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勇者に非ず  作者: 天空
魔族とゴブリンは全く別の生き物
6/33

06

 何が起きているのか理解できなかった。


 剣を振り下ろした少年は公園の反対側にいた。絶対に当たるはずのない攻撃。しかし少女はその剣筋を跳ねるように避けた。


 足が地を離れた瞬間。先程まで彼女が立っていた位置に突然、黒い斬撃が現れた。


 夜の暗闇すら明るく感じる程に暗い斬撃。僕と同じくらいの少年の放った斬撃が、耳をつん裂く衝撃と共に公園の地面を地割れでも起きたかのように、真っ二つに割ってしまった。


「懐かしいの、昔(われ)に挑んだ勇者も使っておったのじゃ」


 少女は平然と避けたが、少年は気にせず剣をまた黒く染め上げ、今度は近寄って斬り掛かった。


「その技は相当な鍛錬が必要なものじゃ」


 乱雑に振り回される一撃必殺の黒い斬撃をすいすいと避ける。まるで、何処に斬撃が来るか知ってるかのような動きだ。


 彼女が避けると背後に黒い斬撃が飛び、公園に植えられた観葉樹や、遊具が軽々と切り裂かれ、公園内に凄まじい音が鳴り響く。閑静な路地裏から出てよい音量はとっくに超えていた。


「持ってて良かった」


 僕は丸い金属球の付いた棒を地面に突き立てて、周りを見渡し、ほっと一息つく。


 地面に突き刺さり、淡い緑の光を放つそれは、周囲の認識を阻害させ、バリアを張る魔道具だ。もしこの騒ぎで依頼を破棄されたらたまったものではない。これで少なくとも今のうちは誰かに気付かれることはない。


「その程度の技量で、その技を使うのは辞めるのじゃ」


 乱雑に振り下ろされた剣を横から蹴り飛ばすと、よろめいた少年の(えり)を掴み、後頭部から地面に叩きつけた。その勢いは地面が割れて、少年が地面にめり込むほどの勢いだ。


「我の目を見るのじゃ」


 地面にめり込んでもなお目立った外傷も少ない少年の顎を片手で掴み、顔を近づける。


『解呪』

 

 少女の瞳が紫の光を放つと、光が少年の目に吸い込まれた。彼の目はすっと元の色彩を取り戻し、少年は眠った。


「まったく、人間は残酷じゃのう。お主もそう思わんか?」


 少年を鎧の人に担がせた彼女は、くるりと僕の方へ振り返った。


「えっ」


 心臓がドクンと跳ねた。夕刻を知らせる鐘がゴーンと一度鳴る。いつも暗くなる少し前になる鐘が、僕にはひどく遠くに聞こえる気がした。


「ほれ、さっさと来るのじゃ」


 胸の奥に響く声。その目は明らかに僕を捉えていた。僕は諦め、震える足をどうにか動かして公園に向かった。


「お主、ジェヴィじゃな」


 近くで見た少女は、僕より頭一つ小さい。それなのに、受けるプレッシャーは僕より何倍も大きい。


「え、何で知って」


 依頼書が下から顔の前に突き出された。


「これ、お主の依頼じゃろ」


 それは、確かに僕が依頼したあのボロボロの依頼書。月光茸(マラディア)の採取依頼だ。


 僕の返事も聞かず、彼女は再び話し始めた。


「これ単体じゃと、ただ珍しいだけの光る(きのこ)じゃが」


 再びドキリと胸が跳ねる。紫の瞳でじっと僕の目を見つめてきた。そのまっすぐな眼は、何もかも見透かされているように感じる。


「単体での効能も利用性もありません。とその本にも書いてある筈じゃが?」


 抱えた植物図鑑をトンっと指で突かれる。


「えっと、その……」


「なんじゃ」


「その……満薬(プレーヌ)を、作りたくて」


 実際口に出してみて、自分が予想以上に自信がないことに気がついた。いつもの様に馬鹿にされる恐怖に、無意識に声が震えていた。


「なるほどの」


 彼女はそれだけしか言わない。やけにあっさりとした反応に、僕は少し拍子抜けして聞く。


「あ、あの……嘘だと、思わないんですか?」


「うむ。勿論じゃ」


「……じゃあ、本当に、採りに行ってくれるんですか?」


 白い小さな手が僕の頬に触れた。


「我は嘘は付かん」


 暖かくて、しっとりとした手が僕の頬を撫でた。離れた指には、小さな水滴が一粒付いていた。気付かぬうちに僕は涙を流していたらしい。


「そうじゃ、不安なら共に来るか?」


「えっ、一緒に!?」


「うむ。決定じゃな。今日はもう遅い。宿に行くのじゃ!」


 返事も聞かず、グイグイと手を掴んで連れて行かれた。少女の体とは思えない力強さと強引さに、僕は振り解くのを諦め、引きずられるように連れて行かれた。

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