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勇者に非ず  作者: 天空 浮世
魔族とゴブリンは全く別の生き物

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「これは――」


「十回までならどんな攻撃も防ぐ魔道具! 魔力はもう込めてあるから! 行って!」


 手元に落ちたのはピンク色の水晶。ガキィン! 衝撃音が鳴り響き、矢が目の前に落ちた。魔道具の効果は本物らしい。


「助かる!」


 魔道具を受け取ると同時に走り出した。一歩、また一歩と近づく度に攻撃は鮮烈を増していく。最低限弾けるものだけ弾き、避けれるものは避け、あとは魔道具に任せる。


 二回、三回、四回。ピンク色の水晶の作り出す障壁に矢が弾かれる。断続して鳴る衝撃音を数えながら素早く前に進む。


「間に合ったぜ」


 十回目の衝撃音が鳴り、水晶が割れると同時に仁美の前に辿り着き、弓の弦を斬り飛ばした。


「おい! 解呪してくれ!」


 逃げようとする仁美(ひとみ)を押し倒して振り返ると、ルミエーラはジェヴィを抱えたままこちらに向けて既に走り出していた。しかし、近づいたかと思うと、そのまま過ぎて行ってしまった。


「おい! こっちだ!」


 走り出したその先では、船頭(せんどう)が拳銃をこちらに向けていた。ルミエーラは船頭を手に持つ籠で思い切り殴る。


「ぐはっ!」


 思い切り地面に叩きつけられた船頭はパタリと気絶した。ルミエーラは船頭の持っていた銃をジェヴィに渡す。


「全く。お主は気を抜くのが好きじゃな」


「すまねぇって」


 やってきたルミエーラに退かされる。解呪を施された仁美は抵抗をやめて、船頭と同じようにパタリと気絶した。


「それじゃ、町に帰るのじゃ」


 仁美と船頭を担いで馬車に乗せると、ジェヴィを下ろしたルミエーラが馬車を走らせた。


 ガタガタと走る馬車とそれに揺られる五人。


「そういや、さっき船頭が持ってたのって」


「これ?」


 ローブから出てきたのは、やっぱり拳銃だ。それもサプレッサーまで付いてる明らかに怪しげなものだった。


「……なんでこんなもん持ってるんだよ。ありがとう、とりあえず危ないから閉まっといてくれ」


「うん。これ、なにか知ってるんですか?」


「あー故郷の武器だよ」


「へーこれが……こう、殴るんですか?」


 ガツガツと拳銃を振るう素振りをする。


「違う違う。そこのトリガーを引くんだよ」


「へぇ、ここを」


 ジェヴィは銃口を覗きながら、言われるがままにトリガーに指をかけると、そのまま引いた。


「ばっ」


 パァンという乾いた音と、火薬の臭いが立ち込めた。


「当たってないか?」


「え、あ、うん」


 ギリギリで銃口を引っ張ったことで、弾はジェヴィに当たることなく、屋根を突き抜けていった。


 手に熱く焼けるような感触。銃口を握った手を見ると、真っ赤に染まっていた。


「んぅう……え、何の音? ここは? ……え、刃くん?」


 こちらの会話が聞こえたのか、仁美が唸りながら起き上がった。


 頭を抑えながら周りをキョロキョロ見て、仁美は固まった。


「……生きて……たんだ」


 仁美は起き上がると、目を見開いて固まった。


「ジンさん! ポ、ポ、ポ、ポ」


「大丈夫だから、落ち着け、落ち着け!」


 八尺様みたいになってしまったジェヴィの震える手から、軟膏の形をしたポーションを受け取った。傷口に塗りつけるとすぐに痛みが引いていった。幸いそこまで深い傷ではなかったようだ。


