yです」
えっ、短っ! 自己紹介はそれだけでいいんですか?
例によって、私、パーソナリティには、霊界通信を通じて、Yさんのお姿が見えております。
Yさんは男性の方ですね。初老の紳士です。
お話されている内容から、リスナーさんたちには「Yさんって若い方なのかなー」と思われるかもしれませんが、初老の紳士です。
「二度も初老の紳士っていう必要ある!? ……どうも、初老の紳士です」
あっはっは! ありません!
Yさんは生き霊ですか? 死霊ですか?
「えっ……どっちだっけな」
えっ……。ご本人が理解されていないことって、あるんですか?
死んだことに気づいていない……みたいなことでしょうか。
「ちょっとちょっと! 勝手に殺さないで!」
わははは! 確かにそうですね!
「でも死んでるのかなぁ。多分死んでますね」
多分死んでる……! 他人事じゃないですか!
ということは、理由がわからないけれど、お亡くなりになっている死霊の方……ということですね。
「多分。……そんなことより、僕の恨みを聞いてくださいよ!」
はい! このコーナーは、Yさんが怨霊になった恨みを聞くコーナーですから、お聞きしますよ!
「僕の! 趣味が! 理解されない!」
めちゃくちゃ強調して言いますね!?
一旦CMをはさみますね。
CMのあと、Yさんの恨みとは? をお話していただきます。続きはCMのあとで!
***
はい。本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナーは、怨霊のYさんにお越しいただいております!
Yさんは、趣味が理解されない……という恨みをお持ちなんですね。どのようなご趣味なんですか?
「あー。まあ……。なんというか。コレクション? ……なんですが」
急に歯切れが悪くなりましたね!?
「いやその、恥ずかしいから……」
Yさんがモジモジして、恥じらっています!
そんなに恥ずかしいご趣味なんですか? 人には言えないような? おおっぴらにできないような?
「人には言えます。言えますけど……」
あ、よかった。人に言えない特殊な趣味だったら、ちょっとした放送事故になるところでした。
でも話してくれないと、私たちもYさんの趣味を理解できません。こそっと、小さい声でいいので、教えてもらえませんか?
「……でも、恥ずかしいんで。ふふふ」
初老の紳士のはにかみです!
えっ、かわいいですね? Yさん。
「ただのジジイですよ。えーと……僕はあるものをコレクションしているんですが……これがちっとも理解してもらえない。かさばるーとか、地震が来たら危ないーとか、ついには汚いーとか……」
おお……コレクションにありがちな問題ですね。
今はコレクションケースなんかもありますよ。ガラスの戸棚に入れて、電源を入れるとライトがつくようなもの。
そういうものには、入れていないんですか?
「え? ジュースの空き瓶を、コレクションケースに? ガラスinガラス?」
え? コレクションしてるのって、ジュースの空き瓶なんですか?
「あ。……ふふ」
初老の紳士のはにかみタイム、入りましたー!
Yさんがコレクションしているのは、ジュースの空き瓶なんですね。
「そうです。サイダーとかオレンジジュースの空き瓶とか」
どうしてその趣味にハマられたんですか?
「うーん……。今の子供たちはどうかわからないですけど、僕らの子供の頃って、ジュースの王冠を集めてませんでした?」
あー! はいはい! そういうことありましたね! 小学生のときとか!
「最初は僕も王冠を集めてたんですけど、あるとき、ガラス瓶を通して見た光がとってもきれいでね。ガラス瓶の方に、興味がわいたんですよ。それでガラス瓶の収集をはじめまして」
なーるほど。
ジュースのガラス瓶、確かに地震が来たら、割れちゃって危なさそうですね。
「落下防止テープを貼りました。あとは酒屋さんのディスプレイを参考にして、テグスみたいなのを貼ったり」
ものすごく対策してらっしゃいますね?
本当にお好きなんだなぁというのが、伝わってきます。
「ふふ。……でもねぇ、ジュースの空き瓶って、販売店に持ち込むと、10円になるやつもあるじゃないですか? 息子には、狙われるんですよね」
あははは! 確かに!
