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二人と別れた後、祭りを軽く楽しんだ俺達は荷造りをするため、ジェヴィの家に戻って来ていた。
「で、何を持って行くんだ?」
部屋の中は祭りの騒々しさに反して呼吸の音が聞こえるほどに静かだ。当たり前だがそこに人の居る気配はない。寝室から誰かが出てくる気配も勿論ない。
「とりあえず、師匠の作った魔道具とか、色々資料も持って行こうかなって」
ジェヴィは玄関に積まれた資料や何に使うかも分からないものまで、片っ端からローブに仕舞い始めた。
「その勢いで入れて、大丈夫なのか?」
「前に言った通り、このローブは家一個分くらいなら余裕で入るからね」
ぽいぽいと片っ端からローブに吸い込まれていく。すでに玄関は新居と見間違うほどにきれいだ。
玄関、リビング、キッチンとあらかたものをぶち込むころには、日が暮れてきていた。残すは寝室だけだ。
「どうした?」
寝室の前、ジェヴィはドアノブに手をかけたまま止まる。
「わかってるんだけどさ、手が動かないんだ」
ジェヴィが泣きそうな顔で振り返る。
「もしかしたら、椅子に座って僕を待ってるんじゃないかって、開けたら、本当にいなくなっちゃう気がして、そう考えたら、僕」
まとまらない言葉。一筋の涙が頬を伝う。
「大丈夫だ」
俺はジェヴィの頭に手を置き、ドアノブごと手を握る。
「ネクティスはいなくなったんじゃなくて、見えなくなっただけだ。見えなくなってもこの部屋でジェヴィを守ってるんだよ。ジェヴィも言ってただろ? この町が残る限りネクティスは生き続けるってな。それと似たようなもんだよ」
俺はまだ不安そうなジェヴィの頭をわしわしと、髪型が崩れるのも気にせず撫でる。
「大丈夫だ。ネクティスは絶対ジェヴィを見守ってる。俺が保証する」
「ふふ、ありがとう……うん。じゃあ、開けるよ」
深呼吸を一つ気合を入れたジェヴィ。手の中でドアノブがゆっくりと回されて、扉が開いた。当然中には誰もいない。
小さな息を吸う音。俺は崩れ落ちるジェヴィを優しく、包むようにして佐々園ながらその場に座って、何も言わず頭をなでる。
「大丈夫、大丈夫だ」
しばらく、部屋の前で胡坐で座ったまま膝の上のジェヴィをなでる。
「落ち着いたか?」
顔を上げたジェヴィ。目は腫れているが、どこかすっきりと晴れやかな表情だ。
「うん。ありがとう、ごめんね座っちゃって」
ジェヴィはそそくさと俺の膝の上から逃げていく。
「それじゃ、この部屋の物もローブに入れるか?」
「ううん、ここはこのままにしようかな」
「そうか?」
「だって、師匠は見えないだけで、ここにいるんだもんね」
ジェヴィはベッドに座ると、いたずらっぽく笑った。
「そうだな」
俺もジェヴィに笑い返す。完全には吹っ切れてはいないのかもしれないが、それでも、心の中で折り合いは付けれたみたいだ。俺たちはそれ以上何も話すことなく、二人ベッドに並んでその静寂を楽しむことにした。