(じん)くん生きてて良かったよぉ……!」


 今度はフリーズしていた仁美が突然、大声で泣き始めた。


「今後はこっちかよ! 落ち着けってどうしたんだよ、起きて早々」


 まだ慌ててるジェヴィを落ち着かせながら、仁美の涙を袖で拭う。


「だ、だって……雷斗(らいと)くんとか、地湯(ちゆ)くんの遺体が見つかったって、聞いてたから……てっきり」


「あぁ、そういうことか……俺だけ生き延びたんだよ」


 視線を逸らす。あまり思い出したくない事だ。


「あの……」


「えっと、あなたは?」


「あっジェヴィです……お、お怪我はありませんか?」


 ジェヴィはさりげなく拳銃をローブに仕舞って小さくお辞儀した。おずおずとポーションを差し出すジェヴィ。仁美はポーションを受け取らずに、ジェヴィへするりと近づいた。


「よろしくね! ジェヴィさん」


「は、はぃ……」


 まだ赤く腫れている目を細めて笑顔で手を差し出す仁美。その手をジェヴィは警戒しながらも親指と人差し指でそっと摘んだ。


「ねぇ、この子可愛すぎない? 貰っていい?」


 ジェヴィを抱く仁美。ジェヴィは完全に固まってしまい、されるがままだ。


「あの……さっき話してたライトさん? たちって」


 意識を取り戻したジェヴィは仁美の腕の隙間から顔を出し、少し躊躇しつつも話を促した。


「あぁ、昨日話しただろ。俺がこの町にくる前。旅に出てた時の仲間だよ」


「あ、そう……だったんですね」


 ジェヴィは察して目を伏せた。そんなジェヴィを仁美はぬいぐるみみたいに撫でる。


「そろそろ町に着くのじゃ」


 御者席のルミエーラが口を挟む。


「え、こっちにも可愛い子! 名前は?」


 仁美は固まって動かなくなったジェヴィを放って、これまた楽しそうにルミエーラに抱きつく。


「あ、おい!」


(われ)はルミエーラ。此奴の師匠じゃ」


 怒ったりするかと思ったが、意外にもルミエーラに気にした様子はない。


「えっと師匠? 逆じゃなくて?」


 仁美がルミエーラと俺を交互に指差す。


「我が、此奴の弟子?」


 ルミエーラは面白おかしく、嘲笑うように吐き捨てた。


「残念ながら、そいつが師匠だよ。こんなんだが俺より全然強えよ。お前らの洗脳を解いたのもそいつだ」


「嘘だぁ、刃くん確か剣道で大会出てたよね? それより強いの? それに洗脳? そういえば、ここ何処? 私、なんも覚えてないんだけど、その洗脳とやらのせい?」


 仁美がルミエーラの頭をペシリと叩こうとするが、ルミエーラは頭を曲げて避ける。


 こいつ……死にたいのか?


「じゃな。それと、いい加減そこで寝たふりしてる男も起きたらどうなんじゃ?」


「え、航機(こうき)起きてんの?」


 避けるだけで怒る様子のないルミエーラから離れた仁美は、床で寝そべる船頭の腹をガッと蹴った。まぁまぁな勢いの蹴りだ。船頭はウッと唸り声を上げて起き上がった。


「随分と手荒な目覚ましだなあ」


「航機も記憶無い感じ?」


「あぁ、俺も食堂に入ったところまでは覚えてるんだけどなぁ」


「だよね! 私もなんか話聞いてたのは覚えてるんだけどなぁ」


「俺も食堂からの記憶が曖昧だ。たしか、あいつの、(ひじり)の話を聞いてからだ」


「そうそう! そういえば、私も聖くんの話聞いてた!」


「つーことは、聖が俺らを洗脳したってか?」


「……でも、どうして?」


「俺達に旅させて、自分が楽するためだろ、逆にそれ以外あるか?」


 胸中(きょうちゅう)に沸々と怒りが湧き上がる。


「洗脳うんぬんは分かったが、これから俺達はどうなるんだ? まさか、ただ助けただけって訳じゃ無いだろう?」


「いや――」


「当たり前じゃろう。それ相応に働いて貰うのじゃ」


 否定しようとするが、すかさずルミエーラに口を挟まれた。


「……なにをすれば良い」


 途端ひりつく空気。仁美はよく分かってないらしく、船頭とルミエーラを交互にキョロキョロ見ていた。


「時が来たら教えるのじゃ。それより今はジェヴィが先じゃ」


 動いていた馬車が止まる。気付けば門前に着いていた。


「お主らはここで待ってるのじゃ」


 ルミエーラは馬車を駐めると、仁美と船頭を手早くロープで縛り上げ、俺とジェヴィの手を取って馬車を降りた。


「え、ちょっえっ? 待——」


 仁美が困惑して、何か言おうとしていたが、ルミエーラは気にせず馬車の扉を閉めた。


「お、おい。良いのか? ここ、町の外だぞ?」


 外は弱いながら魔物もいるだろう。そんなところに拘束して二人きりは流石に危険だ。


「問題ないじゃろ」


 しかし、ルミエーラはサラッと流して、町に向けて歩き出した。ここにあの二人を残すより、ジェヴィとルミエーラを二人にする方が不安で、俺は後ろ髪引かれる思いをしつつ、ルミエーラに着いていった。


「さて、ジェヴィよ家へ連れてくのじゃ」


「え、僕の家……ですか?」


「うむ。薬の材料はそれで最後じゃろう? なら人手が居るじゃろ」


 ルミエーラに背中をポンッと押された。手伝えということらしい。


「よく分からんが、俺に出来ることなら手伝うぞ?」


「えっと、じゃあ……お願いします」


 おずおずと頭を下げるジェヴィ。


「力になれるか分からんが……そのくらいならな」


 ジェヴィを先頭に歩いていくと、ごく普通の一軒家に着いた。


「ここです。どうぞ」


 ジェヴィが鍵を開けて中に入る。


 清廉な外観とは一転して中はごちゃごちゃとしており、ガラクタにしか見えないものが玄関から廊下の奥まで、所狭しと積み上げられていた。


「すみません、狭くて……」


「全く……これじゃから研究職は」


 ルミエーラはジェヴィの横をすり抜けると、人一人がギリギリ通れるくらいの空間を縫って、廊下に面した二つある扉のうち奥にある扉を開いた。


「あ、そっちはっ」


 返事を待たずルミエーラは中に入ってしまう。ジェヴィが慌てて後に続いた。


 部屋に入ると、廊下とは一転、魔道具が殆どない。清潔に整えられていた部屋の窓際にはベッドがあり、白髪の老人が小さな寝息を立てていた。老人からは、寝ていても分かるほどの強者の風格は、昔通っていた道場の師範と対峙した時より遥かに大きい。

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