7
今日は珍しく遠出のお散歩に出掛けていた。
その帰り道たまたま小さな神社を見つけて、お参りついで寄ったのだが、かれこれ一時間以上も経っている。夜になっても、ひよりちゃんは帰ろうとしなかった。
神社の境内に座り込み、空を見上げているひよりちゃん。何か思うことがあるらしい。
「……月、きれいだね」
「そうだな。満月だ」
ひよりちゃんは、ぽつりと呟いた。
「昔ね、お父さんとよく月を見たの。静かで、優しくて……でも、ある日から急にいなくなった」
俺は言葉を失った。
「それから、月を見ると、ちょっとだけ泣きそうになる」
風が吹いて、木々がざわめく。
「俺は、泣いてもいいと思うけどな」
ひよりちゃんは、俺の顔を見て、少しだけ目を細めた。
「なんで」
「慰める自信が、俺にはあるから」
「なんか偉そう」
「いや、ほら。俺、涙には弱いっていうか」
ひよりちゃんはふっと笑った。
「なんか、それってずるいよね。泣かせたくないって言いながら、泣くの待ってるみたい」
「違うって。泣くのを止めるんじゃなくて、泣いたあとに、ちゃんとそばにいるって話」
言葉のあとに沈黙が落ちた。
夜の境内は静かで、月光だけが優しく照らしている。
しばらくして、ひよりちゃんがぽつりと呟いた。
「そっか。まぁ、ありがとう」
ひよりちゃんは、月を見上げながら小さくうなずいた。
その横顔は、どこか少しだけ安心したように見える。