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日々の夏  作者: 那須茄子
7/13

 今日は珍しく遠出のお散歩に出掛けていた。


 その帰り道たまたま小さな神社を見つけて、お参りついで寄ったのだが、かれこれ一時間以上も経っている。夜になっても、ひよりちゃんは帰ろうとしなかった。


 神社の境内に座り込み、空を見上げているひよりちゃん。何か思うことがあるらしい。


「……月、きれいだね」

「そうだな。満月だ」


 ひよりちゃんは、ぽつりと呟いた。


「昔ね、お父さんとよく月を見たの。静かで、優しくて……でも、ある日から急にいなくなった」


 俺は言葉を失った。


「それから、月を見ると、ちょっとだけ泣きそうになる」


 風が吹いて、木々がざわめく。


「俺は、泣いてもいいと思うけどな」


 ひよりちゃんは、俺の顔を見て、少しだけ目を細めた。


「なんで」

「慰める自信が、俺にはあるから」

「なんか偉そう」

「いや、ほら。俺、涙には弱いっていうか」


 ひよりちゃんはふっと笑った。


「なんか、それってずるいよね。泣かせたくないって言いながら、泣くの待ってるみたい」

「違うって。泣くのを止めるんじゃなくて、泣いたあとに、ちゃんとそばにいるって話」


 言葉のあとに沈黙が落ちた。

 夜の境内は静かで、月光だけが優しく照らしている。


 しばらくして、ひよりちゃんがぽつりと呟いた。


「そっか。まぁ、ありがとう」


 ひよりちゃんは、月を見上げながら小さくうなずいた。

 その横顔は、どこか少しだけ安心したように見える。

 

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