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「どうなってんだ? それ」
懐から魔道具を取り出しては仕舞い、取り出しては仕舞いを繰り返していると、手元を指差された。手には透明なハート型の水晶が握られていた。
「こ、これですか? これは十回までならどんな攻撃も防ぐ魔道具で……」
「いや、そうじゃなくて……いや、それも気になるが、そのローブだよローブ。どんな構造ならそんな何個も物が入るんだ」
「あぁ、これですか? これは、空間魔法が編み込まれているんですよ」
「空間魔法? どのくらい入るんだ?」
「無機物だったら、家一軒分くらいですかね」
水晶をローブに仕舞い、また別の魔道具の手入れをしながら答えた。
「マジかよ、そんな入るのか」
「はい。便利ですよ? 買い物とか、手ぶらで良いですし」
「そうか、それはたしかに、便利そうだ」
ふっと優しく彼は笑った。僕はそれをポカンと見つめた。昨日からずっと険しい顔を続けていたのに。
「ん? なんだ?」
「あ、いえ……そんな優しい顔も出来たんですね」
「はぁ?」
僕の言葉に顔を少し赤らめて、ぎこちなく視線を逸らす。
「ちょいと失礼するのじゃ」
馬車が止まった。御者台から滑るように現れた彼女は、スルリと僕のローブの中に手を突っ込んだ。
「きゃっ」
驚きとくすぐったさで、思わず声が出てしまう。
「おい、いきなりなにしてんだ」
彼の表情が一気に険しくなるが、彼女は気にせず僕の懐を弄る。
「うーむ、どこじゃ?」
小さな指が体を這う。身をよじって逃げようにも、体をガシッと抱かれていて動けない。
「あったのじゃ!」
スポッと抜けた手には、小さな紫色の結晶が握られていた。
「これがないと面倒じゃからのぅ」
彼女は水晶をポケットへ仕舞った。
「あの、それは特に、なんの魔道具でもないですが……」
ローブから取り出されたのは、僕が幼い頃、師匠から大切に持っておけと渡された魔石だった。
「これは我の魔力の一部が封印された封印石じゃ」
「えっ、そうなんですか?」
どうして師匠がそんなもの、持ってたんだろう。
「うむ、よくぞ失くさずに持っておったの」
頭を撫でられる。身長は彼女の方が小さいが、優しい手つきに、目を細めて身を委ねてしまう。
「持ち主が知らねえことをなんで知ってんだよ」
「さぁ、なんでじゃろうなぁ」
からかうように笑う彼女に向けて、彼はため息を吐くと、険しい表情でそっぽを向いてしまった。
「ほれ、拗ねとらんで外に出るのじゃ、もう目的地じゃぞ」
「別に拗ねてるんじゃねぇよ。呆れてんだよ」
馬車の扉を開けて彼が降りる。
「あの……全然町から離れてない気がするんですけど」
降りた場所は、町もまだ見える距離。森林と草原の境界だった。
「うむ、この森に生えておるからの」
「え、っと、冗談ですよね?」
「冗談などではない。事実じゃ」
「……馬鹿にするのはやめて下さい。月光茸は太陽の光に当たったら枯れてしまうんですよ」
木々の隙間から日が差し込んでいる。あれでは絶対に育たない。どんな小さな日の光でも当たれば一瞬で枯れてしまう。こんな辺境の森に普通に生えてるものではないのだ。
「分かっておる。分かっておる。とりあえずこれを持って森に入るのじゃ」
彼女は僕から奪った結晶を取り出した。
「刃よ、ちゃんと見とくんじゃぞ。これが正しい黒断じゃ」
結晶を持たない方の手が黒く光り、結晶に振り下ろされた。
「なっ」
結晶は滑らかに二つに割れた。
それは紛れもなく公園で見たものと同様の技だったが、素人目にみても、その練度の差は明らかだった。
「ほれ、これを持って森に入るのじゃ」
水晶のかけらが僕の手元に投げられた。不審に思いつつも、言われた通り森に入ると、そこは先程まで見えていた森ではなくなっていた。




