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ゴロロロ!!
もの凄い音とともに、夕立が突然きて、外が急に暗くなる。
窓の外に目を向けると、細い線のようなものが見えた。きっとあれは稲妻だ。
「ねぇ、雷落ちたの?」
ソファに身を寄せるひよりちゃんは、心配そうな目で俺を見る。
「大丈夫。こっちには落ちてないよ。さっきのは遠い向こうの方だからね」
「ほ、本当に?」
「本当だ」
念押しすると、ひよりちゃんも安心したような顔をして、そっとソファの背にもたれかかった。
安心したひよりちゃんを横目で見ながら、俺はふと、ちょっとした悪戯心に駆られた。雷が苦手なひよりちゃんには悪いけど、今ならきっと面白い反応が見られるだろう。
俺はスマホを静かに取り出し、効果音アプリを開いた。雷の音を再生できるものがあったはず──あった。音量を少しだけ上げて、タイミングを見計らう。
ひよりちゃんが目を閉じ、ソファにもたれかかって落ち着きを取り戻したその瞬間。
「ゴロロロロ……ドガーーーン!!」
スマホから響く凄まじい雷鳴に、ひよりちゃんはビクッと飛び上がった。
「きゃあっ!? まぁ、また落ちたの!? 今度は近くだよ!! ねぇ本当に大丈夫なの!?!?」
俺は必死に笑いを堪えながら、「ごめん、今のは俺のスマホ。効果音。冗談だってば」と告白した。
ひよりちゃんはしばらく呆然としていたが、やがて頬をふくらませて俺を睨んだ。
「 ひどい、最低っ! ほんとに雷、怖かったんだから」
「でも怖がってる顔もかわいいし……って、痛」
クッションが飛んできて、俺の顔に直撃する。
次も。その次もクッションが見事に俺の顔に命中。防ぐ隙がない。
これは雷よりも、よっぽど手ごわい“嵐”だったかもしれない。