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ネクティスが亡くなってから三日。その訃報は瞬く間に町中に広がった。冒険者に主婦や子供に老人。富裕層に、ボロボロのスラム出身のような者まで、葬式には町中のあらゆる人々が参列した。
「葬式というか、祭りだな」
噴水広場は人でごった返し、道には所狭しと屋台が並んでいた。
「そりゃ、あの賢王様の葬式だ! 全力で送り出さなきゃ罰が当たるってもんよ!」
俺の独り言に反応して一人の酔っ払いが絡んできた。
「へぇ、強いとは思ってたが、ここまで慕われてるとはな」
「そりゃそうさ! なんてったって、この町の創設者で、つい最近もあのゴブリンの群れを止めたんだからな。これで慕わない奴が居るなら見てみたいもんだ!」
酔っ払いが声高々に言うと、辺りからもそうだそうだと野次が飛ぶ。
「賢王様はこの町の英雄なのさ!」
ブォ〜ンと気の抜けた音が響く。広場に仮設されたステージにジェヴィが立つ。
「本日は、師しょ……こほん。賢王ネクティスの葬別式に来ていただき、ありがとうございます。本日は、この町の設立百年記念も併せてます」
ジェヴィはまっすぐと前を見据えて話す。それを誰もが黙って静かに聞いていた。
「日程は、あえてこの日にさせていただきました。たとえ何年経っても、ここにいる全員が死んでも、ネクティスという名前が歴史から、記憶からも消えてしまっても、この町が生きている限り、今日この日が記念日である限り、私たちの賢王は生き続けます。この町と共に!」
ジェヴィが腕を振り上げる。地面を振動させるほどの声援と共にその場の全員が腕を振り上げた。
ジェヴィが一礼しステージを降りる。ステージに向けられていた視線は徐々に霧散し、屋台や食事に戻っていく。そこかしこで食事と酒が配られ、葬式というには誰もが笑顔で楽しそうにしていた。
俺は近くの屋台で飲み物を二つ買い、人込みをかき分けてステージのほうへ向かう。ステージ下ではスピーチを終えたジェヴィが椅子に座って燃え尽きていた。
「お疲れさん。かっこよかったぞ」
飲み物の片方を渡して隣に座る。
「あ、ありがとう」
「百年前に町をって、ネクティスって何歳だったんだ?」
「わかんないけど、多分二百くらいかなぁ? って前聞いたら言ってたよ」
「二百……人間離れしてやがる」
「ね、でも人間だったみたい」
そこら中どんちゃん騒ぎなのに、ここだけ少し静かな気がするのは、ジェヴィに対して触れたら割れてしまいそうな不安定感を感じるのは、俺の気持ちの問題だろうか。
「そういや、ジェヴィは戦闘はあんまなんだよな?」
「うん。この町から出たのもあの日、月光茸を取りに行った日が初めてだよ」
「まじかよ」
生まれてから十数年。この町だけで生きて来たのか。
「……僕ね、昨日二人が帰ってもう一度自分で考えたんだけど……やっぱり」
俺は椅子から勢いよく立ち上がる。
「なら、それこそ外で色々見ないと損だな!」
「え?」
「これから知らない事ばっかなんて、最高じゃねぇか。それに、戦えないのが何だ? 何があっても俺が完璧に守ってやるから安心しろって。それに、もし俺が怪我してもジェヴィなら治せるだろ?」
俺は座っているジェヴィに手を差し出す。
「……うん。うん! 僕、絶対治す。それに、僕も頑張って強くなる!」
ジェヴィはその手を取らず、自分で立ち上がった。
「おう! その意気だ!」
もう心配なさそうだな。
「そうだ。折角色々屋台出てるんだし、色々見てこうぜ」
俺はジェヴィの手を取り、ギチギチに並んだ屋台を巡る。
屋台の風貌は異世界でも共通なのか、昔行った夏祭りとそう変わらない。並んでいるものは、肉の串焼きやケバブの様なものなどだ。
「お、ジェヴィじゃないか! 食ってけよ!」
俺達を呼び止めたのは、白いバンダナを額に巻いて串を回す店主。
「うまそうだな」
「ジェヴィ、友達か?」
「うん。友達」
「そうかそうか! ならサービスしないとな! ちょっと待っときな!」
店主はニカっと笑ってかがむと、屋台の下から大きな肉のブロックを取り出した。それを八つに切り分け、二本の串にさす。
「若いんだから、これ食ってネクティスさんみてぇに長生きしろよ!」
焼けた肉を渡される。両手にずしりと来る重み。明らかにほかの串よりでかい。
「ありがとうございます」
俺たちは屋台を後にして、公園の隅に敷かれた芝生の上に座る。
「なにしてんだ? こんなとこで」
串を食べきり満腹で二人ぼーっと人の流れを見ていると。後ろから声を掛けられた。振り返ると両手に肉串とケバブを持った仁美と船頭が立っていた。
「そっちこそ、随分と楽しんでるみたいだな」
「なんで 屋台の食べ物ってこんな美味しいんだろうね」
両手に持った串を、それはそれは幸せそうに頬張る仁美。
「ルミエーラはいないのか?」
「あぁ。なんでもやることがまだあるとか言って、俺らに金だけ渡してどっか行ったぞ」
「そうか」
「それじゃ、俺らはそこら巡ってるから」
すでに両手の食料を食い尽くした仁美に引きずられるようにして船頭は人込みに消えていった。




