09
僕達が部屋に戻ったのに気がついた彼は、ベッドに立てかけられた剣を素早く拾い上げ、慌てて僕達に向けてきた。
「お前!」
顔を見て気付いたのか、彼は僕の連れてきた二人を見ると、すぐに剣を引き抜いた。
「ジェヴィ下がれ! そいつら只者じゃないぞ!」
「えっ?」
僕がどうしようかと迷っていると、彼女は呑気に彼の隣に座った。
「…………」
彼の額から玉の汗が流れる。横に構えられた剣先も、よく見ると小さく震えていた。
「気分はどうじゃ」
「そういや。黒いモヤがない?」
彼はハッと驚いた様子で自身の身体を触る。
「我は解呪の魔法が使える。それを使ってお主に掛けられた洗脳魔法を解いたのじゃ」
洗脳魔法、それは大陸全土で禁止されてる魔法。そんなもの使ったら極刑は逃れられない。
「……なぁ、なんで俺を助けたんだ?」
彼女は呆れたように肩をすくめた。
「なんじゃ。殺して欲しかったのか?」
「……いや、助かった。ただ、あんた何者なんだ?」
「我か? 我はルミエーラ。ただの魔族じゃ」
「えっ? ルミエーラさんが魔族?」
「魔族って、魔物の長みたいなやつか?」
「「全然違うよ!」のじゃ」
声が重なる。いきなり大声を上げたからか、彼も驚いていた。
僕は彼女の全身をくまなく観察する。
「凄い、本物の魔族なんて、初めて会いました」
彼女の見た目は、一見すると普通の人間に見えるが、その内側に渦巻く魔力はとても洗礼されていた。
「な、何が違うんだ? どっちも人を殺すのは同じなんだろ?」
僕の変わり様に若干引いた彼に聞かれて、僕は思わず鼻息荒く彼の手を取った。
「それがですね! 魔族による被害の大半が調べてみると、吸血鬼やゴブリンなどの人型の魔物を魔族と勘違いしたものが多くて、実際の魔族は———」
「わかったわかった!」
手で口を塞がれてモゴモゴと籠った声が漏れる。
「分かったなら、我を獣と同義にするのは辞めるのじゃ。お主だって、そこらの猿と同様に扱われたら不快じゃろ?」
そもそも彼女が理由もなく人を殺す種族なら、僕も彼もこの町も、もうこの世にないというのに。
「分かった信じるよ」
剣先は彼の腰の鞘に戻ったのを見て、僕はホッと胸を撫で下ろす。
「それで、確認なんじゃがお主、その力どうやって手に入れたんじゃ」
やれやれと閉じられた目がスッと真剣な眼差しに変わって彼を刺した。