Bさんの場合
人の抱えるさまざまな悩みが、怨霊の元となる──その経緯をお聞かせいただく『怨霊の背景を探る!』のコーナーです。本日は、怨霊のBさんに霊界通信を通してご出演いただいております。
「おっぱい!」
おっぱい!? いきなり!? あいさつか何かですか? では私も僭越ながら……おっぱい!
「失礼。うちの猫のぬいぐるみです……」
あー! そうでしたか。やらかしてしまいました。お恥ずかしい。猫のぬいぐるみ、しゃべるんですね。
「いえ……。私が声を充てているだけですので……」
……これはまた、初っ端からトばしてきますね! 人間の都合なんかお構いなしという問答無用っぷりが、いかにも怨霊です。
今回はどのような経緯でBさんが怨霊になられたかを、お聞きしたいのですが。
「アイデアを盗まれまして……」
はあ。アイデア……ですか? 産業スパイの被害に遭われたのですか?
「うちには、にゃんこ先生という猫のぬいぐるみがいて、おっぱいが好きなんです。これは、うちの子供が乳離れをするときについた設定なんですが……」
……ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか?
「小さい子って、上の子がして叱られた内容を、自然に学習するでしょう? 要領のいいところがあるというか」
ああ! はいはい! ありますね! そういうこと。
「ですので、子供が乳離れをするときに、にゃんこ先生にはお兄ちゃん役を演じてもらったんですね。おっぱいを触ると叱られるんだよ……という」
なるほど?
「そこでおっぱい好きの設定ができたんです。……まあ、おっぱい好きが二人に増えただけでしたが……」
あははは! ありますあります! そういうこと! 子育てって、思ったようにはうまくいかないものですからね!
「はい。ですから、うちのにゃんこ先生はおっぱいが好きなんです。……このアイデアが、なぜか他の方に盗まれていたんですね。家族の思い出を盗まれたようで、とても恨めしいです」
ああー。そこに繋がるわけですね。どなたに盗用されたんですか?
「フリーゲームの制作者の方です。私も一時期フリーゲームを作っていて、その中ににゃんこ先生を登場させていたのですが」
なるほど……。
すみません、一旦CMです。Bさんがどのような形で怨霊になったのか、背景を探っていきましょう! 続きはCMのあとで!
***
はい。それではBさんが怨霊になられた背景をお聞きしたいと思います。Bさんはアイデアを盗まれたということですが、どういった経緯があったのでしょうか?
「いつからか、私のプライバシー情報を無断利用した作品や、私の作品アイデアを無断利用した作品が出てくるようになりまして」
それは深刻ですね……。たとえばどのような形ですか?
「キャラクター名や設定が似ているだとか……厳密には著作権侵害に問えないものもあります」
あー! それは相手、手慣れている感じがしますね? 常習犯なんじゃないですか?
「わかりません。相手の方はそれを『ファンアートだ』と……」
ファンアートですか? 二次創作作品?
「はい……。ファンアートなら、元の作品について語れるはずだと私は返しました。私も作品を作る身ですから、影響を受けること自体は否定しません。私の作品も、モデルや既存作品の影響が全くないわけではありませんし。……ですから、私はSNSで元ネタや、影響を受けた作品の情報開示をするようにしたのですが」
なるほど? クリエイターの方を見ていますと、自然現象や人とのやりとりの中から、作品が生まれることも多そうです。
しかし他の作品から盗用というのは……おっと……誰です、今叫んだのは。盗用した人が暴露されて慌てて叫んだのだったりして。わははは!
「私は情報開示したのですが、相手は全然関係のないものを元ネタとして開示しはじめたんです。『お前からはパクってないぞ』と言わんばかりに」
あちゃー。相手はしらばっくれる気、満々ですね?
「私は以前、ゲーム業界で仕事をしていまして。キャラクターの設定書を作っていたんですね。イラストレーターさんなど、一緒に作業をする方たちに説明するためのものです。一から説明することも可能ですが、スピーディにやりとりしたいという上司の指示で、キャラクターの外見や性格がどういう既存キャラに似ているかを端的に伝えたものです。……とはいえ、系統であって、そのものであったことはないのですが……本編はまだほとんど書いていませんでしたから」
なるほど……?
