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コンコン
「はーいっ!? どうしたんですか、その怪我!」
扉を開けると、昨日見た姿から一変。全身切り傷や、打ち身でボロボロの彼が立っていた。
「今日から、船頭と仁美を加えた訓練が始まってな……って、くすぐったいんだが?」
全身を触診する手を慌てて引く。
「あっすみません。そうだ、この前作った傷薬があるので、リビングで待ってて下さい」
「ありがとう」
満薬の調合用の機材で埋め尽くされたリビングに通して、椅子に座ってもらう。
「えっと、確かここに……あ、あったあった」
棚から緑の液体の入った瓶を取り出して渡す。
「ありがとう。どうやって使えば良いんだ?」
「傷に塗れば大丈夫です。数分もすれば良くなるんじゃないかと思い、ます」
「へぇ、助かるぜ」
早速彼は瓶の蓋を開けると、少し粘性の高い液体を指で掬って傷に塗っていく。
「悪い、背中の方を塗ってくれないか?」
「えっ!?」
彼は僕に瓶を渡すと上着を脱ぎはじめた。
「は、はい、じゃあ。失礼します……」
指でひんやりとした傷薬を掬うと、傷だらけの背中に指先でそっと触れた。
「えっと、痛く無いですか?」
「あぁ、問題ない」
「筋肉凄いですね。僕もこの位欲しいなぁ」
家での作業が主な僕の肌は白く、筋肉もほとんどない。
「確かに、こっちに来てから筋肉量はだいぶ増えたな」
「凄いね……羨ましいな」
そのまま無言でペタペタ、ペタペタと体を触る。
「? なぁ」
「あっ! ごめんなさい! はい! もう全部塗りました!」
慌てて背中から離れると、瓶を彼に渡す。
「ん? くれるのか?」
「はい……無くなったらまた取りに来て下さい」
「マジか。助かるぜ。んじゃこの辺で――」
「あっお茶とか! ……飲んでいきませんか?」
「良いのか? 忙しかったりすんじゃねぇの」
「師匠も多分まだ寝てるので、今は大丈夫だと思います。満薬の調合も行き詰まってますし……」
「なら、少しお邪魔するか。つーか、敬語やめてくれよ。同じくらいだろ」
「えっと……いいの?」
「良いって良いって、その方が気楽だし」
「分かった。じゃあ、すぐ用意するね!」
僕は浮き足立ちつつも、急いでキッチンに向かった。
「手伝うぞ」
「え、あ、ありがとう……じゃあお皿持ってって貰えるかな?」
「おう」
僕は彼に丸い陶器の皿を渡す。
「出来たよ」
「随分と豪華だな」
机に紅茶と、お菓子が3段に並べられたスタンドを置く。
「凄いクオリティだな。どれも美味そうだな」
お菓子はクッキーやプチケーキなど、紅茶に合うものを、有り合わせで用意した。
「ん! うまっ」
彼はクッキーを口に運ぶとそう溢した。
「ありがとう」
師匠以外の人に食べて貰うのは初めてだった。僕は安心してクッキーを食べた。うん。いつも通りの味だ。
「良いのかよこんなの食っちゃって。高かっただろ」
「大丈夫だよ。それ僕の手作りだから……材料費くらいしか掛かってないよ」
「は!? 手作り? ……本業は菓子職人か?」
思わず目を見開いて真剣に聞く彼に、僕は笑いつつ首と手を必死に振る。
「ち、違うよ! ただの趣味だって」
「いやいや、これ店で売れるレベルだぞ!」
そう言って彼はパクパクとお菓子と紅茶を飲む。
「そうかなぁ……」
お世辞でも、人に褒められることなんてなかった僕は、自分でも自覚出来るほどに口角が上がっていた。