コーラの空き瓶とかそうですね!
「最近では、息子も大きくなったので、そういうこともなくなりましたが……。ちょっとしたお小遣いが欲しいときに、持ち出そうとしていたのを見つけてしまって。……あれは、ショックでした」
ジュースの空き瓶で親子喧嘩が発生したら、目も当てられませんよ!
でもYさんにとっては、大切なコレクションですもんね。
勝手に売られてしまっては困る。
「はい。最近はペットボトルのジュースが増えたので、空き瓶が少なくなってしまって、ちょっと寂しい! ガラスの曲線とか、線が入っている箇所を光が通ったときの屈折具合とか、たまらんのですが!」
……語りますねぇー。
でも理解されない。ご家族にも。
「はい……。そうです。僕の趣味は、理解されない。……今の世の中って、推し活とか言って、趣味を大いに楽しもう! って言われるじゃないですか」
そうですね。今はオタクの人も増えました。以前はオタクというと、白い目で見られてしまった時期もありましたが、ずいぶん市民権を得ましたよねー。
趣味を楽しむことで、人生を豊かにしよう……みたいな風潮になってきています。
「でも僕の趣味は、理解されないんです」
……いやー。まあ、確かに、理解されにくいご趣味でしょうね。
でもささやかで、誰にも迷惑をかけていない。
いい趣味だと思いますよ。
「一度、家に泥棒が入ったことがあってね」
あらまあ!
「家内が、ジュースの空き瓶で泥棒の頭をパーン! と……」
わはははは! 危ない! 奥さん、危ないですよ、それは!
「粉々に割れてしまったジュースの空き瓶を見て、僕は涙が出ましたよ……。でも割れても、きれい」
よっぽどお好きなんですねぇ……。
「はい。あのコレクションしていたガラス瓶たちがどうなるのかって、心配で見ていたんですけど……処分されてしまったみたいで、残念です」
Yさん、多分亡くなられているっておっしゃってましたもんね。
亡くなった人のコレクションをどうするかというのは、悩むところですが……。古書店に持ち込んだり、マニアなお店に買取をしてもらったりということがあります。
でもジュースのガラス瓶は、そういうのがない。コーラの空き瓶は、販売店に持ち込んだら10円がもらえますが。
「そうです。他人から見たら、僕のコレクションは価値がなかった。ゴミとして処分されるジュースの空き瓶を見ていたら、悲しくて悲しくて……こうして怨霊に」
なるほど。それは怨霊になるのもわかりますね。
「……この番組に出させてもらったのもね。もしかしたら、僕と同じような趣味の人がいるかもしれない。そんなふうに考えたからです。ラジオだから、たくさんの人が聞くでしょ?」
そうですね。
リスナーのみなさーん! もしもYさんと同じ趣味をお持ちの方がいたら、ご連絡お待ちしておりまーす! わははは!
「ありがとうございます! 聞いてもらってスッキリ! これで成仏できます!」
あ……。Yさんが、ガラス瓶を通したような透き通った光で包まれていきます……。
「ジュースの空き瓶がお迎えに来てくれたんでしょう……」
わはははは! Yさん! 笑っていいのか、わかんないですよそれ!
「僕にとっては、最高のお迎えです……」
Yさんがスーッと消えていきます……。
ジュースの空き瓶のお迎えってなんなんだ? って気はしますけども、Yさんが満足そうだから、これはこれでいいのかな。
Yさん、本日はお話を聞かせてくださって、ありがとうございました!
さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめです。
……『人は、何かしらのオタクである』……これですかね。
ドラマだったかな? 『踊る大捜査線』でそんなシーンがありましたね。
オタクの部屋を捜査する熟練の刑事に、主人公が「何が好きですか?」と尋ねるシーンです。熟練の刑事は「盆栽」と答えるんですが、それに対して「じゃあ、盆栽オタクだ」と言う──。
誰でも、何かしら好きなものがあるんですよね。
Yさんのように、他の方にとっては価値がないものであっても、好きなものは好きでいいと私は思いますよ。
この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます。次回もお楽しみに!