「おそらく、それを理由にして『お前もやってただろう?』と嫌がらせをされたのではないかと考えます。『壁は自分自身だ』と言われたこともありますし。──彼らは『しきたり』だと言っていました」
『しきたり』……ですか……? それ、前回このコーナーでインタビューした生き霊のAさんも言っていましたね……。
「……他にも被害者が多いみたいですね。大抵は怨霊になってます。『壁は自分自身だ』と言われましたが、私のしたことではありません。加害側に都合のいい形で、ひどく情報が歪められています。相手の加害を『私が過去にしたことだ』と正当化するなら、なぜそれを知っているのかという話になります。内部資料に不正アクセスされたことになるんですね。キャラの設定書は内部資料であって、依頼するイラストレーターさんや社内以外には出さないものですから」
おっと……これは被害の告発ですね? つまり産業スパイ的な行動を相手が行い、それを『ファンアートだ』とごまかしていると。不正アクセスも疑われる、と。
「はい。私の認識ではそうです。おっぱい好きの猫を、おっぱい好きの他の動物に置き換える……というふうに。他の方にも、プライバシー情報やアイデアを無断で利用されていますね」
フリーゲームということですから、収益化はされていませんね。フリー作品については、二次創作的な扱いでいいのでは?
「そうですね。無断利用で金儲けされるなど、業腹です。しかし無料の作品であっても、さも自分で一から考えましたと言わんばかりなのは、いただけません。コンテストの受賞作品なら尚更です。元ネタや影響を受けた作品について情報開示するなら、ここまで恨みに思うこともないですが……。なかにはひどいものもありましたよ。手練手管で誰彼構わずたぶらかしている……とか」
ふむ……作品自体が誹謗中傷になっているものもあった、と?
「そうですね。言いがかりへの反論を作品にするというなら、まだわかりますが、事実に基づかない内容が多すぎました。しかも私が知らない相手に、ある日突然作品化される。どなたが流した情報かは知りませんが」
おっと……天井がギシギシ言ってますね。ラップ音かな? ポルターガイストかもしれません。
ええと、それでBさんは怨霊化した、と。
「はい。死にました。首を吊って」
……えっ?
……そ……そうでしたか……。それはなんとも……御愁傷様です……。
この被害のきっかけは、なんだったのでしょう?
「ある方に送ったファンレターです。なぜかその内容が業界の一部で共有されて、作品に使用されていました。使用された作品はあまりにも多すぎて、数えきれません」
深刻ですね……それは。業界全体にはびこる問題になってしまっています。この番組のスポンサーも、もしかしたら……。
リスナーの皆さーん! この番組がもし打ち切りになったら、そういうことかもしれませーん! あははは!
あ、でも素人の無料作品にも使われているのか。
……誰が情報やアイデアをばら撒いたんですかね?
「わかりません。警察に捜査してもらおうにも、頭のおかしな奴の戯言と言われるのが関の山です。何度か通報しましたけど、想定していた対応と同じでした。ですから……死にました」
わあ!? 机の上に置いてあった紙の資料が、突然ばらばらと散らばっていきます! ポルターガイストですね!
それで、Bさんは怨霊化して、この被害への復讐をしている……と。
「はい。盗んだ奴、情報を流した奴を、特にこっぴどく祟る予定です。不正アクセスありきの『しきたり』ですからね。……なかでも許せない奴がいて……。そいつを徹底的に祟ることができるなら、他は多少お目こぼししてもいいと思っているほどです」
そ、そうですか……。
その方は、何をしたんですか?
「私の子供や、母親の情報を、無断で利用したんです。……うちの子、年頃なんですよ。『しきたり』では、若い女性の情報は高く売れると聞いています……」
それは……Bさんの逆鱗に触れるのは、当然のことですね。
心なしか、スタジオの空気もひんやりしてきました。
「祟ります。めいっぱい」
……なんだか変な匂いが……わっ……床に液体が……! これは、血……?
わ、私やこの番組は、くれぐれも祟らないでくださいね!
さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!
……「不正アクセスは、犯罪!」「情報を利用する際には、不正アクセス経由の情報かどうかを確かめましょう! でないとBさんに祟られます!」……この2点ですかね。
怨霊はどこにでもひそんでいます。いつも歩く道、窓の外、ふと振り向くと……。自分は普通の人間だと思っているあなたも、いつの間にか怨霊になっているかもしれません……。
この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます! 次回をお楽しみに!




