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エンベリス王国の巫女  作者: 森の手
幼少期編
11/30

領主、ヴァイン・フルーロード

 イケメンだった。

 イケオジだ。

 厚手のジャケットにシャツにズボン。宝石のついた高価そうな指輪をいくつか。さりげなく首にスカーフを巻いている以外は目立った物はしていない。

 切りそろえられた金髪が左右に分けられている。

 大変上品で清潔な身なりだ。

 40代くらいか。少しくたびれているが、りゅうとした立ち姿。柔らかな物腰。

 表情には涼しくも熱いものがある。

 でも繊細な感じもある。女が入り込めそうな感じもある。


 これがシュアの前に立った領主、ヴァイン・フルーロードの第一印象だった。


 何だこの脂ののったいい男は。



 彼は早朝やってきた。御者を兼ねた護衛一人と、彼の子供二人を連れて。

 来訪の旨はあらかじめ施設には伝えてある。だが極秘ということにしてもらったので、領主用の馬車は使わない。

 ざわつく使用人たちをそのままでとなだめ、やってきた施設長に周囲への説明も兼ね訪問の目的を告げる。


「ランディアで流行り病が広がっているのだが、それがこの領内にも少しずつ広がってきていてね」


 施設長もうなづく。流行り病は大体都市部か貿易都市であるフルーロードから広がる。


「わざわざこのような地区にまで領主様自らがお出でくださること、大変ありがたく思います。ですが、ご子息様までお越しくださるとは」


 予期していないことをほのめかす。ヴァインも分かっているというように鷹揚にうなづく。


「愚息にも領地に生きる者たちを知るいい機会だと思ってね。お前たち、ご挨拶を」


 領主に促され、年長の一人がみぞおちあたりに手を当て、頭を下げる。


「サロモンと申します」


 理知的な鋭い目を持つ金髪の少年だ。十代前半くらいだというのに、表情には隙がない。いや、心を許していないのだろうと施設長は思う。

 文字通り彼にとっては視察なのだ。


「……オウカ、です」


 こちらは兄とはまるで違う。

 赤髪のくせ毛で、コートの上からでもわかるほど太っている。

 母親似なのか。とにかく隣の金髪の親子とは似ても似つかない。

 まだ初等教育を受けている年だろう。全体的におっとりしているが、やはり赤毛から覗く目は鋭い。それは性格を物語るものではなく、領主の子供には生来からそのように備わっている特徴のようだ。


「ご丁寧にありがとうございます」


 施設長は深く頭を下げ、自分の紹介をした。

 あとの会話をヴァインが引き継ぐ。


「領内でも亡くなる子供が増え始めた。だが、ここの子供にはほとんど病人はいないと聞く。たしかにいるようには見えないな」


「ただ時間の問題ということなのでは?」


「それを知りたくてな。少し中を見させてもらえないか」


「もちろんです」


 やり取りの間にも、玄関には人が増え続けていた。

 中には食事中と思われる子供もいたが、止めるはずの彼らに給仕をする大人たちも出てきて、歯止めが利かないようだ。

 施設長が使用人の一人に子供を連れて戻るよう言い渡し、それを機に少しずつ集団がはけていく。


 一応通常通り落ち着いたとき、領主と子供、その護衛は、施設長の案内で中の様子を見て回った。

 シュアはそのとき食事中だった。

 食事は戦場である。常に仲間たちのスプーンの先を警戒しなければならない。

 そんな中、みんな食事そっちのけで行ってしまったものだから、今日ばかりはスープやフルーツを大量にせしめていた。

 だから廊下の前を領主一行が過ぎ去っても、彼女は特に気には留めていなかった。


 一行はそれから客室に案内された。


「いかがでしたか? たしかに、どこにも病の兆しは現れておりません」


「我々が驚いているのは、この施設の清潔さだ。詳しく言うのは控えるが、職員や子供たち含め、他の施設では鼻どころか目が痛むようなところが多くてな」


「ありがとうございます」


「なぜここまで清潔に? もちろん、きれいにしておくことはいいことだが、これほど徹底させるわけはなんだ?」


「実は、きれい好きな子供がおりまして。彼女が言い出すまでは、おそらくここも他とそう変わりないようなところでした」


「なるほど、だが子供の声一つでここの全員が言うことを聞いてしまったと?」


「いえ、彼女は、少し知恵を使ってみんなの心をすっかり入れ替えてしまったんです」


「差し支えなければそれを話してくれないか」


 ということで、三代巫女ルティの名をかたり、衛生指導をした件が領主に伝わった。


「ああ、やはりここだったか。私の耳にも入っていた。それは知恵というか、場合によっては大問題だ」


 施設長もうなづく。巫女の名をかたるなんて、下手をすると重罪だ。

 ただ、教育を受ける前の、それも普段からほとんどしゃべらない子供が突然口にしたものだから、異様な真実味が出たのだと思う。

 施設長も火消しには大変心を砕いた。だが結局噂は領主の耳に入っていたようだが。


「彼女には言い含めてあります」


「わかっている。それについては何も言わん。その子を連れてきてくれないか」


 こうして、領主の前にシュアが連れ出されることになった。

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