15
「……久しいの。――ネクティスよ」
ルミエーラは老人の横に置かれた椅子に座ると、そう呟いた。
「えっと、その、師匠はもう何年も起きてないんです。すみませんが、隣の部屋に……」
「ここは良い町じゃな。わざわざあの森で眠った甲斐が有ったってもんじゃ」
「……やっと、俺の願いを叶えに来たのか?」
ルミエーラの声ではない、しゃがれた老人の
低い声が響いた。
「え、どうして――」
「ま、似たようなもんじゃな」
ジェヴィがその場に崩れ落ちた。
ネクティスはルミエーラをじっと見据えてゆっくりと起き上がった。ルミエーラは特に驚きもせず答えた。
「師匠!」
その場にペタンと崩れていたジェヴィが、泣きながらネクティスに抱きついた。
「おぉ、すまんな。心配かけて」
「師匠! 師匠!」
ジェヴィは子供のように、えんえんと泣きじゃくる。
「……にしても」
しばらく泣いていたジェヴィが、ネクティスの膝の上で寝てしまったのを確認すると、ルミエーラはネクティスの顔をじろじろと見て、ニヤリと笑った。
「ネクティスよ。お主老けたのぉ」
「そりゃあれから千年だ。老けもする。そういうお前は随分と若く、いや……幼くなったな」
「我にも色々あるんじゃ」
「……彼はどうしたんだ?」
少し部屋を目で見渡してネクティスは聞いた。
「刃は我の弟子じゃよ、お主を真似して、我も一人だけ弟子を取ることにしたんじゃ」
「なるほどな……今度は最後までしっかり面倒見てやれよ」
「無論じゃ」
「そうかい。で、君がジンかい?」
「は、はい」
優しい声で呼ばれるが、俺は完全に気圧されていた。カチカチな動きでネクティスの前に立つ。
「ふむ」
鋭い目が全身を突き刺すように観察する。
「俺と同じ、英雄の目だ」
ふっと優しく微笑んだネクティス。皺枯れた手で頭を優しく撫でられた。
「彼女は魔王らしく自己中心的なやつだが、根は良い奴なんだ。よろしく頼むよ」
「はい……ん? 魔王?」
「なんだ、聞いてなかったのか?」
「魔族ってのは……魔王?」
「違う」
予想外の内容に思わずルミエーラを見ると、首を横に振った。
「元魔王じゃ。今は何者でもない」
「いや、変わんねぇだろ……」
腰に携えた剣に手を掛けた。一瞬で張り詰めた空気となるが、ルミエーラもネクティスも特に気にした様子はない。
「やるなら相手くらいはするがの?」
「……いや、やめだ」
剣を腰に戻す。
「一応クラスメイトを助けて貰ったしな。それに、教わるなら魔王くらい強い方が良い。もちろん強いんだもんな? 元魔王さんよ」
「……はぁ、何度も言わせるでない。無論じゃ」




