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「えっ……えっ!?」
薄い膜を抜けたような感覚に包まれた次の瞬間。景色が変わった。
牧歌的な日の射す森から一変。森の中は薄暗く、地面には水色に発光する茸がそこかしこに生えていた。それは、月光茸だった。僕が長年探し続けていたのに、本当にこんなに近くにあったなんて。
「言ったじゃろ? 我は嘘は吐かぬのじゃ」
少し遅れて森に入ってきて、自慢げに月光茸を摘み取り、僕に渡す。
摘み取られた月光茸を受け取る。ほんのりと光る月光茸。実際に手の内にあるというのに、いまだに信じられなかった。
「うぉ、暗っそれが探してたやつか?」
遅れて森に入った彼も月光茸を摘み取った。彼からしたらなんて事のない行為だったのだろうが、僕にはそれが信じられなかった。
「じ、ジンさん! そ、それ、そんな適当に取って良いものじゃ」
「えっそうなのか? 悪い」
「良い良い。どうせまだまだある」
ハッと気付き、辺りを見回した。森の中は薄暗いが、何処をみても地面は水色に光っていて、その光は奥深くまで続いていた。
「もしかして、あの光全部……」
月光茸は表向きには何も効能のない植物だが、満薬の材料だと知っている人は知っている。しかし採取出来る場所も人もこの世にもう存在しない筈だった。枯れた月光茸でも、然るべき場所に売れば、一つで豪邸が何軒も建てられるほどに貴重なものなのに。
「こんな環境、どうやって……もしかして、結界ですか?」
森と草原の境の膜を思い出し、草原と、森との境目に手を差し出した。
「許可者しか通れないように、しかも認識阻害に防御壁……一体どれだけの」
結界は複雑で、調べるだけでも数年、解除や侵入には十年以上掛かるだろう。
「そんなものはどうでも良い。機能もほぼ壊れておる」
彼女は馬車から持ってきたであろう小さな木の籠に月光茸を入れていた。それもただの籠ではなさそうだ。恐らく何らかの日の光を遮る保護魔法がかけてあるのだろう事が遠目でも分かる。
「はよぅせんと帰る時間になる。それとも要らんかったかの?」
「あっ、い、要ります!」
慌ててローブからビンを取り出した。月光茸用に作った日光を遮る魔道具の容器だ。根元から掘り起こして土ごと容器にそっと入れる。まさかこんなに有るとは思っていなかった。容器がすぐ足りなくなってしまいそうだ。
「お主ら、我から離れるでないぞ」
採取に夢中になっていると、呼び止められた。気付けば結構な距離を離れていた。彼は飽きてしまったのか、僕の近くで素振りをしていた。
「潮時じゃな」
僕が最後の瓶に月光茸を詰めると、彼女は小さくそう呟いた。
「あ、帰りますか――」
顔を上げようとすると、視点が急に地面に落ちた。
頭を押さえつけられている。
「あの、なんで?」
口に土が入ってジャリジャリとする。
「死にたくなければ口を閉じとくのじゃ」
低く唸るような声に、僕は両手で口を押さえた。
「良い子じゃ」
体がふわりと浮き上がると担がれた。今の気持ちは米俵だ。視界が広がると、僕らの前で、先程まで気怠そうにしていた彼が、真剣に剣を振っている。矢だ。何処からか無数に放たれる矢が剣だけで弾かれていた。




