18
ネクティスは全身をグレーのフードで覆い、同様の服装をした弟子を一人連れて魔王城の前に立っていた。
「まずは小手調べと行こうか。魔王」
ローブから爆弾を取り出すと、魔王城向けて大量に投げ込んだ。耳をつん裂く轟音と爆風が辺りを巻き込むが、魔王城には傷ひとつ付かない。
「無傷か……これならどうだ?」
ローブから細長い部品を取り出し組み立てる。
「俺の最新の発明、電磁砲だ」
組み立てられた電磁砲はビリビリと電気を纏い、銃口から勢いよく電磁砲を発射した。
先程の爆弾など比ではない勢いと威力。光線が魔王城へぶつかると、バヂンッと音を鳴らして弾け飛び、煙が巻き上がる。
煙が晴れた先、魔王城は俺の発明を嘲笑うように無傷で立ち塞がっていた。
「師匠。この魔法壁。隕石にすら余裕で耐えうる性能です」
解析を終えた弟子の耳打ちに頷く。
「そうか、これまで無数の勇者を追い返した魔王。この程度挨拶にもならんか」
その場に電磁砲を放り出すと、魔王城の象徴である見上げるほどに大きな門を開いて中へと入った。
「てっきり魔物の巣窟かと思いましたが、伽藍堂ですね。門も開いてましたし、もう討伐されちゃったんじゃないですか?」
魔王城の中は虫一匹の気配もない。弟子は引き締められていた気を緩めて話す。しかし、俺はむしろ冷や汗を垂らし、門前よりも強い緊張感を持っていた。
「ふざけるな。もし魔王が死んでるなら、この上から溢れる化物の気配はなんだってんだよ」
巧妙に、しかし俺程度の人間には分かる程度に操作された気配が上階からこちらに向けて放たれていた。
それを聞いてなお楽観視出来る程弟子も愚かではない。すぐに警戒を強めた。
一段一段、ゆっくりと階段を登っていく。道中の階も伽藍と静かで、埃ひとつ落ちていない。
「……私が先に進みますね」
上からの威圧感で進む足がどんどんと遅くなって行く中、何とか最上階の一つ下の階まで辿り着く。率先して前へ出た弟子を先頭に階段を登る。階段を登った先、やけに大きな空間に、これまた大きな両開きの扉が立っていた。
ガチャン!
弟子が扉を開こうとすると、
「また来おったか、新しい勇者よ」
玉座に座るのは真紅の髪を靡かせた美女。頬杖を付く様は名画の様だ。
「我が魔王の座に君臨するものだ」
すらっとした背丈に大人びた顔立ち。人間に産まれたなら傾国の美女にまで登り詰めただろう。
「お主、名は何という?」
「ネクティスだ。巷では賢王と呼ばれている」
脳にスッと入ってくる声に、思わず答えてしまう。
「そうか、してネクティスよ、そのまま回れ右すれば面倒な事をせんで済むんじゃが、どうじゃ?」
頬杖をついたまま面倒くさそうに手首を振る。
「ふ……ふざけるなよ! 私達はお前を討伐に来たんだ。魔王と聞いたからどんなもんかと思ったが、全然じゃないか!」
「……やめろ。死ぬぞ」
喚く弟子の口と手足を素早く縄で拘束し、そのまま後ろに放り投げた。
「あれはどうか逃してはくれませんかね、私のたった一人の弟子なもので」
もがもがと叫ぶ弟子を放って俺は臨戦体制に入った。勝ち目はゼロに等しいが、ここで帰る選択肢は生憎となかった。




