第二話 自分の力
一ヶ月経ちました。
誠に申し訳ありません。
廊下を歩きながら考える。
転生してから約三年。どうにか落ち着いてき
た。
だが、調べたいことがある。自分の実力だ。
「どうしようかな……」
俺は頭を悩ませていた。
(でも待てよ…… もしかしたらできるんじゃないか?)
今の俺には終盤の力がある。
それならあれができるはずだ。
「“輪廻創ぞ──”」
「な〜にしてるの?」
「うわっ?! カリナ姉さん?!」
後ろを振り向くと二つ上の姉が立っていた。
長い髪は全体的には金髪だが、毛先が黒髪になっている。
金色の稲穂のような瞳を細めて笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
カリナ姉さんだ。
「何してるのかなエイトくん?」
慌てて手を隠す。
「なんでもないよ……」
「へ〜? お姉ちゃんに向かって隠し事するんだ〜……」
ゆっくりと距離を詰めてくる。
「それはお母さんも気になるわね〜?」
「うわっ?!」
後退りしているとお母さんがいた。
ミリア・フォン・アルヴェト、俺の母親。
夜のような黒髪に黒曜石のような瞳。自慢のボディは相手が母親だという意識がないと危なかった。
二人に挟まれ逃げ道が俺にはない。
「「何を隠しているのかな〜?」」
「な…… ナニモナイヨ……」
「「へ〜?」」
「そ…… そういえばお腹すいたな〜……」
「じゃあご飯にしましょうか?」
「食堂に行くよ! エイトくん!」
なんとか誤魔化しきれた。
だがあいにく今はお腹は空いていない。このままじゃバレてしまうな。
「“時間停止”」
周囲が色褪せ灰色になる。走っていたカリナ姉さんは浮いたまま時間が止まる。
そんな中、俺だけは色はそのままだ。なぜならその空間で動けるから。
「これなら大丈夫だな。“輪廻創造”」
中に草原がある白い泡が浮かぶ。
「ちょっと行ってみるか」
触れるとその泡の中に入っていく。
「やっぱりできたな」
“輪廻創造”とは新しい輪廻を創りそれに基づいた世界を創る魔法だ。
ここでなら好きなだけ自分の力を試すことができる。
「全力──はダメか」
本当に終盤と同じレベルの力を持っているならこの世を滅ぼしかねない。
そこそこ力をセーブしながらの六位魔法にするか。
魔法には一位から七位まであり、数の多いほうが強い。
「火焔六位魔法“紅蓮の星”──あっ!!」
この世界が焔に包まれる…… だけならまだ良かった。
想像以上に高威力であり世界の壁を越えた。
(ヤバ…… アイツが来るよな……)
世界の壁を越えると無の空間になる。
そしてそこを管理するのは……
「誰だ〜! 無の空間を灼熱地獄にしやがったのは!」
赤紫の長髪、毛先は碧色になっており、翡翠色の瞳。
「そこの貴様だな! 無の空間はこの虚空神ルネメスの管轄と知ってのことか!」
虚空神ルネメス。
作中トップクラスの強キャラであり、ヒロインの一人…… なのだが……
「す…… すまない……」
「黙れ! 謝罪など関係ない!」
ルネメスは苛烈な性格だ。主人公の仲間になったのも命の危機を助けてくれたからであって敵対したものと仲良くさせる予定はなかった。
(もしかしたら敵キャラになってしまうかもな)
それはなんとしても避けたい。
ルネメスは本当に強いからだ。
虚空を司るその力は無条件ですべてを無に帰す。さらにその無まで滅ぼすレベルだ。
本当は終盤の中頃に仲間になる予定だったんだが……
それに倒してしまうと無の空間は荒れ世界が均衡を保てないだろう。
最終手段ではアレを召喚するが……
(そうすると進み具合がグチャグチャになるんだよな)
今の時点でグチャグチャだがそこまで来ると再起不可能だ。
自分の思い描いている物語から予想が立てにくく──いや、ほぼ立てられない。
ルネメスが剣を持つ。
美しい紫色の剣だが同時に禍々しくもあった。
「言い残すことはないな?」
あの剣は“虚心剣”
掠りでもしたらそこから崩壊が始まり死に至る無慈悲な剣だ。
「ちょっとま──」
喋り終わる前に首に刃が届きそうになる。
(早ッ?!)
そういえば設定で“限りなく光速に近い”とかつけてたな……
「チッ! “冥界剣”!」
俺は冥界を一つにまとめた神の剣を持つ。
終盤では所有者は俺に移ってたからな。
「それはッ?!」
(あ…… ヤベ……)
冥界剣の所有者(現在)はルネメスの姉ヘルメスだ。
「ヘルメスお姉様からの連絡が途切れるのはいつものことだが、まさか貴様!」
誤解が深まった。
「ちが──あっぶなっ?!」
またも首筋に刃が触れそうになる。
(もう空亡を召喚するしか……)
空亡とは主人公が倒した中でもトップクラスの魔物だ。
なぜなら防御に関しては主人公と同レベル。
攻撃はルネメス並みの化け物だ。
そんな事を考えている間にも俺とルネメスは斬りあっている。
どちらかと言うと俺は受けているだけだが。
「“異次元虚崩”!」
「避けろ!」
“異次元虚崩”とは並行世界の弱い状態の相手を斬り、そのつながりですべての世界での対象を消し去る防御不能の技だ。
だが、それに構っている暇はなかった。
俺は肩に傷を負いつつもルネメスを抱き上げ移動する。
「なっ?! きさ──」
言い終わる前にルネメスがいた場所に火柱が立つ。
それは神をも滅ぼす神滅の炎だ。
「何でもう出てくるんだよ!」
俺は空に浮かぶ赤い球体に向かって叫ぶ。
ルネメスも気づき上を見上げると震えだした。
「あれは…… 空亡……?」
─キャラ設定──────────────
カリナ・フォン・アルヴェト
略称:なし
種族:人間 性別:女
髪色:金髪、毛先は黒
瞳色:金色
身長:142cm 体重:29kg
カップ数:ないも同然
年齢:10歳
一人称:わたし 二人称:きみ
エイトを呼ぶ時:エイトくん
アルヴェト公爵家の次女でありエイトの姉。ブラコン気質である。
ミリア・フォン・アルヴェト
略称:なし
種族:人間 性別:女
髪色:黒髪 瞳色:黒色
身長:174cm 体重:45kg カップ数:G
年齢:34歳
一人称:わたし 二人称:あなた
エイトを呼ぶ時:エイト
アルヴェト公爵家の婦人。エイトに限らずすべての家族に同等の愛情を持っている。
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〜裏話〜
ルネメスは困惑していた。
(助けてくれたのはありがたいが…… なぜ“異次元虚崩”を受けて生きているのだ?!)
空亡も三代にわたり最高神を滅ぼしてきた化け物だが、それ以前に別世界のコイツを確実に殺した。
なのに肩が切れているだけだ。
だが、一つ思い当たるフシがあった。
(まさか殺された瞬間に別世界の自分を蘇生した?)
それだけが“異次元虚崩”を逃れる唯一の方法。
(だが、もしそうならコイツ死なないんじゃ?)
この世界で殺すことが不可能と感じたからこの技を使ったが、それも無理なら本当になすすべがない。
(ともかく、今は空亡だ)
空を見上げると赤黒い太陽のようなものが浮んでいる。
(最悪、死を覚悟しないとな)
ルネメスと空亡のキャラ設定は次回掘り下げるので今回は書きません。
それと裏話等はルビを振れる本文の最後に書くようにします。