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「もう夕方か?」
気付かないうちに相当経っていたのか、俺は外を確認するが、空はまだ青い。
カーン。一度鳴った鐘が再度鳴る。
「二回……」
ジェヴィが薬から目を離して不安そうに呟く。
「二回鳴るとなんかあるのか?」
鐘がまた鳴る。三度目だ。
「鐘は鳴る回数で意味が変わるんだ」
ネクティスが上着を羽織りながら答える。
「一回は夕刻を知らせるもの。二回は数匹の魔物などの小規模な災害。三回は数十から数百の大規模な災害。四回以降は——」
その瞬間、鐘がけたたましく何度も鳴り響いた。
「町の存続が不可能な規模の災害だ」
「な、なにが起きたの?」
製薬を中断したジェヴィが俺の服をぎゅっと掴む。
「二人とも、ギルドに向かうぞ」
白い上着を羽織ったネクティスを先頭にギルドに向かう。町は警報があれだけ鳴り響いたのにも関わらず、ギルドまですれ違うのは衛兵や冒険者ばかり。民衆はまるで消えたように居なくなっていた。
不気味なまでに静まり返った町とは反対に、ギルドは怒声と喧騒に塗れていた。
「状況は」
ネクティスは駆け回る職員の一人を捕まえる。
「ネクティス様!? どうしてここに!?」
一瞬だけ喧騒が収まり、全員がネクティスに向く。
「そんな事は良い。それより何があった?」
「はい! 正門からゴブリンの大群がこちらに向かっていると、報告がありました!」
若い青年の職員は背筋をピンと伸ばして説明をする。こちらを見ていた人々もまた動き始めた。
「その数およそ数百から数千にわたるとの事、到着予想は後一時間前後です!」
「正門だな。すぐに向かう。着いて来れる者は着いてこい!」
ギルドの中にいた冒険者が声を上げてネクティスに続く。
「ジェヴィの師匠。凄い人だな」
「うん! 師匠は凄いんですよ!」
俺達も正門に向かう。
外には何十人もの衛兵と冒険者が平原の先を睨んでいる。その視線の先、一面に広がる草原は一見いつも通りだ。
「なぁ、本当に——」
疑問が止まる。誰一人として口を開かない。静かな草原に小さな地響きが鳴り響く。ドドドドと、重機を思わせる地響きは段々と大きくなり、地平線の先から土煙が立ち込め始めた。
「総員、戦闘準備!」
ネクティスの声が鋭く響く。ガチャガチャと剣や鎧の動く音。
「ふぅ、間に合ったのじゃ。我も久しぶりに戦いたいからの」
ひりつく空気を裂いてルミエーラがぴょこんと現れた。
「おい、戦うって、それでか?」
思わず俺はルミエーラの手元を指差す。ルミエーラが持っていたのは、古い民家などでしか見ない竹箒。赤のワンピースも相まってその風貌は何処かのお店の看板娘だ。
「うむ、宿で貰ったのじゃ」
まだ色々と言いたいところだったが、仕方なく言葉を止めた。ゴブリン達の進行速度は意外にも速い。
「ジェヴィも来て大丈夫だったのか?」
これまでジェヴィが戦っているところは見ていない。
「こ、後方っ支援なら! 僕にも、手伝わせて!」
緊張した様子のジェヴィだが、その目はしっかり前を見据えていた。
「無理はすんなよ!」
再び前を向く。前方の土煙が突風により晴れる。一面の濃緑。草原より濃い緑の魔物が地平線を文字通り埋め尽くしていた。
醜悪な見た目。鼻は飛び出し、目は白濁としている。腰の歪んだ小人。まさしく俺の知っているゴブリンそのものだった。




