25
見渡す限りの敵。その圧倒的な数の暴力に、俺は言葉を失った。
「怯むな!」
ネクティスの言葉で、自分の足が無意識に後ろへ下がっていた事に気付く。
「っしゃあ!」
声を出して無理矢理に足の震えを止める。既にゴブリンは数メートル先まで迫っていた。
「まずは小手調べといこうか」
ネクティスは上着から一本の小さな赤色の筒を取り出した。筒を上方向に向けると、後ろから飛び出た紐を引っ張る。
ぽんっという気の抜けた音と共に、空に白い光の球体が浮かび上がった。球体は段々と空に上がっていくが、その大きさは変わらない。
違う。変わらないのではない。大きくなっているんだ。まるでその場に留まっているかと思うほどに大きくなる白球。
「弾けろ」
ネクティスの言葉に呼応するように白い球がパチリと音を鳴らす。バンっという大きな音と共に、球は弾けた。青い空に打ち上がる花火。それは無数の光の矢となってゴブリンを貫いた。
「凄まじぃ、な」
降り注ぐ光の矢は局所的スコールの様に降り注ぎ、ゴブリンを物言わぬ肉塊へと変えていく。
「ギギャァ!」
それでも何匹かは、間を抜けてこちらへ襲い来る。
「ほれ、ボケっとせんで戦うのじゃ」
ルミエーラに背中を押される。仲間の血に塗れたゴブリンが前に立つ。
「ギギギャア!」
仲間を殺された怒りか、死への恐怖からかゴブリンは奇声を上げながら手に持つ棍棒をブンブンと振り回す。
酷く杜撰な攻撃。俺は我武者羅に振り回される棍棒を避け、剣を振り抜き、ゴブリンを斬り飛ばした。
「ギ……ギィ」
胸を押さえてゴブリンが倒れる。俺は剣を鞘に収めて深呼吸をする。これまで獣型の魔物を倒した事はあったが、人型は初めてだった。
「そろそろ切れるぞ!」
ネクティスから声が飛ぶ。空から降り注ぐ光の矢が段々と減り、ついには止んだ。ゴブリンは咳を切ったように俺達目掛けて走り出した。
「っどんだけ居るんだよ!」
そこら中で戦闘が始まる。斬れども斬れどもゴブリンは尽きる事なく襲い来る。最初に比べればネクティスの攻撃もあり、確かに減っている。減っている筈なのだが、目視では全く変わった様には見えない。冒険者の数が圧倒的に足りていない。
「ギギャァ!」
「しまっ」
「ウィンド!」
背後から現れたゴブリンが吹き飛び、空中で矢に貫かれ息絶える。
「助かった!」
後方ではジェヴィが魔道具でゴブリンを吹き飛ばし、城壁の上では他の冒険者に混ざって仁美と船頭が矢を放っていた。
冒険者一人に対してゴブリンが三、四体は襲い来るこの状況で誰一人として死傷者を出していないのは、ジェヴィ達による後方支援の賜物だろう。




