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「デュラン、本当に贈り物は必要ないのだろうか。失礼に当たるのではないか?」
「うーん、色々事情があってアナベル嬢はできる限りプロムのことを家族に内緒にしたいみたいなんだよね。
物とか贈ったらバレちゃうでしょ?
とりあえずはいらないっていうんだから言うとおりにして、終わってから何かお礼の品でも贈ったらいいよ。」
僕はアナベル嬢との顔合わせを終えてから、街の宝石屋に向かおうとした。
卒業式のプロムのパートナーにはドレスやアクセサリーを贈るのが習わしだからアナベル嬢に似合うものを何か探そうと思ったのだ。
だが、それにはデュランから待ったがかかった。
アナベル嬢が家族に内緒にしないといけない理由は僕のせいではないと言われたが、気になってしまう。ただ、相手の迷惑になるかもしれない事をするのもよろしくないと思い、今回はデュランのいう通りにすることにしたのだ。
アナベル嬢へのプレゼントは不要と言われたのでマリーにプレゼントを購入しようとしたが、それもデュランに止められた。
「それにしてもアナベル嬢、ますます綺麗になってたなぁ。アル、どう思った?」
「ああ、こんなに話をしたのは今日が初めてだが、思っていた印象と違ったな。もっとクールで近寄りがたい女性だと思っていたが、非常に話しやすくて安心したよ。これならば大丈夫だとは思うが、出来ればプロムの前にもう一度くらいお会いしてダンスの練習をしたいな。家族に内緒というのならそれも難しいのかな…」
「アル、アナベル嬢はすげー美人でスタイルもいい。おっぱいもでかい。みんなの憧れの存在なんだぞ?ドキドキしたりクラクラしたりとかないわけ?」
「シェリル嬢がキースの婚約者と聞いた時はクラクラどころかグラグラしそうだったよ。」
「そうじゃなくてさぁ。恋心とか芽生えたりしないのかって。はーっ。」
デュランは僕の事を残念そうな顔で見ながらこれ見よがしにため息をついた。
「なんでもかんでも恋愛に結びつけようとするのはやめろ。今日初めて話したような人を好きになるとか病気だろう。それに僕にはマリーがいるからな。」
「恋は病の一種なんですよーだ。アルのばーか。」
「いい加減にしろ。」
僕はデュランを軽く小突いて部屋に戻った。
それにしてもデュランは事あるごとに僕に女性を勧めてくるのが鬱陶しい。
何度僕にはマリーがいるからと言っても諦めないのだから。
まあ、マリーはデュランの母親だから複雑な気持ちはわかるし、僕もマリーやデュランの気持ちを蔑ろにするつもりは別にないのだ。
この国の貴族は王族は別として、政略結婚の場合もあれば恋愛結婚の場合もあり、多くは恋愛結婚だ。
政略結婚も家の都合で嫌がる2人を無理やりという事はほぼなく、相手がいない2人が納得すれば成される感じで、それなりに個人の事情は大切にされる。
貴族は血筋をそれなりに重要視するため、子供の頃から家同士の繋がりで囲い込み、恋愛結婚と見せかけた、遠回しな政略結婚となる場合もあるが、本人の気持ちが重要視されるからこそ親は慎重に事を進める。
国の宗教であるモンチェス教が愛を尊ぶ女神を祀っているのでそれが原因だろう。
そんな国の背景のおかげで、僕が子爵家のマリーと結婚することになっても歳の差も身分も違ったところでなんら問題はない。
2人の気持ちがあればいいのだ。
残念ながら未だマリーの気持ちを受け取るに至ってはいないのだが…
隣の国など、貴族のほとんどは政略結婚で、そこに自分の意志が反映されるのは珍しいとのことだ。
そのため、結婚相手以外に恋人がある場合も多く、不本意な結婚を強いられた夫婦が起こすトラブルも少なくないと聞いた。
初夜に「君を愛することはない」などと言われ、婚家で虐げられた貴族の女性が家を捨ててこの国に亡命してきたという話も度々耳にする。
愛することがないのに結婚しなくてはならず、亡命までしなくてはその柵から逃れられないのは不幸なことだ。
僕だって愛していない女性との結婚は真っ平ごめんだ。
幸い僕の両親は子供の頃から相手を当てがってくる事もなく、今現在も僕の自主性に任せてくれている。
このままマリーが僕の気持ちを受け入れてくれなかったとしても他の人を愛することができる気はしないし、そうなると僕は一生独身で後継は親戚から選ぶことになるだろう。
僕はそれで良いと思っているのだが、デュランは納得できないらしい。
とにかくプロムの問題はデュランのおかげでなんとかなりそうだ。
デュランに相談するようにアドバイスをくれたマリーにもお礼を言わなくては。
僕はカフェレモーネでこっそり買っていたお土産のレモンクッキーの包みを手にマリーの部屋へ向かった。