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勇者に非ず  作者: 天空
魔族とゴブリンは全く別の生き物
3/33

03

 ジェヴィは黒のローブに身を包んで今日もギルドに向かう。深く被ったフードを少し持ち上げ、ギルドの掲示板を見てため息をついた。ギルドは一階の左右に酒場があり、真ん中に受付と掲示板がある。


 掲示板に掲載された古く色褪せた一枚の依頼。月光茸(マラディア)の採取依頼だ。世間一般的には、幻とされているきのこだ。これまで誰一人として、依頼を受けた人はいない。


 ダメ元で受付に向かう。受付の上に置かれた白いネームプレートには、アキュールと書かれている。今日の受付は僕にも優しい当たりの人だ。


「こんにちは、ジェヴィさん」


 鈴のような声に、おっとりとした目。茶色い髪を頭の上でお団子にしたアキュールさんは、他の受付の人とは違って僕にも優しく真摯に対応してくれる。


「あの、依頼を受けてくれる話とかって…………」


「うーん。来てないですねぇ」


 頬に手を当てて申し訳なさそうに目を伏せるアキュールさん。ですよねぇと、少し肩を落として受付を離れて、階段で二階へと上がった。


 二階は吹き抜けの資料室となっていて、本棚には手書きの資料が所狭しと置かれていた。


 一階は屈強な戦士や、ローブを着た魔法使いなど、冒険者パーティが酒場のテーブルを囲んでいる反面、二階には殆ど人が居ない。


「ふむ、良い雰囲気じゃな」


 植物図鑑を棚から取り出すと、ギルドの入口から少女の声が聞こえた。その声に一階の冒険者全員が一瞬で黙った。


 場違いな幼い声に驚いた訳ではない。決して大きくはない声に含まれた強者の風格。隠す気のない圧倒的な威圧感に、全身が警報を鳴らしていた。


「こんにちは。今日は何のご用ですか?」


 静かなギルドにアキュールの声が響いた。僕は慌てて二階から受付を見下ろした。受付の前に立つのは、真っ赤な髪に黒いドレスの少女と、殺気丸出しの黒い鎧を着た人。フルフェイスで、性別や年齢はここからじゃ一切分からない。アキュールはその威圧感に気付いてないらしく、普通の少女としてそれを扱っていた。


「冒険者になりたいのじゃが」


「えっと……あ、後ろの方の冒険者登録ですね!」


 そっちの強さには何となく気付いたらしい、一人納得したアキュールに少女は少しムッと口を閉め、首を横に振った。


「違う。我の冒険者登録じゃ」


「えっ」


「なんじゃ、何か問題でも?」


「い、いえ。えっと……でしたら、ここに名前を書いて頂けますか?」


「無論じゃ」


 少女は上半身を伸ばして、受付の上に置かれた紙に名前を書いた。


「はい、ルミエーラさんですね。依頼は横の掲示板から選んで下さい。最初は簡単な依頼からスタートしてくださいね」

 

「うむ、ではこれを貰うのじゃ」


 一挙手一投足にハラハラドキドキしながら事の顛末を見据えたが、どうやら彼女を怒らせることは無かったようだ。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。彼女が掲示板に指差した依頼を見て、僕の鼓動はまた大きく動いた。

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