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「ねえ、シェリー。アル様ったらとっても素敵だったと思わない?」


アナ様はベッドに腰をかけて足をパタパタ揺らしながら私に聞いた。聞いたと言ってもこれはもう独り言のようなもので答えは必要としていないやつだ。


私の母はアナ様の乳母で、私はアナ様と一緒に育てられた。

学園も一緒に通わせていただいて、公爵様には本当に感謝している。

うちは貧乏家族で公爵様の援助がなければ三女の私の教育費など捻出出来なかった。


アナ様は月の光を集めたようなサラサラの銀髪で瞳は光の加減で表情を変える黒真珠のように神秘的なグレーをしている。

長いまつ毛の下の涼やかな切れ長の目に形の良い高い鼻と薄い桜色の唇がバランスよく配置されていて、雪の妖精と呼ばれるほど美しい。

一見冷たい印象を与える容貌だが、性格は真逆で、朗らかで明るく楽しいことが大好きな方だ。


アナ様はお兄様が2人いらっしゃる末っ子で、公爵家唯一の女の子なので、皆様目の中に入れても痛くないほどアナ様のことを可愛がっていらっしゃる。

わがままに育っても仕方のない環境であるにもかかわらず、アナ様は美しく、優しく、聡明な女性に成長なさった。


誰にでも愛されるアナ様であるが、特に上のお兄様はシスコンここに極まれりといった状態で、行動の全てがアナ様中心にまわっている。

お見合いをしてもアナ様の話しかしないらしく、お相手のお嬢様方は呆れるか怒るかで2度と連絡が来なくなるそうだ。

いい歳の男性がニヤケ面で1日に何度もアナ様の様子を観に来るのは、ハッキリ言って気色悪…いえ、少々思うところがないわけではない。


上のお兄様がそのような状態なのでアナ様は婚約者もおらず、恋人作ることができず、去年のプロムのエスコートももちろんお兄様だった。

私はアナ様が不憫で仕方がなかったが、当のアナ様は全く気にしておらず「ヒュー兄様の方が知らない人より気が楽でいいわ」とお兄様と踊られていた。


そんなアナ様であるが、実は学園在籍中はお兄様に内緒でアルフレッド様のファンクラブに所属なさっていた。


アナ様はご自身が美しいからか、他人の美醜にはさほど興味がない。アルフレッド様は入学当初よりその麗しさで子女の耳目を集めていたが、その頃のアナ様はアルフレッド様には全く興味を持っていなかった。ただの後輩で赤の他人でしかなかったのだ。


ところが13歳の時、私はデュランの兄キースと婚約を前提にした家同士の交流を持つようになった。

派手さはないが真面目で、細やかに人の気持ちに寄り添える性格のキースを私は好ましく思い、それなりに仲良くやり取りを続けることができた。


キースの家は家族仲が良いので、交流の中で私はご家族とも距離を縮めていき、その際に乳兄弟であるデュランがアルフレッド様の話をしているのを聞くこともあった。


もちろんボーデン公爵家に仕える身でありながら、家の内情をバラすような真似をするデュランではない。

大概は当たり障りのない日常のやり取りの話ではあったが、面白い話があれば、私は時々アナ様にも四方山話としてお伝えしていた。

その話のどれがアナ様の琴線に触れたのかわからないが、アナ様はアルフレッド様に興味を持ち、ファンクラブに入会してこっそりと追いかけるようになったのだ。


愛や恋ではないし、学園と同時にファンクラブも卒業なさったアナ様であったが、先日デュランから思いがけない申し入れがあった。

アナ様にアルフレッド様の卒業プロムのパートナーになって欲しいという。


なんでもアルフレッド様のファンクラブが抜け駆け禁止令を出し、ファンでなくても目を付けられるのを恐れた他の方を巻き込んでアルフレッド様のパートナーになる方がいなくなってしまったそうなのだ。


デュランにはアルフレッド様の私物や情報を横流ししてもらうために、アナ様がアルフレッド様のファンである事を伝えていたのが功を奏したのだろう。

アナ様であれば、学園を卒業してしがらみがないし、年も身分も学園生の誰よりも高いため誰も文句は言えない。良い選択だと私も思う。


その事をアナ様に伝えたところ、いちもにもなく大喜びでお受けなさったが、問題はお兄様だ。

バレたら絶対に邪魔をされるのが目に見えている。

どうにか対策を考えなければと思いながらもとりあえずの顔合わせということで本日はカフェレモーネに伺った。


普段からあまり不機嫌になることはないアナ様だが、今朝からの浮かれ具合はかなりのもので、お兄様が本日不在でよかったと私は胸を撫で下ろした。

もしお兄様に会っていたらすぐにバレて、プロムに参加できないように手回しされてしまっていたに違いない。


久しぶりに見たアルフレッド様は相変わらず中性的で整った甘いお顔立ちでいらっしゃった。

背は少し伸び逞しくなったような気がする。

話し方はやや硬く、フレンドリーなタイプではないが、誠実で真面目で優しい人柄を感じることができた。


アナ様とアルフレッド様は隣に並ぶとまさに美男美女でお似合いだと思うのだが、2人の間に甘い雰囲気は全くない。

アナ様はお気に入りの物語の登場人物を目にしたような反応だし、詳しいことはわからないがアルフレッド様は恋愛面で何か大きな問題があるとデュランは言っていた。


2人の仲が進展しなかったとしてもアナ様が楽そうなので、それはそれで良いと思う。

当面の目標はお兄様のヒューベルト様の目をいかに掻い潜るかだ。

私は必死に頭の中で策を巡らせていた。


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