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Aさんの場合

 怨霊はどこにでもひそんでいます。いつも歩く道、窓の外、ふと振り向くと……。自分は普通の人間だと思っているあなたも、いつの間にか怨霊になっているかもしれません……。

 ──怨霊となった人の身に、いったい何が起きたのか? その経緯をお聞かせいただく『怨霊の背景を探る!』のコーナーです。本日は、怨霊のAさんに霊界通信を通してご出演いただいております。

 Aさんは怨霊になって何年になりますか?


「十年ほどになります……」


 ほう、十年。これは長い! 恨み、消えないですか。


「ええ……憎くて憎くてたまりません……」


 そんなに相手を恨むあまり、怨霊になってしまったと。Aさんはご存命ですか? いやほら、たまに生き霊の方もいらっしゃいますので。


「生き霊です……」


 ああー! やっぱり生き霊ですか! 透けてる感じはありますけど、脚とかしっかりあるなと思ったんですよね。


「……最近の怨霊は、死んでいても割と脚がある人たちも多いですよ。映画化もされた有名なS子さんとか」


 ははは、これは確かに! 幽霊や怨霊に脚がないっていうのは、もう昔の話なのかもしれませんね。


「江戸時代の幽霊なんかは、脚がない方も多いです。落武者さんなどは、首がもげていて自分でお持ちだったりもしますし……なくした首を探すタイプの方もいらっしゃいますけれど」


 ああー、よく聞く話ですね。アイルランドのデュラハンなんかと似た感じの。


「そうですね」


 では、Aさんがどのような形で怨霊になったのか、背景を探っていきましょう! 続きはCMのあとで!


***


 はい。それではお待ちかね、Aさんが怨霊になられたきっかけをお聞きしたいと思います。Aさんは十年間生き霊をされているということですが、どういった経緯があったのでしょうか?


「生き霊ですので、死んではいません。でも憎くて憎くてたまらなくて……」


 まあ生き霊ですからね。生き霊は念が凝り固まってできるものです。そこまで恨むような出来事があったと。


「はい……。きっかけは職場でのパワハラでした……。私はWeb制作をしておりました」


 パワハラ! これは現代的ですねー! 怨霊とITというのはアンバランスな気もしますが、どう繋がってきますか?


「変更指示などは、苦笑しながらもなんとかやり過ごしていたのですが……。どうやら上司にあたる男性に、嫌われていたようなんですね。行動のほとんどにケチをつけられるようになりまして……」


 ああー! いますね! そういう小姑みたいな人!


「Slackで進捗情報を共有するのですが、確認した内容にいいねを押しますよね? そこで私は親指を立てたサムズアップを使用することがあったんです。それが気に入らない……と。上司に向けてサムズアップは失礼だ、と……」


 えっ!? 「バッチリ!」とか「了解です!」みたいな意味で使いますよね? IT系ならその辺りは理解されてる方が多いと思っていました。


「最初はサムズアップからでした。そこからあれが気に入らない、これが気に入らないと叱責を受ける有様で……改めようにも朝令暮改で対応しようがなく……」


 なるほど。ケチをつける方が目的になっていたのかもしれませんね。その上司の方も、ストレスがたまっていたのかな。それを部下にぶつけるのは、もってのほかですが……。

 おっと失礼……音声にノイズが入りました。


「サムズアップ以外のマークをつけるようにしたのですが、今度は逐一確認を求めるのが気に入らないとお叱りを受けて。確認しましたというマークを押すこと自体にも恐怖心を持つようになってしまって……。迷っているうちにマークをつけるのを失念してしまい、『業務上のほうれんそう』を知らないのかとさらなる叱責が……」


『業務上のほうれんそう』……報告、連絡、相談ってやつですね。悪循環に陥ってしまった、と。


「はい……。失念については私の落ち度ですので、我慢していたのですが、エスカレートしました……。あとから入ってきた若い後輩に『上司のしていることはパワハラでは? いつか自分に向きそうで怖い』と相談を受けるほどで……」


 後輩さんが言うほどなら、よっぽどだったってことですね……。

 Aさんはパワハラについて、どういう基準をお持ちですか? ここからがパワハラだ……とか。


「あとから役に立つものは苦言、役に立たないものはパワハラと認識しています。他の会社でも指摘や叱責を受けることはありましたが、役に立つことは苦言と考えています」


 なるほど。ではその上司の方の叱責は、役に立たなかったと。まあ……サムズアップにいちゃもんをつけるようでは、役に立たないでしょうねぇ。

 それでAさんは怨霊に?


