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勇者に非ず  作者: 天空 浮世
魔族とゴブリンは全く別の生き物

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 ……懐かしい夢だ。


 ギシリと鳴るベッドから起き上がる。窓からは暖かな陽光が射している。リビングから聞こえる賑やかな声に気がつく。


「おや、お客さんかい?」


 リビングでは、ジェヴィとジンが軽食を食べていた。甘い匂いが鼻腔をくすぐる。いつものクッキーだ。


「お邪魔してます。体調は……大丈夫なんですか?」


「あぁ、良いから。むしろ元気なくらいさ」


 立ち上がろうとしたジンを座らせ、自分も椅子に座る。


「ジェヴィ。ジンくんにあれを」


 クッキーを一つ摘む。ジェヴィがパタパタと棚に向かった。


「あっ! そうでした!」


「なんだ?」


「今朝、ルミエーラが来て頼まれたんだ」


「これです!」


 ジェヴィが棚から取り出したのは、紫色のペンダント型の魔道具だ。


「精神操作魔法を無効化する魔道具です! 師匠の指導の下、朝から作ったんです! 良ければ着けてって下さい!」


「おぉ! ヒジリ対策か」


 ジンは魔道具を受け取り、首から下げる。ジェヴィがパタパタと手を叩く。


「似合ってます!」


「ありがとう。良い土産を貰ったよ」


 帰ろうと玄関に振り返るジン。ジェヴィが小さく肩を落とす。少しだけ伸びた手が虚空を掻いていた。


「ジンくん。明日のこの時間は暇かな?」


「え、まぁ昼からは自由時間ですけど」


「なら、(うち)でジェヴィの相手をしてくれないかい? 満薬(トゥスメ)を作るなら手伝いが居たほうが良いだろう」


「元々手伝う予定でしたし、大丈夫ですけどジェヴィは良いのか?」


「も、勿論!」


「なら決定だな。明日も昼から来るように。分かったな」


「は、はぁ」


「じゃあまた明日ね!」


 嬉しそうに食器を片すジェヴィ。自身の選択は正しかったようだ。


 ——ジェヴィの家を出た(ジン)は薄暗い路地裏で立ち止まり、剣に手をかける。


「何の用だ?」


 語りかける先。脇道から一つの影が出てくる。


「落ち着けって、俺だよ俺」


 現れたのは船頭(せんどう) 航機(こうき)。俺の元クラスメイトだ。


「ルミエーラから頼まれたんだよ。ジンを迎えに行くのじゃ! ってな」


「へぇ、だったら家まで来てくれりゃ良かったのに」


「場所知らねぇからしょーがねぇだろ」


 共に路地裏を進む。俺の横にスッとやって来て、肩を組もうと手を回してきた。


「で、本当は何の目的で来たんだ?」


 船頭の腕を避ける。その手には鋭利なナイフが握られていた。


「マジかよ、何で分かったんだ?」


 首元に剣を向ける。船頭はナイフを落として手を上げた。


「ルミエーラは俺の事を名前で呼ばないんだよ。そっちこそ、どういう見解だ? まだ洗脳が残ってるのか?」


「残るどころか、元からされてねぇよ。チャカだよチャカ。持ってんだろ?」


 ドスの効いた声で、降参のポーズを取りつつも逆にこちらを脅す。


「生憎だが、持ってないね。草原に置きっぱなんじゃないか?」


「おいおい、俺に隠せると思うなよ?」


「なら、ルミエーラに聞いたらどうだ?」


「あんなバケモンに聞けるかよ」


 呆れた様に頭を振る。ついでとばかりに気付けば手も下げている。完全に舐められてるな。


「なら諦めるんだな。銃は別れた時にあいつに渡したよ」


「はぁ、そうかよっ」


 船頭は軽く舌打ちしてゴミ箱を蹴った。


「つか、何であんなもん持ってんだよ」


 剣を仕舞う。船頭は蹴り倒したゴミ箱を直しながら答えた。


「あ? んなもん俺が組の若頭だったからに決まっとるやろ」


 零れたゴミを拾う自称若頭。猫を被るのは辞めたのか、乱暴な話し方に変わっていた。


 クラスだと仁美(ひとみ)と一緒にいるおとなしい男子な印象だっただけに、意外だ。


「あ、仁美には言うなよ。言ったら……分かってんだろうな?」


「言わねぇって。一々脅すような口調はやめてくれよ。今更ルミエーラより怖い物が出てくる事はねぇんだから」


「それもそうだな」


 船頭の睨む目が緩む。


「脅して悪かったな。当分はこのドスでどうにかするか」


 落としたナイフを拾ってクルクルと回す。


「なぁ、さっき言ってた洗脳に掛かってないって」


 ドスを懐に仕舞う船頭に声を掛ける。


「ん? あぁ、マジだよ」


「どうして掛かんなかったんだ?」


 何でもないことの様に話す船頭に思わず声を強めて聞く。


「落ち着けって。俺の能力忘れたのか?」


 忘れたも何も教えてもらった記憶がないんだが。


「矢の軌道を変えてたやつだよな?」


「それもそうだが、んなちゃちなもんじゃねぇ。俺の能力は誘導(ディレード)物の流れだけじゃなく、人の思考や行動も誘導(ゆうどう)出来る」


 そんなもの、ほとんど洗脳じゃないか。


「聖の思考を誘導して、どうにか俺は洗脳されなかったが、矢見(やみ)が洗脳されちまった。俺も洗脳された振りしつつ、どうにかここまで逃げてきたんだ」


 船頭は息を吸うと、捲し立てた。


「洗脳を解ける奴がいたと思ったら、チャカは取られるわ、俺の能力が効かんわお前らどうなってんだ? お前に関しては昨日までは効いてただろ。何故効かなくなってる? ここまで答えたんだ。そっちも正直に話したらどうだ?」


「そんな事言われても、別に俺にそんな力は……あ」


 静かで湿った路地裏に、俺の素っ頓狂な声が響いた。

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