「ちょうど私生活でも問題がありました。突然、不特定多数による嫌がらせを受けるようになってしまって……」


 あら。泣きっ面に蜂ってやつですね。


「トイレやお風呂のことまでなぜか知られていて、色々と言われるんです! 下痢だっただろうとか! 性的なことや眠っている間のことまで……! それをSNSのエアリプみたいな形で伝えられます。気持ち悪いですよね?」


 それはあんまりです。盗撮被害に遭っていた、ということですね。


「会社には何度か相談をしました。パワハラのことも嫌がらせのことも。探偵や弁護士さんを紹介してもらえないかとか。……パワハラについては、違う仕事を割り振るなどして対応してもらえたのですが、根本的な解決には至らず……。仕事も私生活もしっちゃかめっちゃかで、もう死んでしまおうかと思って、高層ビルから飛び降りようとしたことが何度かあります」


 うわあ……。でも未遂で済んだんですね。だから生き霊でいらっしゃる。飛び降りに成功してたら、死霊になっているはずですから。


「はい……。でもその方が、むしろよかったかもしれないと思っています」


 また音声のノイズがひどいですね。ノイズの間に何か聞こえます……「許さない」……ふむ。まるでAさんの心の叫びのようです。

 うーん。しかし考えようによっては、ですよ? 生きていてよかったのではないですか?


「……と、言いますと?」


 死霊はお祓いされたらおしまいです。生き霊は、生きている限り何度でも復活しますからね。本人が意識していなくとも。


「はあ……生き地獄ですから、私はそうは思いませんが……」


 渦中にある人には、実感できないかもしれませんねぇ。


「なぜこんなことをするのかと聞いたら、『しきたり』だ、と……」


 ほう? 『しきたり』とは?


「夢を叶えるか、お金を受け取るか選べと──。でも私は何も望んでいません。夢があるわけでもない。……子供の頃、なりたかったものはありました。でもそれは、大昔の話です。どうやら、夢を叶えたいと思っている人たちと無理やりに競わされて、誰かが夢を叶えるためのカモにされていたようなんです」


 カモ! ひどい話ですね。どこの誰がそんなことを。

 おお……、スタジオの窓ガラスに、青白い手型がばんばんついていきます……。


「長いこと、奪われるだけ奪われて、ひどい目に……。被害を話しても、わかってくれる人は一握りで……大抵、私の頭がおかしくなったと思われて、生き地獄です……」


 お話を聞く限りでは、Aさんが怨霊化したのも頷けます。では、Aさんの恨みの対象はパワハラをしてきた上司に?


「いいえ。上司は器が小さいというだけの話ですから……」


 わっはっは! 器が小さい!


「私が恨むのは──この『しきたり』を許している社会そのものです」


 おお……。これはまた……とんでもなくスケールが大きいですね!

 今、外でドサッ……と何か重いものが落ちる気配がありました。Aさんの投身自殺未遂の恨みですかね。


「奪った者も、嫌がらせをした者も……決して許すつもりはありません……。ああ……呪わしい……憎くて憎くてたまらない……」


 スタジオの電球がチカチカしています。LED照明なんですけどねぇ。Aさんの恨みつらみのパワーでしょうか。

 ──しかしね、Aさん。夢、あるじゃないですか。


「え?」


『しきたり』という不法行為を許さない社会を求めている。それは、スケールの大きな夢だと、私は思いますけどね。


「……そうですか?」


 はい。さて、それでは本日の『怨霊の背景を探る!』のコーナー、まとめ!

 ……「パワハラは、するな!」「盗撮や盗聴は犯罪!」「不法行為は警察に通報!」……この3点ですかね。


「警察にも相談したけど解決しなかった……恨めしい……!」


 警察には、ぜひとも頑張ってほしいところですね!


 人の抱えるさまざまな悩みが、怨霊の元となる──この『怨霊の背景を探る!』のコーナーでは、今後も怨霊の方々の恨みつらみについて、お話をうかがっていきます! 次回をお楽しみに!

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